努力の果てに現れた、チートの向こう側
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毎日が、同じ繰り返しだった。
朝起きて、村の労働に出る。
雑草を抜き、桶を運び、転んで、笑われて。
夜はひとり、人目を避けて幻想術式の練習をする。
風よ。火よ。出ろ。出てくれ。出ろってば。
出なくても、やる。
失敗しても、諦めない。
「私は、“この世界”で、生きていくって決めたから」
そうして、何日が過ぎたのか、もうわからない。
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──数日後の朝。
「……ん、んあ……寒……」
村の空き家で、紗彩は毛布をぐしゃぐしゃにしながら寝返りを打っていた。
鼻をすすりながら、もう一度寝ようとしたそのとき。
「……ッ!?」
脳を直接叩くような電子音が、耳の奥で響いた。
【ピピッ】
「……ステータス画面の音……?」
まぶたを重く開くと、目の前に──“それ”は浮かんでいた。
最初に見た、あの絶望の詰み画面とは明らかに違う、光に満ちた画面。
【黒崎 紗彩】Lv.10(←New!)
職業:全聖
▶︎現世界、異世界全ての能力を引き出せる。
スキル:極全属性スキル
▶︎全ての属性スキルの最高位スキルを使用できる。
称号:特異者/万能
HP:不明/不明
MP:不明
筋力:不明
敏捷:不明
魔力適性:全適正
「………………………………」
静寂。
一秒。
二秒。
三秒。
──そして。
「なんでえええええええええええええええええええええええッッッ!!!!!????」
村中に響き渡る、紗彩の絶叫。
「意味がわからない!! いや待って!? まずLvマイナスからゼロにするのに何日かかった!? それがなに!? 突然10!? 二桁!? ファミレスのランクカードですか!? はいこちらシルバー会員様ですか!?!?!?」
「職業:全聖って何!? かっこよすぎるし意味わからないし、なにより“詰み”は!? 詰みはどこいったの!?!?!?」
「スキル、極全属性スキル!? 全属性!?
それもう最強じゃない!? 私、最強になったの!?
あと、MP不明ってなに!? それってつまり無限ってこと!? 違うの!? 教えて!! 誰か説明してよおおおお!!」
ベッドの上で暴れまわる紗彩。
毛布は宙を舞い、窓の外では鳥が飛び立ち、近所の鶏が逃げ出した。
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ガルド「……うるさい」
ティナ「またお姉ちゃんが変なこと言ってるー!」
リリィ婆(……やれやれ、また変なのが始まったねぇ)
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そして紗彩は──
「私の人生……チュートリアルが長すぎたんだよおおおおおおおおおおお!!!!」
全力の魂の叫びを、空に向かってぶちまけた。