レベル-5、まずは1を目指します
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「……あんた、魔法は無理だよ」
朝、村の裏手。湯を沸かしながら、リリィ婆ははっきりと言った。
「魔力が流れてない。測定器も反応しなかった。つまり、あんたには“術式を流す回路”そのものがないんだよ」
「……ですよねぇぇぇええ!!」
私は地面に崩れ落ちた。わかってたよ。わかってたけどさ!!
「でも、じゃあどうすれば……異世界きたのに……チート能力もなくて……無理ゲーすぎるでしょ……」
「チート能力? なんだいそれ」
婆さんがくつくつと笑う。
「……魔法が無理でも、生きる術はいくらでもあるさ。まずはそうだね――レベル、上げてみな」
「……え?」
「そもそもレベルがマイナスなんて、あたしの人生でも聞いたことないけど……多分、何かしらで“経験”を積めば、数字は動くはずさ」
「つまり、私にも……ワンチャン“レベル-4”になれる……?」
「夢が小さいねぇ、あんた」
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そうして私は、レベル上げのために村の外――森の入り口までやってきた。
「ここって、昨日ウサギに吹っ飛ばされた森なんだけど……」
「でも、あれはキングラビット。今日は違う。スモールラビット。名前がかわいい。かわいい名前の敵はだいたい弱い。大丈夫大丈夫大丈夫……」
自分に言い聞かせながら、私は手にした木の棒を構える。
──ガサガサッ。
「来た……!」
草陰から飛び出してきたのは、昨日のよりひとまわり小さなウサギ――スモールラビットだった。
「見た目はかわいい! でも私が今必要なのは経験値!! ごめんねウサギ、私は前に進みたいだけなんだぁあああああ!!」
振り下ろした棒が──当たった。
「やった!? 当たった!!」
だがスモールラビットはひょいと跳ねて、こちらの顔面めがけて反撃!
「ぐふっ!?」
後ずさりながらも、私は叫んだ。
「今こそ……!私の剣技を喰らええええ!」
紗彩はアニメで見た風を纏う剣技を思い出しながら棒を振り下ろす
すると──
ビリ、と空気が震えた。
ほんの一瞬、風のような“なにか”が手元を走った。
スモールラビットの動きが、ピタリと止まる。
──そして次の瞬間、突風のような力に押されて、ウサギはバランスを崩し、木の根に頭をぶつけて倒れた。
「……え?」
「……勝った……!?」
私は呆然としながら、静かに倒れたスモールラビットを見下ろした。
「これ……私の力…なの?」
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その夜、私はリリィ婆に報告した。
「なんか……風が出たんですよ。無意識に。棒を振り下ろしただけなのに……」
「ふむ……」
リリィ婆は静かに湯を啜るだけだった。
「術式回路がなくても……魔法が出るって……ありえるんですか?」
「……さぁね。でも、できる方法があるのかもね」
それきり彼女は語らず、私は空き家に戻った。
ベッドに倒れ込みながら、私はそっとつぶやいた。
「これが……私だけの力……?」