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暗殺未遂と、全てを清算させるような報復

~オルゼー王国のある惑星の衛星軌道上~


 サンゴウは衛星軌道上からの光学的な観測と、生命反応の大きさを感知するのとの二通りの方法の併用で、いわゆる『大型種』と称される魔物を選別しながら捜索していた。


 魔力の発生源となる、『龍脈の元』をシンが回収し尽くしたため、新たな魔物が今後生まれてくることは既になくなっている。


 しかし、それ以前からこの世界に存在する魔物が、それで即座に消えてなくなるワケではなかった。


 よって、サンゴウたちが行っているのは『アフターサービス』的なモノとなるのだけれど。


 ただし、そうした既存の魔物も、現状だと外部からの自然な魔力の供給は途絶えることになるので、体内にあった魔力を使い切れば持っている能力の一部は制限されて行くし、成長や進化が困難になる。


 それでも、魔物は魔物であり、人からすると脅威度は高い。


 特に大型種は非常に危険であるし、『龍脈の元』が世界から全て失われた状態だと、『人間が魔法なしで倒せる存在かどうか?』という話になってしまうのであった。


 尚、成長や進化が『不可能』ではなく、『困難』という表現になるのは何故なのか?


 それは、『魔力を持った存在を襲って食べる』という手段が残っているからなのだった。


 ところで、前話の『くっころ』の場面から、どうしてこのような状況へと至ったのか?


 そのあたりを、過去を振り返る形で順に流れを追ってみよう。




 まず、サンゴウ視点だと、艦長が魔王がいたであろう浮島を吹き飛ばす際に、厚い瘴気の層で覆われた空が理由で、目標を目視できなかったことが直接の原因となる、月を消滅させてしまったことが本当に僅かな一瞬だけ問題視された。


 サンゴウが知る『惑星に付随している、月の類の巨大な衛星』とは、惑星の『自転速度や自転軸の傾き』に多大な影響を及ぼすはずなのだから。


 しかし、実際にはクエクト秒単位のレベルの時間だけ、月が消失したことによるその部分への影響が観測されたにもかかわらず、自転軸や自転速度は結局元のまま維持されていた。


 ちなみにこれは余談となるが、大多数の人が聞き慣れない単位であろう『クエクト秒』とは、一秒コンマ以下に三十桁のモノであり、別の表現をするなら、コンマ以下に『0』が二十九個並んでようやく『1』が出現するモノとなる。


 日本人ならば、極稀に聞くことがあるかもしれない時間の単位の、『ミリ、マイクロ、ナノ』の秒の単位の下には、『ピコ、フェムト、アト、ゼプト、ヨクト、ロント、クエクト』の順で同じく秒の単位の呼び名があったりするのである。


 付け加えると、呼び名が一つ変わるたびに千分の一になるのだが、そのような知識が日常生活で役に立つことなどそうそうないので、秒の単位の部分はどうでも良い話なのかもしれない。


 さて、そんな余談はともかくとして、だ。


 サンゴウにて観測された事象は、科学的視点からすると明らかに異常事態であった。


 けれども、サンゴウは『魔法』なるモノが普通に存在する世界であることを理由に、『科学では説明できない、何らかの力が作用しているのだろう』として、現状をあるがままに受け入れてしまう。


 サンゴウ的には月がなくなったとしても、艦長になにがしかの不利益が発生しさえしなければ、何も問題とはならないのだから。


 それはそれとして、では何故『異常事態』と考えられる現象が発生したのか?


 結論を先に述べておくと、この部分には、いわゆる『後任』の神っぽい存在がガッツリ関与しただけの話であった。


「月を消すとか、なにしてくれとるんじゃ! その状態を放置したら、惑星の自転速度が最低でも元の三倍を超えてしまうだろうが! 自転軸の傾きだって、なくなったらやばいなんてモンじゃない。魔王の影響で現状の文明が完全消滅するのは減点評価程度で許される。けれど、召喚に関与した異世界人が原因でのそれは、責任重大。左遷で済めばまだマシで、最悪は存在消去刑に直行じゃないか。てか、たぶん最悪の刑罰が適用される可能性が大。こんなの放置できるかぁ!」


