光る唸る七色のニンジンDXソード ③
ニンジンが育つのを待つ間も俺は手をこまねいていたわけではない。
リリアのもう一つの反抗の兆し。
「自分で、を選ぶようになった」という問題。
これにも早急に対処する必要があった。
「俺の美的センスがリリアに適していない! あの子は、あの子はもっと可愛いはずなんだ!!」
書斎で俺は泣き叫び、再び頭を抱えていた。
これまでリリアの服は全て俺が選んでいた。
清潔で、動きやすく、彼女の可憐さと最も引き立てるデザイン。
完璧な選択だったはずだ。
しかし、最近の彼女は「お父様、わたくし、今日はこちらのお洋服が着たいです」と、自らの意志を主張するようになった。
これも自我の芽生えと言えば、聞こえはいい。
だが俺にとっては由々しき事態だ。
俺の父親としてのプロデュース能力が否定されたに等しい。
「市場調査が必要だな」
俺は決意を固めると、再び変装(という名のただのフード付きマント)をして、王都の市街地へと繰り出した。
目指すは貴族の令嬢たちが最新の流行を求めて集う、高級ブティック街だ。
俺は一軒のいかにも高そうなドレスショップに入ると、そこに並べられた、きらびやかなドレスと真剣な顔で物色し始めた。
「……フリルの角度は35度が最も少女の可憐さを引き立てる、黄金角か」
「リボンの素材はシルクよりもオーガンジーの方が光の透過率が高い。なるほど、合理的だ」
「このウエストの絞り。構造力学的に見事な設計だ……」
ぶつぶつと、専門用語を呟きながら、ドレスを分析する、フードの男。
その姿は店員や、他の客から見れば、完全に不審者だった。
「まあ、あの人……」
「変質者かしら……」
そんな、ひそひそ話が聞こえてくるが俺は全く、気にならない。
俺は今、父親として娘の未来のために戦っているのだ。
お前らごときの言葉に立ち止まる俺ではない。
俺は最終的に王都で一番大きな本屋へと向かった。
そこで、俺が買い求めたのは。
『月刊・プリンセスジャーナル』
『ティーンのためのきらめき☆ドレスコーデ』
『完全保存版・リボンの結び方100選』
といった、貴族令嬢向けのファッション雑誌の数々だった。
大量のキラキラした雑誌と小脇に抱え、真剣な顔で家路につく黒マントの男。
その日の王都では「ヴァイスハイト家の若様がついにご乱心あそばされた」「新しい、年の離れた愛人でもおできになったのでは」という、新たな噂がまことしやかに囁かれることになった。
その日の夜。
学園の秘密の工房で。
俺は買い込んできた雑誌と熟読していた。
錬金術の知識と応用し、リリアのための新しいドレスのデザインと設計図に描き起こしていく。
「フリルと、リボンの最適な配置。これと黄金比を用いて、計算すれば……」
俺が全神経と集中させていた、その時だった。
工房の扉が何の断りもなく、するり、と開いた。
「やあ教官。今日もいい匂いがするね。ここは恐ろしい魔術の研究所のようで、そのくせ砂糖菓子のような甘い香りがする」
入ってきたのはやはり、あの男。
天才フェリクス・クロムウェル(ラーメン好き)だった。
彼はいつものようにふわりとした足取りで、俺の机のそばまで来ると、俺が描いていたドレスの設計図と興味深そうに覗き込んできた。
「……新しい、魔法陣かい? 幾何学的な、美しい文様だ。これはラーメンに応用できるのかい?」
そのあまりにも見当違いな質問に俺は思わず、額に手を当てた。
「違う。これはドレスの設計図だ」
「どれす?」
「娘が着る服だ」
「ふうん」
フェリクスは納得したような、していないような、曖昧な返事をする。
全くもって興味がなさそうな様子である。
「僕の記憶じゃ、あなたはもっと他人に無関心で、怖い人だと思ってたけど」
「娘は例外だ。お前も親になればわかる」
「うえ~、やめてよね。父さんみたいな事言うの」
「俺は父さんだ。お前のではないが」
フェリクスはくんくんと鼻を鳴らし始めた。
「それより教官。今日のラーメンは?」
「今日はない」
「そう。残念だな」
彼は心底残念そうに肩を落とすと、そのまま工房の隅にある、俺専用のソファにどかっと腰を下ろし、丸くなって眠り始めてしまった。
まるで飼い猫だ。
俺は深く長いため息をつくと、再びドレスの設計に意識を戻した。
もういちいち、この天才の奇行に構っている余裕は俺にはなかった。




