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チャプター19:「咆哮」

 海上に突き出る形状の崖の上に、忘れ去られたように存在していた古代の遺跡施設。

 招かれざる来客、魔帝軍が押し寄せ。その兵たちによって占拠されていた施設の内で。


 しかしその兵たちを、文字通り音も立てずに屠り。沈めていく「動き」が進められていた。



「かぁ゛……!?」


 場所は施設の屋上空間。

 そこに立っていた見張りと思しき魔帝兵が、濁った断末魔を上げて崩れ沈む。


「――ダウン。他はナシ」


 それと入れ替わるように、屋上と下階を繋ぐ出入り口から現れたのは、先程に上陸潜入を成したコマンドーの士官。

 その手に構えられるは、消音器を装着したサブマシンガン。

 それが今に、見張りの兵を撃ち抜き沈めたのだ。


 続け様に屋上空間に視線を走らせ、その他に敵影が無い事を確かとし。士官はその旨を、自身のバックアップに着いているコマンドー隊員に告げ。

 二名は屋上に踏み出て、また視線を周りに流す。


「異質な遺跡だな。何か見慣れない機械装置の類が詰め込まれてる、聞いていたこの世界の文明基準ともまた違うものだぞ」


 周囲を警戒しつつも、零したのは士官の相方のコマンドー。その言葉は、コマンドーチームが遺跡への進入から、ここまで見て来たものについて言及するもの。


 言葉の通り。この遺跡の内部に存在していたのは無数の、そして「向こうの元世界」では見た事の無い、何らかの機械装置類の数々。

 そしてそれは、事前に聞かされていたこの異世界の文明とも、何かミスマッチなものであった。


「こちらの世界の、古代の文明のものだそうだが――非常に興味深いな」


 その古代文明がどういったものか、軽く想像するだけでも推察は多岐に渡る。

 そのことから、士官は背後を振り向き。遺跡施設の基よりシンボルのように立つ塔――ひょっとしたらまた何らかの施設機器かもしれないそれを見上げつつ。

 そんな言葉を零す。


「この興味深い場所を、「間違って吹っ飛ばさない」ためにも。半端な仕事はできないぞ」


 そしてしかし続け、士官はそんな事を零すと合わせて、相方のコマンドーに目配せで促し。

 二名はそこから屋上にて、「任務」のための「作業」に取り掛かる。


 次には装備の背嚢から、何かいささか物々しい機械装置を取り出し。それを屋上に設置し始める二名。


 それは、これよりの「巨大な打撃」より。この遺跡施設を巻き込まないようにするための、「誘導」のためのものであった。




 遺跡施設のある海岸より、沖に大きく離れた洋上。

 本日はにあっては濃霧に覆われる気候となったその洋上に。

 ――いくつもの鋼鉄の巨体が。霧中にその物々しい姿を潜めるようにして、静かに「その時」を待っていた。


 いくつもの鋼鉄の巨体――それ等は軍艦、艦船。

 この幻想の世界の海に、まったく似つかわしくない鋼鉄(くろがね)の存在等は。異なる世界の、その海より時空を超えて来たりしもの。


 VAC AFの内に装備される水上戦闘部門――「艦艇隊」に属し。

 それより此度の「異なる地」での作戦のため、世界を越えての遠征任務を担った艦艇戦闘群だ。



 その内訳を見よう。


 艦艇戦闘群の旗艦を務めるは、〝誘導弾巡洋艦 VASロードジャーニー〟。


 満載排水量21000tを越える重巡洋艦。それに防空運用を主とする誘導弾(ミサイル)システムを増加搭載したもの。

 実際の所、その就役は遥か昔。

 一度は現役を退き、モスボールを兼ねた記念艦として展示に収まる身となっていた所を。しかし世界を死へと導いた大戦争が起こり。

 だが、ロードジャーニーはその被害を奇跡的に間逃れ。

 後にVACに回収され、その手によって再び大海へと繰り出る経緯を辿った。


 そのロードジャーニーを旗艦として。


 コマンド巡洋艦 〝フィクス〟。