 こんな感じの考えがあったのは、シンたちはもちろんのこと、『後任』以外の存在に知られることはない。


 一応付け加えると、『自転速度が三倍超』とか、『自転軸の傾きの変化』とかが実現してしまった場合、惑星内の自然環境を既存の生物のほぼ全てが生存できないレベルの劣悪なモノへと変化させてしまう。


 そのような変化が起これば、オルゼー王国やルーブル帝国が存在する惑星で、人が築き上げた文明が消滅するのは確実になる。


 と言うか、少なくとも『人の類は死滅してしまう』であろう。


 かくして、『後任』の神っぽい存在は、己の力のほぼ全部を『自転速度と自転軸の傾きの維持』と、『新たな月を探して持って来る』ということに注ぎ込む事態へと陥った。


 ただし、神力を使っての完全な力技での行いだったために、海の干満の部分などのケアされなかったところもあったりするのだけれど。


 それにより、『後任』によるシンたちの行動への監視が完全に外れてしまい、その『後任』は更なる別の事態に直面することになるのだが、それはほんの少し先の未来の話になる。


 まぁ魔王討伐直後の、月消滅関連の話はここまでにして、シンがメイドに襲撃された件についてのアレコレも述べておかねばならない。


 というワケで、話の場面をそちらへと移そう。




 シンは魔王討伐後のルーブル帝国のやり口を経験していただけに、通されたオルゼー王国の国賓向けの客室で油断することはなかった。


 護衛なのか?


 それとも監視役なのか?


 部屋の天井裏と思われるところに、人が潜んでいるのを察知できないはずがないシンは、その者が襲撃者へと転じる可能性も考えていたのだから。


 そもそも、室内には『夜伽兼世話係のメイド』と自称する若い女性が一名、夜も更けた頃にやって来て静かに控えていた。


 ゴロリと豪華な天涯付きのベッドに寝転がり、急ぎでやることはないので帰還方法についての思索モードへとシンは突入する。


 そのような勇者の状態は、傍目にだと寝ているように見えたかもしれない。


 一時間もその状態が継続すれば、宰相の密命を帯びている子飼いのメイドは頃合いと判断して動くのが必然ではあったのだろう。


 むろん、油断していなかったシンによって、即座にメイドは取り押さえられる結果になるのだけれど。


「(これがこの国の答えか)」


 シンは見切りを付けつつも、くっころメイドへの尋問を開始するのだった。


「なぁ。あんたは誰に命じられてここへ来た? 防音の魔道具と、透明化されている魔道具のナイフを持たされているくらいだから、かなりの上の人間からだな? 命じたのは国王か?」


 そうシンが尋ねたところへ、天井からいかにも暗部、本職と思われる姿の人物がスッと降りてきた。


 続いて、外見から女性と思われるその人物が、即座に土下座をかまして来るのだからシンとしては驚かされる。


「申し訳ありません。対処が遅れました。『夜伽兼世話係のメイド』という話を聴いておりましたので、無警戒でした。本当に申し訳ございません」


「(いやいや、俺は十歳くらいの子供の姿なんだし、そもそも夜伽はないだろう。そこは無警戒とかダメなんじゃね?)」


 瞬時に心の中で突っ込んだものの、現在進行形の見事な土下座に毒気を抜かれてしまったシン。


 呆れるしかない状況に、シンはなんだかもうどうでもよくなってきていた。


「ふぅん。この所業は『国としての行動じゃない』ってことか? ま、誰かの暴走だったとしても、それを抑えることができなかった時点でダメダメなんだが」


 そう言いつつ、シンはメイドを簀巻に縛り上げ、猿轡をかませた上で捕らえた賊として身柄の所有権を主張するのであった。


 むろん、事態はそれだけで終わらない。


 こうした事態が発生したことで叩き起こされた、筆頭魔導士がシンの部屋へと駆け込んでくる。


 そんなマーカリンもまた、暗部の女性に続いて華麗にスライディング土下座を敢行したのは、些細なことであろう。


「すまない。メイドが寝込みを襲ったのは、オルゼー王国の意思ではないんだ。信じて欲しい。そこのメイドには見覚えがある。宰相の息のかかったメイドだな? シン殿、本当にすまない。宰相にはちゃんと責任を取らせるよう陛下に進言させてもらう」


