『村生活スタート、でも“詰み職”は信用されない』
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──翌朝。
「……はあ」
私は見知らぬ布団の上で、天井を見上げながらため息をついた。
あのあと、剣でウサギを一撃粉砕したガチムチ男に連行され、
簡単な治療を受けて村の空き家にぶち込まれた。
「異世界で目が覚めて、翌日にモンスターにボコられて、助けられて、宿代も払えないからボロの空き家……って、これもう異世界ホームレスじゃん……」
昨日、村の人々は私を遠巻きに見ていた。
そりゃそうだ。森の中から女がひとり叫びながら駆け込んできて、
詰んでるとか叫んでたんだもの。普通に不審者だよ。
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「お、起きたか。とりあえず水飲め」
バサッと扉が開いて、例のガチムチ登場。
村の守備隊長・ガルドという名前らしい。今朝も眉間にシワを刻みながらの登場である。
「……どうも、昨日は命を助けていただき……」
「礼はいい。で、あんたは何者だ」
私は正直に答えた。
「異世界オタクです」
「……は?」
「異世界的に言うなら……旅人。えっと……記憶喪失……っぽい? 魔法は……使え……ない……し、戦闘も……その……できない系の……」
「つまり、何もできないと」
「はい」
「村から出てけ」
「即時通告かい!!!???」
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そのあと、村長であるリリィ婆が間に入ってくれて、
「まあまあ、とりあえず様子を見ようじゃないかねぇ」ということで、私は数日の猶予を得た。
ただし条件はひとつ。
「働け。働かざる者、パンを食うべからず」
私はこうして、詰みステータスでの村労働体験に突入した。
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薪割り → 無理(斧が重くて腕が震える)
水汲み → 無理(バケツ持った瞬間に腰が死んだ)
洗濯物干し → 干してる途中で全部風に飛ばされた
「え……ここって、詰みキャラに厳しすぎない……?」
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「おねーちゃん、これ食べて!」
お昼時、汗だくで地面にうなだれていると、
小さな手が焼きたてパンを差し出してきた。
見上げると、昨日も少しだけ話した少女、ティナだった。
12歳くらい。元気で、よく笑う子。
「ありがとう……でも、あたし本当に何もできてないから……」
「そんなの気にしなくていいよ! あたしも最初、ぜーんぶ失敗したし!」
パンをかじるティナの笑顔に、私の心が溶かされていく。
「……もうちょっと、がんばってみるかな……」
なんのスキルもない。ステータスは詰み。
魔力もゼロ。でも。
「私は……まだ、なにもしてないだけ、かも」
夕暮れの村の空を見上げながら、私はもう一度、自分に言い聞かせた。