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3/10

『村生活スタート、でも“詰み職”は信用されない』


──翌朝。


「……はあ」


私は見知らぬ布団の上で、天井を見上げながらため息をついた。


あのあと、剣でウサギを一撃粉砕したガチムチ男に連行され、

簡単な治療を受けて村の空き家にぶち込まれた。


「異世界で目が覚めて、翌日にモンスターにボコられて、助けられて、宿代も払えないからボロの空き家……って、これもう異世界ホームレスじゃん……」


昨日、村の人々は私を遠巻きに見ていた。

そりゃそうだ。森の中から女がひとり叫びながら駆け込んできて、

詰んでるとか叫んでたんだもの。普通に不審者だよ。



「お、起きたか。とりあえず水飲め」


バサッと扉が開いて、例のガチムチ登場。

村の守備隊長・ガルドという名前らしい。今朝も眉間にシワを刻みながらの登場である。


「……どうも、昨日は命を助けていただき……」


「礼はいい。で、あんたは何者だ」


私は正直に答えた。


「異世界オタクです」


「……は?」


「異世界的に言うなら……旅人。えっと……記憶喪失……っぽい? 魔法は……使え……ない……し、戦闘も……その……できない系の……」


「つまり、何もできないと」


「はい」


「村から出てけ」


「即時通告かい!!!???」



◆ ◆ ◆



そのあと、村長であるリリィ婆が間に入ってくれて、

「まあまあ、とりあえず様子を見ようじゃないかねぇ」ということで、私は数日の猶予を得た。


ただし条件はひとつ。


「働け。働かざる者、パンを食うべからず」


私はこうして、詰みステータスでの村労働体験に突入した。



薪割り → 無理(斧が重くて腕が震える)

水汲み → 無理(バケツ持った瞬間に腰が死んだ)

洗濯物干し → 干してる途中で全部風に飛ばされた


「え……ここって、詰みキャラに厳しすぎない……?」



◆ ◆ ◆



「おねーちゃん、これ食べて!」


お昼時、汗だくで地面にうなだれていると、

小さな手が焼きたてパンを差し出してきた。


見上げると、昨日も少しだけ話した少女、ティナだった。

12歳くらい。元気で、よく笑う子。


「ありがとう……でも、あたし本当に何もできてないから……」


「そんなの気にしなくていいよ! あたしも最初、ぜーんぶ失敗したし!」


パンをかじるティナの笑顔に、私の心が溶かされていく。


「……もうちょっと、がんばってみるかな……」


なんのスキルもない。ステータスは詰み。

魔力もゼロ。でも。


「私は……まだ、なにもしてないだけ、かも」


夕暮れの村の空を見上げながら、私はもう一度、自分に言い聞かせた。


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