 一息に最低限主張すべきを主張しきったマーカリン。


 そんな男に、ジロリと冷ややかな視線を向けたシンは、率直に尋ねるのだった。


「なぁ。あんたが俺の立場だったらさ。それって信用できる話だと思うか?」


「そう言われると非常に困る。本来は明日陛下からお話がある内容なのだが、今から国としての対応で決まったことを私からシン殿に明かす。それを全て明かしたのちに、私の命を以ってシン殿からの信用を得たいと思う」


 シンは筆頭魔導士の、己の命を懸けた覚悟のある発言を受けて、耳を傾ける気になったのだった。


 そうして、説明を受けたシンは、国としての対応が既に決まっていることから、『現状は宰相の暴走だ』と納得はした。


 けれど、納得はしても、自身の命を狙われたことに変わりはないのである。


 だがしかし、だ。


 ここで、ある程度話ができる相手であるマーカリンに死んで償ってもらっても、シンには何の得もない。


 いや、得がないどころか、話がし易い相手を失うだけ損となってしまうだろう。


 よって、マーカリンについては、その覚悟を聞いただけで良しとしてそのまま帰すことにする。


 ただし、だ。


 そのような一幕を経て、深夜であるにもかかわらず、緊急で謁見が決まって準備が整えられた。


 そして、シンは先程筆頭魔導士から説明を受けた内容と同じことを、もう一度王から聴くことになる。


 ちなみに、宰相は『既に牢に捕らえられている』ということで、謁見の間には不在となっていた。


「事情はわかった。で、どうする? 仮に、俺がオルゼー王国をまるっともらっても、世界を救った報酬としては本来だと釣り合わんよな? まして、俺は拉致されて、やらされている立場だ。大体だな、この世界は何度勇者召喚に頼れば気が済むんだ? 毎回拉致して、使い倒して用済みになったら殺す。過去の勇者を殺した責任については、ひょっとするとあんたらは『それはルーブル帝国がやったことで、こちらに責任はない』と言いたいかもしれない。だが、それをやってたルーブル帝国に金銭、食糧などの援助はしてたんだろ? つまり片棒は担いでるワケだ。事後の『平和』という利益供与も受けているしな」


 返す言葉がない王は、シンが語ることを黙って聞いているしかなかった。


 それは、筆頭魔導士も同じである。


 まぁ、黙っていられない人間もそこにはいたワケなのだが。


「では、どうすれば良かった? 魔王からもたらされる死を、何もせずに受け入れれば良かったのか?」


 幼い王子はそう発言する。


 これが、『若さ故のアヤマチ』とかいうやつであろうか?


 見た目の年齢からして、坊やなのは確定だけれども。


「自分たちの世界のことは自分たちで何とかしろよ。過去に何度も魔王が出現してるんだから、次に備えて準備をし、勇者召喚に頼らない方法を何故選べない? まさか毎回、『今度の魔王が最後だ。もう二度と現れない』って、そんなことを能天気に考えていたんじゃあるまいな?」


 シンの言い分自体は正しい。


 けれども、現実はそうなっていない。


 実際、この世界の人間は魔王が現れても、『世界が窮地に陥ると、『善意で』勇者がやって来て、魔王を倒してくれて去って行く。俺たちはちゃんとお金を払ってる』くらいの軽い感覚でしかなかった。


 非常にタチの悪い話なのである。


「なぁ。拉致されている側の立場ってモノに、想像力を働かせてみろよ? 同じことを繰り返すのなら、もうこの世界は滅んだほうが良いんじゃないか?」


 シンが言っていることは実にごもっともな正論であり、間違ってはいない。


 いないのだが、その内容は『お前ら滅んでしまえ』となっているので、それだとまるで魔王の発言であろう。


 付け加えると、勇者召喚に関与している神っぽい高位の存在からしても、シンが言うような『お前ら滅んでしまえ』は非常に都合が悪いのだけれど。


 謁見の間に集まった誰もが、シンに何も言えない状況となった。


 そのため、シンによる説教モドキの発言はまだ終わらない。


 続いて、客室の寝台で寝転がっていた時に思いついた、対応策の実施についても宣言をするのであった。


「魔王は『魔力の淀みと人の悪意の塊が元になって、発生している』と俺は思ってる。定期的に現れる理由はそこだな。だから俺は、報酬としてこの世界の『魔力全て』をもらうことにする。拒否権は認めない。全員に『死ね』とは言わないが、今後は魔法が使えなくなる。まぁあとは頑張ってくれ。相当厳しいことになるだろうけどな」


