働かざる者、パン貰うべからず。だけどステ詰みには地獄なんだが
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「よし……今日は、ちゃんと働く」
朝。
私は村の井戸の前に立っていた。
「もうスモールラビット狩りでドヤってる場合じゃない。村に住む以上、ちゃんと“貢献”しなきゃ……パンがもらえない……!!」
決意を固めた私は、井戸のバケツに手をかけた。
──そして、5分後。
「重っっっ!!!? 水ってこんなに重いの!? 水属性じゃないの!? 軽くなってくれないの!?」
見かねたおじさんが無言でバケツを取り上げ、代わりに運んでくれた。
「うっ……すみません……」
「……まあ、やる気だけはあるみたいだな」
ぽつりと、おじさんはそう言った。
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次は洗濯。
重い木桶に溜めた水を運ぼうとするが、また転ぶ。
泥水に突っ込む。
ティナがタオルを持って走ってくる。
「おねーちゃん、服ドロドロ~! あたしと変わんないね!」
「うん……むしろ“以下”だよ……」
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午後、私は村の畑で雑草抜きをしていた。
腰は痛いし、指はつるし、もうやめたいけど──
少しずつ、周りの目が変わってきた気がした。
「なんだ、意外と真面目なんだなあの子」
「転がってても、毎日ちゃんと来るしな」
「なんでそんなボロボロなのに笑ってんの?」
「いや笑ってるんじゃなくて、壊れてるんだよ……」
村人たちの笑い声が、少しだけ優しく聞こえた。
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夜。
誰もいない村の裏手。草の上に立つ私は、そっと手を伸ばした。
「……誰にも言ってないけどさ、やっぱり、諦めきれないんだよ」
幻想術式。
妄想だけで発動する、制御不能の異常魔法。
魔力も、適性もない。
でも私には、これしか“特別”がない。
「……お願い、今度こそ……」
ふっと風が動く気がした。
でも、それだけだった。
「やっぱり……難しいね」
火も、風も、出ない。失敗は数え切れない。
でも私は、それでもやめなかった。
翌日も、私は村の労働に参加する。
そして、夜になるとひとり、幻想術式の練習をする。
誰にも見られないように。
誰にも、知られないように。
それが、今の私にできる、精一杯だった。