 標準巡洋艦(排水量12000tクラスの大型軽巡、そのVACでの呼称)を原型とし。

 しかしその余裕のある船体を利用して、複数のヘリコプター及び舟艇の搭載、運用を可能とした一種のコマンド母艦。


 そしてフィクスの同じ艦級の、しかし改造は受けずに今も原形を保つ標準巡洋艦。〝クインス〟が、また1隻。


 さらに、

 防空軽巡洋艦2隻。

 艦級のそれぞれ異なる、駆逐艦が3隻。


 加えて。VAC AF 艦艇隊の内でも、近海沿岸防衛を担う「地域隊」より増援増強されたフリゲート艦が2隻。


 現時点で10隻のそれ等からなるのが、VAC AF 艦艇隊の各戦闘群より指定を受けて集合し。

 異界の海での「正面戦闘」を担うべく編成された、〝ロードジャーニー艦艇戦闘群〟だ。



 集ったこの艦艇等は、その多くは大戦争以前にすでに退役を迎えたもの。


 そのそれぞれの境遇は、モスボール状態にあった所で大戦争を迎え。しかし幸運にもその被害を逃れたものから。


 中には大戦争に参加、もしくは巻き込まれて一度は沈んだが。

 サルベージからレストアを受け、VAC AF 艦艇隊に加わった艦もあった。



 視点は。そんなそれぞれの境遇を持つ各艦艇の、その指揮を務めるVACロードジャーニー。

 そのCIC(戦闘指揮所)へ。


「――来たな」


 外部からの光を遮断し、いくつもの電気光源によって照らされる。数多の機械機器が所せましと並ぶCIC空間。

 その中心に立ち、端的に一声を紡いだのは一人の中年男性。

 若干の老いが見え始めながらも、しかし精強さを保つ容姿のその彼は。

 この艦艇戦闘群の群司令、ウォーヘン少将。


 その彼始め、CIC内の要員各員は。

 今の瞬間にCIC空間に響いた一つのブザー音を聞き留め。そして同時に一つのランプが点滅するのを見た。


「潜入コマンドーより「合図」、及び精密座標来ましたッ」


 そしてCIC要員士官の一名が、ウォーヘンに振り向き、そんな伝える言葉を発し上げる。


「了解――各艦へ伝えろ。座標誘導の元、各個に射撃を許可。精密に、しかし徹底的にやれッ」

「了ッ――ロードジャーニーCICより各艦――」


 要員士官の報告に、そう返されたウォーヘンの指示命令の言葉。

 それに要員士官はまた答え、自身の着くコンソールに向き直り。そして通信機器に言葉を発し始める。


 それをもって、今のウォーヘンの指示命令は艦艇戦闘群の各艦にもたらされ。

 下された「攻撃許可」から、それぞれの任務を実行すべく各艦はその動きを始める――



 ――ロードジャーニーが備える、二基の三連装砲塔の形態で装備される20.3cm口径の主砲が。

 重々しく見え、しかしその実体は精密な照準行動であるその動きで。洋上より陸地の方向へ旋回し、その砲口を向ける。


 その動きは、ロードジャーニだけではない。


 フィクス、クインスの両巡洋艦もまた。それぞれ複数基を備える三連装15.2cm砲塔を旋回させ、その砲口を海岸方向に向け。


 さらに各防空軽巡洋艦、駆逐艦、フリゲート艦も同じく。

 それぞれ備える主砲から備砲を、一様に旋回照準の動きにて陸地へと向ける。


 まるで各艦のその動きは、これよりの「打撃」の開始を。そして「敵」の撃滅をカウントダウンする時針のように錯覚させる。


 そして各艦の、いくつもの砲口が陸地海岸方向を向いて捉え。

 一拍の静寂が、霧に包まれる洋上を包み――しかし、直後。


 ――咆哮が。


 ロードジャーニーの全主砲砲門が、劈くまでの雄叫びを上げたのを皮切りに。


 各艦の各搭載砲が、まるで砲声にて大合奏を奏で始めたかの如きで。

 轟きを、そして砲口より爆炎を噴き上げ。


 向こうの海岸へ「敵」の軍勢の蔓延る陸地へ。

 膨大な砲弾による、死の雨を。そして炸裂の暴力を叩き込み始めた。

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