 シンによる魔王発生メカニズムへの予想は、ラノベ知識なんかからの当てずっぽうなのだが、結果としては正しい。


 まぁ、仮に間違っていたとしても、だ。


 シンは責任を負うつもりなど微塵もないけれど。

 

 二度拉致され、それでも二度世界を救って、その結果二度殺されかけた。


 帰還の方法について、『騙されている』まである。


 これらの事実は、言葉で簡単に言い表せない程に重いのであった。


 世界から魔力がなくなってしまえば、魔王も魔物も今後新たに発生することがなくなるのは、現時点で誰も事実として知ることはできないけれど、実現される未来だ。


 怒りがかなりのレベルに達しつつも、どこかで冷静な部分を持つシン。


 勇者は、サンゴウに惑星内における魔力の発生源の特定をしてもらい、根こそぎ収納空間へ入れて持ち帰る気になっていたのだった。


 簀巻にして持ってきていたメイドを足元に放り出し、『宰相の処分は、お前らの好きにするんだな』と投げやりな台詞を残す。


 静まり返った謁見の間から、シンは誰からの許可を得ることもなく勝手に退出して行く。


 続いて、シンは覚えていた宝物庫へと向かい、王の直筆のサイン入りの書状を番人に見せて押し通る。


 宝物庫にあった品の全てを収納空間に放り込んだシンはさっさと王宮を離れ、王都からも出るのであった。


 そうして、転移でサンゴウに戻ったシンは、衛星軌道上から魔力の発生源となっている『龍脈の元』の位置の特定を指示したのだった。


 サンゴウはあっさりと位置を特定し、シンが現地へ飛んでの収納行為に勤しんだのは、この世界の変革であり、いわゆる『ターニングポイント』であったのかもしれない。


「艦長。謎エネルギーの発生源はもうこの惑星にはありません。しかし、良いのですか? 『文明の基盤が崩れるレベルだ』と、サンゴウは考えますが」


「拉致される側の地球は魔法なんてなしでやって行けてるんだ。この世界の住人には『今までの勇者への償い』って意味でも、苦労してもらうべきさ」


 このシンの行為により、世界全体で見ると食料の生産量が激減し、一部の例外を除いて維持できる人口がかなり限られたものになるのであるが、この時のシンは当然それを知らない。


 まぁ仮に知ったとしても、今までの行為が行った対処の前提にあるだけに、『この世界の人間の担うべき責任だ』と割り切るだろうけれど。


 こんな流れで、オルゼー王国での事後処理は終わった。


 しかし、未だ帰還方法は見つかっていない。


 それを見つけるまでの間、怠惰に過ごすのも悪くはないのかもしれない。


 だが、勇者はここでふと思うことがあった。


「(ルーブル帝国やオルゼー王国のやり口が酷いので、一緒に滅べ。もしくは苦労しろ)」


 この世界の住人の全てに、それを求めるのはどうなのか?


 まるっきり加担していないこともないであろうが、それでも、エルフさんに始まる『亜人』と呼ばれる人々にそこまで求めるのも、酷であるのは確かであろう。


 故に、亜人さんたちの主な生活の場となる部分には、ちょっとしたサービスをすることを決める。


 これが、冒頭のサンゴウの状況に繋がって行くのであった。




「キチョウ。魔物相手だから基本的には好きに暴れても良いけど。魔力の自然回復はないから適度に補給をしに戻るんだぞ。それと、人里へ近づいて攻撃されないように注意な。無駄に地域住民へ脅威を認識させないように。そこのところに配慮をしてやってくれ。その他は自由に魔物を駆除して良いからな」


