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チャプター20:「藻屑」

 ――「それ」は。

 晴天の霹靂という言葉で表現するには、皮肉なまでに合っていて。そしてしかし、同時にあまりにも度を越していた。


 巻き起こったのは――破撃。


 後方警備のために留まり、海岸近海に錨を降ろしていた、ガレオン船やキャラベル船からなる魔帝軍の艦隊。

 その只中にて――破壊の爆裂が発生。

 主力の一隻たる大型ガレオン船が――しかし。巨大過ぎる爆炎に包まれ、そして粉微塵に吹き飛んだ。


「……は……?」


 少し離れた位置で錨を降ろしていた、この艦隊の旗艦である大型ガレオン船より。艦隊の指揮官である男はそれを見た。

 いや、目の当たりにさせられた。


 つい今程まで。

 この海域に留め置かれている事から、不満を漏らし指揮の低下を隠さぬ配下の船乗りたちを。「どうにかして叩き直さなければ」、などと頭を悩めていたその指揮官。


 しかしそんな悩みを綺麗さっぱり、文字通りの様に吹っ飛ばす形で。

 指揮官の男の眼前、向こうで。

 指揮下の大型ガレオン船が、その巨大な船体が。しかし一瞬で、消滅に近いそれで爆散したのだ。


「……なぁ……っ!?」


 次には驚愕に、意識よりも前にその口から声を漏らす指揮官。

 そしてしかし、本来ならば敵襲をすぐさま判断し。戦いの命令を張り上げ飛ばすのが、指揮官の成すべき行動であったのだろうが。

 それは、怒涛の如きで続け様に巻き起こった。さらなる破砕の現象光景によってねじ伏せられた。


 たった今のガレオン船の爆散を皮切りに。

 周囲に停泊していた魔帝軍艦隊の各船が、次から次へと掻きこそいで消すかの如きで爆散。


「……うぁ……!?」

「な……なんだよぉ……っ!?」


 耳がどうかしてしまいそうな、無数の爆音に。感じただけで引き千切られてしまいそうな、破砕の起こりに衝撃。


 さらに、見た事も無い規模の無数の水柱が。それに伴う土砂降りの如き水飛沫が舞って覆い。

 指揮官始め魔帝軍の船乗りたちを困惑に、いや大混乱と恐怖に陥れた。


 さらに同時に進行で。無数の爆炎は海岸陸地にも至り、まるで撫で浚えるように。

 陸地の陣を張っていた魔帝軍警備部隊や、陸で作業に当たっていた水夫たちを。何の差別区別も無く「消し飛ばして」行く。


「……何が……!……なにごと……!?」


 突如として始まり、見せつけられた光景に。指揮官は声を漏らし上げ、狼狽から緩慢に慌てふためく事しかできずにいる。

 そしてそれは、旗艦の船上に立つ船乗りたちも同じ。


 今は後方に留め置かれて、少しのゆるみが生じていたとはいえ。指揮官率いる艦隊は、幾度も荒事を潜り抜けて来た海の荒くれたち。

 並みの事で取り乱したりはしない……そのはずであったのに。


 しかし、その荒くれたちは今。恐怖すら感じる前に、あまりに想像を逸脱した出来事に思考を奪われ。

 意識に視線を周りの破撃の光景に持っていかれ。緩慢に狼狽の様を見せることしかできずにいた。


「……ぁ」


 その中で、その船乗りたちの中から。最早無意識のそれで、誰かが小さく声を漏らした。

 そして次にその誰かを始め、指揮官や船乗りたちに聞こえ届いたのは――空気を切り裂くような不気味な音。


 一瞬の後に、より明確になったその音は。

 正体は不明なまま、しかし船乗りたちに「何らか」が接近する音であることを――併せてそれが、「終わり」を携えてのものである事実だけを。残酷にも理解させる。

 そして――


 指揮官たちの乗る大型ガレオン船の旗艦が――爆砕。


 飛来し、ガレオン船に飛び込むと同時に巻き起こった、巨大な破壊の暴力は。

 乗組員である指揮官に船乗りたちを巻き込み。痛みも理解も及ぶより前に、塵屑かのように消し飛ばし。

 ガレオン船を巨大な爆炎に包み、そしてほとんど消滅のそれで撃破。轟沈に至らせた――




