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召喚勇者と、逃亡勇者

~ラムダニュー銀河タウロー星系第三惑星の衛星軌道上~

 

 サンゴウは周囲にあるデブリを回収して金属インゴットを作成しながら、大元は人工衛星などだったと考えられる残骸の調査を行っていた。


 また、それと並行して至極当然のように、大気圏内で活動中のシンとキチョウの龍騎兵状態のところをモニターしていたのだった。


 そのような状況下で、サンゴウ内に滞在したままのデリーはミウとともにシンたちがモニターに映る姿をじっと見つめていた。


 幼いデリーは、何もできない現状の自分への悔しさからか、力一杯小さな拳を握っている。


 そこに寄り添うミウは、デリーのそのような様子も、抱えている心情についても察してしまうが故に、沈黙を保って座っているだけであった。


「(今は、何かを言うべき時ではない)」


 獣人族の女性は、本能的にそう理解していたからだ。


 二人が見ている映像は、巨大な人型兵器に龍騎兵状態でシンの乗っているキチョウが攻撃され、それをひらひらと躱している状況であった。


 何故このような事態に至っているのか?


 少々時間を巻き戻して、勇者シンがラムダニュー銀河タウロー星系第三惑星へと向かう許可をローラから得るところからの流れを順に追ってみよう。




 キチョウの発言から、シンによる影収納の魔法と長距離転移魔法の合わせ技が、デリー絡みの案件に極めて有効であると判明した。


 故に、シンとサンゴウの超遠方への出立に対して、渋々ながらもローラが実質的な許可を出すことで決着する。


 それが決まれば、だ。


 そこからの動きは、流れるように短時間で進んでしまう。


 銀河と銀河の間を移動するのに必要とするエネルギーと、移動期間中の食料に始まるいわゆる物資の問題。


 通常であれば簡単には解決しないはずのそれが、シンとサンゴウのコンビには存在しない。


 そうである以上、準備に多くの時間を必要としないのは、最早必然ではあるのだろう。


 ちなみに、最も時間を必要としたのは、実のところシンの家庭内の調整問題だったりするのだ。


 もし一般的な感覚を持つ他者がそれを知ったならば、驚くと同時に笑い話にしかならないのかもしれない。


 ローラが皇帝に話を通し、シンがサンゴウと一緒に帝都を離れる許可が正式に出た翌日、シンはミウとデリーを伴って、サンゴウに乗り込み出発することとなる。


 デリーはミウに懐き、ミウはミウで『可愛い幼児の男子』という存在そのものに保護欲をそそられていた。


 そうして、ミウがデリーの母親と姉と世話役の三つを兼ねる形での同行を申し出る。


 出立時のメンバー構成は、そのような事情でデリー以外にミウが参加する形に落ち着いた。


 むろん、最初から下船していなかったキチョウも、『サンゴウに乗ったまま』なのは改めて言うまでもないであろう。


 かくして、生体宇宙船は長躯ラムダニュー銀河を目指す旅路へ出発と相成るのであった。


「(あれ? ミウとデリーって、自宅で待ってても良かったんじゃね?)」


 シンが最初に一時帰宅をした時点で、前述のそれに気づいてしまう。


 シンのその考えは正しい。


 しかし、シンがそれに気づくまで、誰一人としてその点に気づいていなかったりしたのは、客観的に見れば笑える話だったのかもしれない。


 尚、シンは自宅でそこに気づいてしまったりしたワケなのだが、帝都を発つ前の準備段階でガッツリとロウジュたちと話し合って同行メンバーを調整し、デリー、ミウ、キチョウを連れて行くことを決めている。


 それだけに、何とも言いようのない気まずさを感じてしまったのだが、そんなことは些細なことであろう。


 そして、出立して以降に気づいたのは、それだけではない。


「(あ! 傭兵ギルドのランクの手続き忘れてた!)」


 傭兵ギルドのお仕事中にデリーと遭遇し、帝都に戻ってからはそれ関連の問題解決の準備で忙しかった。


 それが理由で、傭兵ギルド関連の手続きを何もしていなかったことに、今更で気づいてしまったのは実のところ大勢に影響がなく、もっと些細なことなのである。


 もちろん、それらに気づいたからには現状維持の放置はあり得ない。


 ロウジュに頼んでサンゴウが作成した賊との戦闘実績データを傭兵ギルドへ送ってもらったり、ミウとデリーを自宅に待機させ、シンとキチョウのみ乗船している状態での全速航行へと移行させたりと、適切な対応をちゃんと行ったのだけれど。


 それはそれとして、だ。


 サンゴウによる長い旅路が始まると、キチョウは己の存在の進化の可能性を強く感じるようになる。


 それは、過去のどの龍族の個体も経験したことがない、跳躍航行用の超空間への長時間滞在したことが原因であった。


 キチョウは『サンゴウの中にいる』とはいえ、神龍としての能力で外部の環境を感知しているし、その影響もしっかりと受ける超生物だったりするのである。


 元々は魔物のカテゴリーであるドラゴンから、進化して神龍となっている今のキチョウの、種としての名に『神』と付いているのは伊達ではないのだ。


 結論を先に言えば、『ラムダニュー銀河を目指す航行期間中に、キチョウは進化条件の一部を完全に満たす』ことになる。


 むろん、それだけだとあくまでも一部は一部であって不足であり、進化するにはより一層の戦闘経験を積む必要だってあるのだけれど。


 だが、逆に言えば『別の進化条件も満たせば、キチョウは現在の神龍から、更なる進化が成される』のであった。


 そうした、キチョウだけの事情とは別に、それなりに長期間となる航行中に特筆するような何かがあったのか?


