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チャプター22:「介入」

 海岸から近い内陸部の一地域に、この異世界の人々の住まう一つの小さな集落がある。

 この地は元よりは平和な小さな王国の領土。しかし侵略により今はグテュスリオ魔帝国の支配下に落ちており、この集落も例外では無かった。


 そして今。その村中で一つの騒動が、暴力による不条理が発生していた。


「ぐぁ……っ!」


 村の中心の開けた場。そこで今まさに、一人の十代後半程の少年が、殴打を受けて地面に投げ出される光景があった。


「煩わしい……この得体の知れぬ事態の最中に、駄犬の小僧が邪魔立てを……!」


 その少年の前に立つは、一人の二十歳から少し程の女。

 まだ若い身空のようだが、しかし纏うは魔帝軍将校の軍服であり、そして階級も上級将校のもの。

 その女将校は今にあっては。まだ熟練・老練とは程遠い、美麗な金髪に飾られるその可憐な顔に。しかし不愉快の色を一杯に作って少年を見下ろし、いや見下している。

 今に少年を殴打したのは、他ならぬその女将校。



 集落及びその周辺は現在、魔帝軍の一部隊が占拠から逗留しており。

 その部隊に、そしてそれを指揮する女将校の元に。つい今程に、海岸の艦隊及び逗留部隊が異常事態に、正体不明の巨大な攻撃に遭ったとの報が舞い込んだ。


 その突然の知らせからの事態に応じるべく、部隊は慌てふためき準備に掛かる事となっのたのだが。


 その際に部隊が併せて行い始めたのは、集落からの物品物資の強制押収。いや、略奪。

 得体の知れぬ事態を前に、とにかく利用できる物品物資を欲し。村人たちから取り上げる行為。


 しかし。魔帝軍の部隊が集落を占拠して以来、彼らが村人たちに働いた横柄横暴は数々に渡り。

 その果ての集落からの有無を言わせぬ押収、いや略奪に。

 ついに村の少年が憤慨から、魔帝兵たちに逆らい阻むために、訴え食らいついたのであった。


 だが少年その行為は儚くも、屈強な魔帝兵たちに阻まれ挫かれ。

 そして兵たちに捕まえ押さえられた少年は。

 場の指揮官たる女将校より。元より高慢のきらいが見え、そして今は不明瞭な状況に対する苛立ちに追われていた彼女より。

 その腹いせも混じった、不条理な仕打ちを受けるに至った。


「兄ちゃん!」

「兄ちゃぁっ!」


 その少年に次に駆け寄って来たのは、幼い男の子に女の子たち。それは少年の弟妹たち。

 隠れ様子を見守っていたが弟妹たちは、しかし理不尽の仕打ちを受けた兄の姿に。じっとしていられずに出て来てしまったのだ。


「二人とも、来ちゃダメだ……!」


 そんな弟妹に下がるよう訴える少年だが。二人は聞かず、少年の身を案じて縋り寄りしがみつく。


「フン、汚らしい駄犬がわらわらとっ」

「っ!」


 その子供たちの姿に、しかし女将校が向けたのは、また蔑む言葉に視線。

 弟妹までもを侮辱するそれを聞き留め、少年は再び怒りを覚え、女将校を睨み返す。


「不快な……小汚い駄犬が私を睨むなど……っ!」


 しかしそれは女将校の神経を逆撫で、不快感をさらに煽ることとなった。


「兵!始末を……いや。この不快な駄犬は、私が直接甚振り殺してくれよう」


 そして配下の兵に命じかけた女将校は、しかし次にはそれを取り下げ。己が直接手を下す意思を、その可憐な顔にサディスティックな笑みを作りながら示す。


 そして、次に彼女が片腕を翳し、その手の上に生み出され現れたのは――ハンドボールサイズの漆黒の球体。

 まるで、「闇」が炎のように揺らめくその物体は。明かせばこの異世界にて、「魔弾」と呼ばれるもの。

 この世界に存在するエネルギーである「魔力」を、「魔術」によって形作り攻撃の術とするもの。


 「闇」の特性を持つ魔力によるそれは、魔術の中でも上位のもの。

 女将校の彼女は、その身に「闇」を体現する魔力を。そしてそれを扱いうる才を携え。

 それを持って、その若い身でしかし魔帝軍将校へとのし上がった経緯を持った。


「……っ!」


 それを目の当たりに、少年は目を剥き。弟妹は目に見えて怯えを見せる。


 そしてしかし、そんな少年たちを。周りを囲う魔帝兵たちが武器をちらつかせて逃げ道を塞ぐ。

 上官である女将校の、これよりの「狩り」を。「獲物を甚振り愉しむ」行為を助けるもの。


「くくっ、駄犬の分際で私に逆らった、愚かな行為を悔いるがいいっ」


 そして女将校は、愉し気に加虐的な笑みと言葉で紡ぎながら、少年たちに宣告の言葉を降ろし浴びせる。


「兄ちゃん……!」

「兄ちゃ……!」

「っ!」


 それを前に、弟妹は少年に縋り寄り。

 少年はせめてもと、二人の弟妹を自分の背後に隠し庇う。


 そして、そんな少年たちに向けて。女将校の腕先が無慈悲に動き、凶悪な闇の魔弾が放ち降ろされる――



 ――大きな爆炎が。

 その場、ではなく。背後の、集落の外部で巻き起こり上がったのは直後だ。


「……は?」


 それに意識を強制的に持っていかれ。

 女将校は背後を見て、そして見に飛び込んで来たものに。ここまでの加虐的な色から一転、呆けた声を漏らした。


 見えたのは、集落の外部で隊列を組み始めさせていた陸竜騎の隊伍に。または陸竜に引かせる補給の馬車などが。

 軒並み爆炎に包まれ、巻き上げられ吹っ飛ぶ光景。


「……なぁ!?」


 次には理解が追い付き、目を剥き声を上げる女将校。

 そして驚くは、少年たちも同じ。


 直後だ。

 集落を、その少年たちに女将校の真上周辺を。無数の飛行物体が、けたたましい音を響かせて、飛び抜け現れたのは。


 それ等は、彼ら彼女らにとっては見た事も無い、無数の怪鳥の群れ。


 ――回転翼機、ヘリコプターの編隊。そのヘリボーンの開始された光景であった。

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