「……ぶぁっ……なんだよ……これ……?」


 海上海面で、元は船であった板切れに掴まる、一人の屈強な船乗りの男の姿がある。

 乗船の爆沈から、しかし甲板から放り出されたことが幸いし、奇跡的に生き残ったその船乗りは。

 しかし怯えの混じった声色で漏らした。


 無理もなかった。

 卑しくも魔帝国海軍の一艦体。

 それも、此度でこそ後方警備に当てられていたが。ここまでの戦歴は決して見劣りするようなものでは無かった彼らの艦隊が。


 しかし。正体不明であまりにも巨大な、「おそらく」攻撃に。

 その、まるで念入りに「掃き浚える」かのような巨大な破撃に晒され。

 そのほとんど全てが。僅かの間に、文字通り完膚なきまでに、海の藻屑へと果てたのだから。


 さらに背後。同時進行で、それもやはり撫で浚えるまでに執拗なそれが向けられた海岸では。

 無事な場所などどこにも無い程に、浜の見える範囲の全域に、まんべんなく大穴が開けられ。

 そこかしこから煙に火の手が上がる様子がありありと見えた。


「こ、こんな……えっ……!」


 最早表現の言葉も紡げず、呻きに近い声だけを漏らしかけた船乗りは。

 しかし直後には何か異質な「音」を聞き留め、同時に何かの気配が近づき。

 そして、霧の向こうより「それ等」が現れるのを見た。


 霧の向こうより、まるで亡霊のように現れたのは、いくつもの船。

 船体の大きさこそ、スクーナーやスループなどと同じ程か、もしくは小柄にも見える程。


 しかしだ。それは船乗りの男が知る「船」の形態とは、あからさまに異なる「異様」なものだ。


 それ等の船には、風を受ける帆も無ければ、波を割って漕ぐ櫂も見当たらない。

 だというのに、何か不自然に速い航行速度で。浜へと、こちらへと近づいてくるのだ。


「うわ……く、くそ……っ」


 しかしその詳細こそ不明だが、今の状況からそれが味方であるわけは無く。まず間違いなく、今の魔帝軍艦隊が陥れられた惨劇の、その体現者に関わる存在。

 敵の先鋒。

 その考えに至るのは、残酷なまでに容易かった。


 それが、「仕留め損ねた」己達を始末しに来た。

 それしか考えられず、船乗りの男はついに悲鳴に近い悲観の声を漏らす。


《――生存者に告ぐ、周辺の生存者に告ぐ》


 しかしだ。その船乗りの男が次に聞いたのは。何か響く、だが異質な音声での言葉だ。


《えぇと――グテュスリオ魔帝軍将兵の生存者に伝える。こちらはVAC AF。戦闘放棄、投降の意志があるならば崖、半島の根元を目指せ》


 その発生源は、出現した船の群れの内の一隻から。

 そして異質な音声で届けられたのは、そんな呼びかけの言葉だった。


《繰り返す、半島根本まで移動し、そこで投降の意志を提示せよ。重症者が居る場合は所在を示せ、それに限りこの場で回収保護する》


 さらに届けられ聞こえたのは、そんな促し説明する言葉。


《これより多数の舟艇が押し寄せる。意図して避難しなかった者、抵抗の意志を見せた者には生命の保障は無い。投降するなら最低限の生命と扱いを保証する、その意志があるなら指示に従い指定地点へ移動せよ》


 異質な音声で捲し立てられる、そんな勧告の言葉。

 そしてそれを聞かされ呆然とする船乗りの男の向こう近くを、その異質な小型の船の一隻が。

 その船上に、何か物々しく異質な構造に、装備らしき物の数々を見せながら。


 しかし先の恐怖の破撃から一転、船乗りの男に危害を加える事は無く。通過時に発生した波で男を少しだけ揺らして。

 浜へと向かい通り過ぎて行った。


「……!」


 少しだけ、呆然とそれを見送った直後。

 しかし船乗りの男は、今に呼びかけられた言葉の内容に。半ば無意識のまま引かれるように、示された半島を目指して泳ぎ始めた。

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