「はーい。行ってきまーす」


「サンゴウは、引き続き大型種の選別を頼む。で、見つけたらどんどん情報を送ってくれよ。では俺も行って来る」


「はい。お任せください。そして、いってらっしゃい」


 海に山に、あるいは森に。


 シンとキチョウは惑星内を飛び回り、次々と魔物を退治していく。


 シンに至っては、収納空間に持ったままになっていた、ギアルファ銀河の食料になる植物の種もばら撒いて、水魔法による水まきと育成促進魔法も掛けていくサービス振りである。


 もっとも、人里から離れているため、これらがこの惑星の住人に利用されるようになるのは少々先の話にはなるのだろうけれど。


 ただし、いわゆる『外来種の持ち込みがどーだこーだ』についてを、シンはガン無視した。


「(在来種の変異や進化には関われない遺伝子改良がされている品種ばかりなのだから、問題はないはずなんだよな。ないよね?)」


 かくして、シンたちが大型種の駆除を全て完了した時には、残っているのは雑魚ばかりとなる。


 残存している魔物の脅威の度合いとしては、『危険な野生動物』のレベルであるので、残りについてはこの世界の住人で対処可能であろう。


「マスター。進化しましたー」


 キチョウの外見は『形』という意味ではあまり変わっていないが、瞳の色は薄いブルーになっている。


 また、身体からは薄い金色のオーラのようなモノが噴き出していて、全身に纏われていた。


「おお、まるでヤサイの人のアレみたいだ。やっぱり怒りが切っ掛けで進化とかしたのか?」


「マスター。なんですかそれー。自然に進化するですよー。そもそも怒る要素がありませんしー。種族としては超神龍ですー」


「(いやそれ、やっぱりアレじゃね?)」


 そんな風にシンは思ったが、それ以上の追及はやめておいた。


「(いずれ、『Ⅱ』や『Ⅲ』も来るに違いない!)」


 そんな感じのワクワク感は止まらないけれど!


「艦長。ここから先はどうするのですか? あと約三十六時間で、ローラさんへの連絡のインターバル期間を超過しますよ」


「うーん。帰還方法だよなぁ。サンゴウ。何か良い方法思いつかないか?」


「ギャンブル的な方法であれば、一つだけ手段があります。ただし、お勧めはしませんが」


「(サンゴウが『ギャンブル的』って言うくらいだとなあ。それ、すごく危ないんじゃね?)」


 普通にそんな考えが、まずシンの頭を過る。


「(それでも、一応確認だけはするべきだよな)」


 やるか?


 それともやらないか?


 方法を知ってから、その部分の判断すれば良いだけに、シンの考えは間違ってはいない。


「『ギャンブル的』ってのがちょっと怖いけど拝聴しよう。どんな方法なんだ?」


「艦長にシールド魔法で守っていただいた上で、最大出力の超空間砲をゼロ距離で撃ちます。どこかには飛ばされます」


「待てーい。『的』の部分はどこ行った? ギャンブル以外のナニモノでもないじゃねーか!」


 即ツッコミを入れるハメになったシンなのだった。


「はい。ですのでお勧めはしません。ですが、何度も繰り返し行えば『目的の宇宙へ行ける可能性がゼロではない』と考えます」


「え、何そのガチャ理論。『確率なんか関係ない。金突っ込んで、出るまで回せば入手率は百パーセントだ!』とかそういうやつ?」


 思わず、日本でのスマホのソシャゲを思い浮かべたシンであった。


 PCのMMOに実装されていたガチャなども似たようなものであろうか?


