『目を覚ましたら、誰かがまだ眠っていた』
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暗闇の中に、誰かの声がした。
「……さあや、おねーちゃん……聞こえる?」
遠くから聞こえる声に、私はゆっくりと瞼を開けた。
「……ここ、は……」
見慣れた木の天井。藁ぶきの天井。
ああ、村の空き家だ。
いつもの──いや、何かが違う。
隣で声をかけていたのはティナだった。
その小さな瞳が、涙で潤んでいた。
「おねーちゃんっ……よかった、生きてて……!」
「……私……どうなってたの……?」
「モンスターやっつけたあと、どーんって倒れちゃって……。みんなで運んだの」
その言葉で、思い出した。
炎。雷。水。風。
妄想のままに放った幻想術式。
そして最後に、意識が闇へと落ちたことを。
だが、それより──
「リリィ婆は!? リリィ婆はどうなったの!?」
私の叫びに、ティナは小さくうつむいた。
「……まだ、起きてないの」
その言葉を聞いた瞬間、私は毛布をはねのけ、飛び起きた。
「行く……リリィ婆のところに、行く!!」
「ま、待って! まだ本調子じゃ――」
「それでも行く!!」
ふらつく足を無理やり前に出し、私は外へと駆け出した。
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◆ ◆ ◆
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リリィ婆の家の前。
門の脇に座っていたのは、ガルドだった。
傷が癒えかけた顔に、以前より険しい影が差している。
私が駆け寄ると、彼は立ち上がり、冷ややかに言った。
「……何しに来た。」
「違う。私は、お婆さんを……助けに来た」
その一言を言うと、彼はしばし沈黙した。
そして、わずかに目を細めて、道を開いた。
「なら、好きにしろ。」
私は頷いて、家の中へ入った。
中は薄暗く、薬草と火の匂いが漂っていた。
寝台の上に横たわっているのは──
かつての威厳ある姿からは想像できないほど、痩せ細ったリリィ婆だった。
「……うそ、でしょ……?」
骨ばった手。
落ちくぼんだ頬。
今にも消えそうな呼吸の音。
「こんなの……私が見てきたリリィ婆じゃない……」
思わず、涙が溢れた。
膝をつき、枯れた手を握る。
「お願いだから……目を覚ましてよ……私、まだ教えてもらいたいこと、いっぱいあるのに……っ」
どれだけ時間が経ったかわからない。
返事はなかった。
でも私はその手を、ずっと握り続けていた。