火よ、出ろ……出ろってばああああああああ!!
「ふぅ……今日こそ、出す」
私は村の外れ、畑の裏に作られた焚き火スペースで仁王立ちしていた。
向かいに座るリリィ婆が、いつものように湯を啜っている。
「で、今日は“火”を出すと?」
「はい。異世界魔法といえば火! 火球! ファイアボール的ななにか!!」
「でも魔力は?」
「ありません! でも妄想はできます!!」
「うーん、本格的にヤバい子みたいな台詞だねぇ」
リリィ婆の苦笑いを受け流しつつ、私は構えた。右手を前に出す。
「いいか私、火球の出し方は完璧に妄想済みなんだ。詠唱も、発動イメージも、エフェクトの形状もバッチリ!」
私は叫ぶ。
「燃えろ我が右手ッ!! 炎よ集いて砕けろ、ファイアクラーッシュ!!!」
……。
「…………」
……。
「…………あれ?」
沈黙が場を支配した。
「……ちょっと待って、今すごいイメージしたよ!? 赤い火球が螺旋を描いて、パーン!って爆発するところまでバッチリだったよ!? なんで!? なんで出ないの!? ねえ!!」
「うん。なんも出てなかったねぇ」
リリィ婆は湯をすする音だけを響かせていた。
「……先は長いねぇ」
⸻
◆ ◆ ◆
⸻
翌日。
私は再び森にいた。
「いいんだ……火なんて出なくても……倒せば経験値は入る……レベル上げ、するぞぉおおおおおおおおおおお!!!」
怒りに燃えた私は、木の棒片手にスモールラビット狩りに出た。
1匹目──殴った!倒した!
2匹目──転んだ!でも踏みつけた!
3匹目──妄想しながら飛びかかって、回転しながら叩き落とした!
戦闘というよりも、偶然と勢いと変なテンションでどうにかなってたけど、
なんか、ちゃんと“勝てて”いた。
⸻
そのときだった。
目の前に、あのステータス画面が浮かぶ。
【黒崎 紗彩】
Lv. 0(←New!)
職業:詰み
スキル:詰み
称号:Lv-/特異者
「………………ッッ!!」
私は両手で画面を掴むようにして、叫んだ。
「やっっっっとゼロおおおおおおおおおおお!!!! いや遅いわ!!! レベルって普通プラスから始まるんじゃないの!? なに!? この世界、始まりがマイナスなの!? 詰みって言われて本当に詰んでたの!?」
もはや地面に倒れ込んでツッコミまくる私に、森の鳥たちが引いて逃げていった。
でも私は笑っていた。
確かに“前”に進んだ気がしたから。