 それらの経験がないではないシンだけに、サンゴウの提案へは感じるモノが大きかったのかもしれない。


「『ガチャ』というのが何かはサンゴウにはわかりませんが、『当たりが出るまでくじを引き続ける』という意味であるならその通りです」


 確かに確率はゼロではない。


 可能性があるにはあるのは事実だろう。


 そして、無尽蔵のエネルギーが使えるシンとサンゴウの組み合わせなら、試せる回数に上限がない以上、いつかは当たるかもしれない。


 ただし、超空間砲は使用する際、『溜めに時間が掛かる』という大きな欠点が存在している。


 なので、『試行回数によっては膨大な時間が必要になる』という点を無視するのであれば、手段として『なし』にはならないのだけれど。


「もうちょっと、他の手段を考えてみよう。その方法は最終手段として取りあえず保留な」


「マスター。勇者召喚の魔法陣を弄ればなんとかなるかもー」


「お、そうなのか? でも俺、魔法陣の知識はほとんどないぞ?」


「その『勇者召喚の魔法陣』というのはどこで手に入るのでしょうか? そもそもですが、望めば入手できるモノなのですか?」


 サンゴウからは、至極ごもっともな問いが出てきてしまう。


 提案したキチョウにしたところで、弄る前の状態の魔法陣を知っているわけではなさそうなことが、最初の発言からわかってしまっただけに、これは当然の流れであったのだろう。


 むろん、シンだってその魔法陣を自分で記憶している事実はない。


「ルーブル帝国か、オルゼー王国の、知っている者からそれを得るしかないだろうなぁ。ま、帝国の方から情報を入手できる可能性は限りなくゼロだろうけど」


「でしょうね。艦長は、彼の国だと重犯罪者で広域指名手配されていますから。もし『ジン』であることが露見したら面倒です。オルゼー王国にも手配書自体はおそらく届いているのでしょうが、そのあたりはどうなっているのでしょうね?」


「あー。帝国は差別がすごいから、そこの価値観が違うオルゼー王国とは国同士で仲が悪いんだよ。だから、まともに取り扱っていないかもな。仮にオルゼー王国で俺が『ジン』であることが露見しても、『いいぞ、もっとやれ!』と匿ってくれて支援されるとこまであるかもしれん」


 サンゴウの発言を受けて、シンはちょっと考えた末にありそうな予測を述べた。


 まぁ、同じ人物が二度も召喚された前例はなく、前回のジンの時より現在のシンは見た目の年齢が低下しているので、実際のところは『あってもジンの弟か、年下の親戚』と誤認される程度で済むはずなのだけれど。


 そもそも、『龍脈の元』を取り戻したい一心からジンの指名手配に踏み切ったものの、ルーブル帝国は『ジンが既に死亡していてそれが戻る可能性はない』と判断しているのだから。


 そのようなルーブル帝国の話はさておき、だ。


 この段階で、シンたち次の行動への選択肢は絞られたのである。




 場面はオルゼー王国王宮へと移る。


 キチョウの提案からの話し合いのあと、結局は『とりあえず、勇者召喚の魔方陣の情報を得てみよう』という話になった。


 そのため、シンはマーカリンを訪ねてキチョウとともに王宮へとやって来たのであった。


 ちなみに、シンの姿は変化の指輪で壮年の年齢に偽装されていたりする。


 そうした小細工を施したのは、むろん相応の理由がある。


 子供の姿だと会ってもらうまでのハードルがかなり高いし、勇者シンとわかる状態だと出入り禁止の措置がされているかもしれないからなのだった。


「すみません。私はシンと申しまして、筆頭魔導士のマーカリン様にお会いしたいのです。ああ、そちらの『どこの誰ともわからぬ者に』と仰りたいことはわかります。ですので、私の名前を伝えていただき、『シンが火急で内密にお話したいことがある』とだけ取り次いでいただければ良いのです。結果がダメでも構いませんので。些少ですがこれを」


 城門の番兵たちへの、必殺の賄賂作戦が敢行された瞬間だった。


 そして、『伝えるだけで良い』という程度のお願いであれば、この世界の人間の倫理観だと簡単に転んでしまう。


 なんやかんやあったものの、シンはマーカリンに会う事に成功し、魔法陣の資料を得ることに成功した。


 対価として提供したのは、荒れ地でも簡単に育って、年三回収穫可能な『ギアルファ銀河産の芋』の種芋を三種類各二十個。


 理解力の高いマーカリンは、『今のオルゼー王国にとって、その種芋の価値がどれほどか?』は、シンに必要性の詳細を説明されるまでもなく、気づくことができた。


 その一方で、シンの側から対価として求められているのは、使い道のなくなった魔法陣の情報でしかない。


 魔法が使えない状況で、もしその魔法陣を無理矢理にでも起動させるのならば、大量の人命か魔石のどちらかを用意する必要がある。


 それらは現実的ではない上に、魔法が使えない勇者にはどれほどの価値があろうか?


