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光る唸る七色のニンジンDXソード ①

俺の日常は驚くほど穏やかになった。

破滅フラグの影に怯えることもなく、ただ愛する娘の成長と日々、目を細めて見守る。

そんな前世では決して手に入れることのできなかった、温かい時間が流れていた。

リリアは日に日によく笑い、よく話すようになった。感情の乏しい人形だった面影はもうどこにもない。

彼女は俺のたった一人のかけがえのない娘だった。

そう昨日までは。


事件が起きたのは昨日の夕食でのことだ。

その日のメニューは俺の特製ハンバーグ。

リリアの成長に必要な栄養素と錬金術の知識を駆使して完璧なバランスで配合した、まさに「食べるポーション」とでも言うべき自信作だった。

付け合わせにはバターで甘くソテーしたニンジンを添えた。これもβカロテンを効率よく摂取させるための計算し尽くされた一品だ。


「お父様、おいしいです!」


リリアは満面の笑みでハンバーグを頬張っていた。その姿に俺は満足げに頷く。

よし、今日も完璧な食育だ。

そう俺が勝利を確信した、その時だった。

食事が終わり、片付けをしようとした俺はリリアの皿の上に一本だけ、オレンジ色の物体がぽつんと残されているのに気づいた。

ニンジンだ。

俺が愛情と錬金術の粋を集めて調理した、あのニンジンが一本だけ、無残にも残されている。


「リリア。なぜ、これを残した?」


俺は平静を装って尋ねた。

リリアは少しばつが悪そうな顔で、もじもじと答えた。


「ごめんなさい、お父様。でももう、お腹がいっぱいで……」

「……そうか」


俺はそれ以上、何も言わなかった。

だが俺の内心は嵐が吹き荒れていた。

お腹がいっぱい? 違う。断じて違う。

もし本当にそうなら、ハンバーグをほんの一口残していたはずだ。なぜ、よりにもよって、ニンジンだけを?

これは明らかに意図的な行為だ。

いままで俺の言いつけならばなんでも聞いてきたはずなのに。


俺が提示した完璧な栄養バランスのメニュー。それをあえて、崩すという行為。

これは俺の「支配」に対するささやかな、しかし、明確な反逆の意思表示ではないのか?

これが世に言う「反抗期」というやつなのか……!?

まだ、九歳の娘だぞ!? 早すぎる!


その夜、俺は眠れなかった。

書斎の椅子に深く身を沈め、俺は腕を組み、深刻な顔で唸っていた。

リリアのあの時の顔が脳裏に焼き付いて離れない。

「お腹がいっぱい」と言った時のあのほんのわずかな、目の泳ぎ。

あれは嘘をついている時の人間の典型的な反応パターンだ。

間違いない。


「まずい……。非常にまずいぞ……」


これは単なる好き嫌いの問題ではない。

俺の父親としての権威が今、揺らいでいるのだ。

ここで、俺が彼女のわがままを許してしまえば、どうなる?

今日はニンジン。明日はカボチャ。明後日は俺が作る食事そのものと拒否するようになるかもしれない。

その先にあるのは……、非行だ。

ヴァイスハイス家の令嬢が夜な夜な辻馬車を乗り回し、路地裏でふかし芋を頬張るようになるかもしれない。

そんな未来、絶対にあってはならない。


「どうすれば……。どうすれば、リリアは再び俺の料理を受け入れてくれるのだ……?」


俺は書斎の膨大な蔵書の中から、解決の糸口を探し始めた。

『児童心理学概論』『反抗期における、親子の適切なコミュニケーション』『好き嫌いを克服させるための魔法的アプローチ』……。

どれもピンとこない。

俺が求めているのはもっと、根本的な解決策だ。

小手先の技術ではない。ニンジンそのもののポテンシャルと極限まで引き出し、リリアに「美味しい」と、言わせる、絶対的な何か。


俺は一つの結論に達した。


「そうだ。素材だ」


どんな優れた調理法も素材の質を超えられない。

俺がこれまで使っていたのは市場で手に入る、ごく普通のニンジンだ。


だがそれではダメなのだ。

リリアのその頑な心をこじ開けるためには。

究極のニンジンが必要なのだ。


俺は紙を広げると、羽ペンをインクに浸した。

そこに壮大な論文のタイトルと書き記した。


『ニンジンを美味しく食べさせるための錬金術的アプローチに関する一考察 ~究極の土壌改良と、マナ活性化による、食味向上効果について~』


俺の父親としての威信をかけた壮絶な戦いが今、静かに幕を開けた。

待っていろ、リリア。

お父様がお前の苦悩から必ず救い出してやるからな。

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