火よ、今度こそ出ろ……って出すぎィ!!
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「ついに……来た……レベル0ォォォォ!!」
森の中、誰もいないのをいいことに私は両手を天に突き上げた。
「もうマイナスじゃない! 負の遺産じゃない!! レベル0ってことは、ここがスタートライン! スタート地点に立っただけでこの喜び……この世界どれだけハードモードなんだよおおおお!!」
思わずその場で地面に寝転がり、意味もなくバタバタ転がる。
……いや、うん、実際喜んでる場合じゃない。
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その日の午後。
スモールラビットを5体くらいしばいて意気揚々と帰村した私を、リリィ婆がにこやかに出迎えた。
「ふふ、おかえり。狩りの成果は?」
「ばっちりです。1日1ラビットをノルマにすれば、私の存在意義もあります!」
「で?」
「……で?」
「パンは?」
「……持ってません」
「働かざる者、パン食うべからず。ねぇ」
「ぐはっ」
ぐうの音も出なかった。
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「このままじゃ……また“役立たず”って言われる……なんかこう……魔法っぽいこと、できないかな……」
私は再び森に出て、倒したスモールラビットの死体に向かってひとりぶつぶつと妄想を始めた。
「炎の魔法で料理したら“焚き火係”として認められる……それって異世界生活の最初の成果としてベストでは……?」
私は両手を掲げる。
「今こそ再び我が妄想の力を……! 燃えろ、幻想術式(勝手に名付けた)!!」
イメージは完璧。発動構文もそれっぽく叫ぶ。
「イグナイト・フレイム!!」
……その瞬間。
ズバァァァァァァンッ!!!
「ぎゃああああああああああああああ!!!???」
地面が吹き飛び、ウサギも吹き飛び、何より私が吹き飛んだ。
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「ちょ……ちょっと……焦げてるだけで済んでる!? 奇跡か!?死ななくてよかった!」
髪はチリチリ。顔は真っ黒。煙を上げながら、ふらふらと私は村へ戻った。
門をくぐるや否や、目の前にいた子どもたちが指さして爆笑。
「なにあれ!?」「おねーちゃん、すすまみれー!!」
「あ、これ違うの!! 魔法の実験でちょっと……」
「ちょっとでそれ!?」
ティナが心配しながらも笑いを堪えている。
ガルドは無言でそっぽを向いたが、肩が震えてる。笑ってるなあれ。
「ちが……これは、あの……成長痛みたいなやつで……」
「ま、先は長いねぇ」
リリィ婆もくすっと笑って、私の肩に毛布を掛けてくれた。
「とりあえず、風呂入りな」
「……はい」