 倒してもらわねばならない、魔王だって存在しない。


 故に、即刻合意に至ったのである。


 そんな流れで、目的を達成したシンとキチョウはサンゴウへと帰還する。


 ちなみに、シンはマーカリンとの別れの際に、彼の名前についてで頭を過ったことがあったりするけれど、そんなことは些細なことでしかないのだ。


「(魔導士なら『カ』が余分じゃね? てか、お笑い系なら濁点付きの『ガ』で決まりだろ?)」


 非常にどうでも良いこと割と真剣に考えていたワケだが、それは他の誰も知ることのないシンだけの秘密である。


「うーん。勇者時代には持っていなかった技能が魔法陣に対して有効とはな。単純に驚くわ」


 そうなのである。


 異言語理解の技能は、魔法陣の魔法言語にも普通に対応していたのだった。


 単に勇者召喚されただけでは、その過程においてでこの世界における共通語が付与されるだけ。


 よって、勇者時代のジンには、魔法陣の勉強まで手が回らなかった。


 そもそも、魔法陣は発展途上の技術であり、勇者召喚の魔法陣はかなり高いレベルの知識がないと作り出せない。


 その『かなり高い』が問題で、この世界の基準に照らし合わせると『神の領域』に近いレベルとなってしまう。


 つまるところ、現状の人類では『勇者召喚の魔法陣』と同等のモノを作り出すことは不可能なのであった。


 それはそれとして、だ。


 魔法陣の魔法言語が、『読めて意味がわかる』のと、それを『書き換えて望んだ効果の別の魔法陣にする』のは全くの別の話となる。


 それを行うには、魔法陣に対する深い理解や応用力が必要になるのだった。


 シンの知能は、『情報処理のスピードや思考の並行処理』といった点では勇者の力で強化されている。


 けれども、純粋な『理解力』とか、『応用力』とか、『創造力』という話になって来るとずば抜けた能力はない。


 シン本人もそれを十分に理解している。


 そのため、内容の解読で通訳的な役目をした以外は、サンゴウとキチョウへの丸投げが行われてしまう。


 ちゃんと頭脳担当がいたのは、勇者の持つ運命力の賜物だったのかもしれない。


「艦長。サンゴウとキチョウで協力して新たな魔法陣を構築していますから、なんとか形になりそうです。けれど、難易度が高過ぎるように思われます。人の能力で可能なこととはとても考えられません。召喚勇者を元の世界へ帰還させることが前提で、『この方法がそれです!』というのであれば、実質帰還方法はないのと同じではないでしょうか?」


 極悪極まりない事実が、判明した瞬間であった。


 こうして、勇者シンはくっころメイドの出現を発端とする事案発生を理由に、オルゼー王国の面々に説教をかます状況へと発展する事態を迎えた。

 説教を受けて項垂れている王国の上層部を尻目に、宝物庫を空にすることと、今後勇者召喚自体を行えなくする目的と魔王の出現をさせないことを目的として、惑星そのものから魔力を奪うことを選択し、それを即刻実行に移した。

 ロウジュたちがいる世界へ戻る確実な手段を模索した結果、キチョウの発案が切っ掛けで勇者召喚の魔法陣の入手と、改造に着手する。

 偶然から月を吹き飛ばしたことで、結果的に高位の存在からの監視が外れ、もしこのまま元の世界に帰ってしまったら、『前任』と同じく『後任』も処罰を受ける事態への一直線となる龍脈の元を根こそぎ奪うことにも成功した。

 シンたちは無事に元の世界へもどることができるのか?

 そもそも、本当に召喚勇者が元の世界に戻ることのできる、正規の手段的なモノはないのか?

 未来を知る者は誰もいないのだけれど。


 本人基準での魔王討伐を含むアレコレへの正当な対価を、今後もこの世界で生きて行く人々のことはあまり気にせずにガッツリ手に入れた勇者さま。

 サンゴウとキチョウによる魔法陣の改造から飛び出した『サンゴウの見解』を聴いて、勇者召喚により一層の悪意の存在を感じ、嫌悪感をさらに募らせたシンなのであった。

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