 その問いに対する答えは、『何もない』となる。


 特に、皇帝陛下からのなにがしかの命がシンたちへと出ることもなく、サンゴウの航行は順調に続いたのだから。


 そもそも、銀河と銀河の間の宙域には、基本的にめぼしいモノなどほぼないのだから、そうであるほうが正しい状態であろう。


 シンたちが知ることはないが、この時の勇者の運命力は『デリーの故郷の惑星で起こるであろうなんらかの事案』についてへと全振りで作用しており、現状はいわゆる『嵐の前の静けさ』の状態だったのかもしれない。


 そのような穏やかな時間を経て、サンゴウはついにラムダニュー銀河の外縁部へと到達する。


 仮の第一目的地への到着を、頼れる相棒から告げられたシン。


 勇者は、チートパワーを惜しげもなく発揮して、可能な限りマップ魔法と探査魔法の範囲を広げるのだった。




「うーん。特に人工的な動きを感じるモノはないな。サンゴウのほうはどうだ?」


 マップ魔法を使用すると、何故か知らないはずの星系の名称が全てわかってしまうのを、シン的には『魔法だから』の一言で片付ける。


 それはそれで良いのだが、実のところデリーは自身の故郷がある星系の恒星名や惑星名なんて、知識として保有していなかった。


 故に、シンやサンゴウもそれを知り得ないのであった。


 シンとしては、有人惑星を探す際にマップ魔法で知ることができる恒星の名称を頼りにするつもりはなく、宇宙空間で人工的な動きをする物体の存在を探し、それを目印代わりにするつもりであったのだが。


 その意味では『当てが外れた』と言えよう。


 もっとも、シンにはデリーの故郷の位置が割り出せなくとも、生体宇宙船の人工知能であるサンゴウにとってだと、話が別となってくる。


 以前にデリーの乗っていた宇宙船のデータを抜いたサンゴウは、出発地点となる星系の惑星を解析によって理解しているからだ。


 ただし、それでもいざ現地に来てみれば、そこで初めて判明するような問題がしっかりと残っていたりしたのだけれど。


「はい。今のところ何もありませんね。現在、デリーが乗っていた宇宙船から抜いたデータを元にして、目的地の位置関係を割り出そうとしているのですが」


「うん? 何か問題があるのか?」


「ええ、あります。所持しているデータに少し食い違いが発生していますね。なので今は、推測値からの補正を行っています。おそらくですが、万年単位で古い星図データだったのが現状との差異を生み出している原因と考えられます。時間の経過で、星々の位置関係がいろいろと動いたのでしょう」


 サンゴウは、デリーの故郷である星系の惑星の位置の特定に少々時間が掛かったものの、それでもなんとか無事にその作業を終えられた。


 サンゴウの卓越した性能を以てしてもその状態であるので、位置の特定が実際には相当に難易度の高い作業であったことは、疑いのない事実であろう。


「艦長。補正作業完了しました。ここからだと約二日の距離にデリーの故郷と考えられる惑星があります。今からそこへ向かってよろしいですか?」


「ああ。よろしく」


 かくして、またしても特に何事もない二日の時が経過する。


 サンゴウは約四十八時間を掛けて、タウロー星系第三惑星の衛星軌道上へと到達するのだった。


 そうして到着した宙域の周辺には、『遥か昔に稼働を止めて破損している』と思われる、人工衛星の類だったであろうモノの残骸が、そこかしこに漂っている状態であった。


「艦長。到着しました。地表及び海中にはそれなりの数の生命反応がありますね。どうされますか?」


「んー。まずは映像での確認からかな。地表の映像を見せてくれ」


「はい。では地表の映像、モニターに出しますね。拡大が必要な部分はその都度指示をお願いします」


 そんな流れから、勇者が見た青い星の映像は、シンにとって極めて個人的にではあるものの、なかなかに衝撃的なモノとなったのだった。

 

「ってこれ、俺が知ってる日本列島にそっくりなんだが。ただし、大きさはでかいけど」


「そうですか。艦長が知るモノに似ているのは興味深いですね」


 モニターの映像としてシンの目に映るのは、それぞれ巨大な北海道と本州、四国に九州。


 ぱっと見で、それを想起するほどに形状が酷似している、四つの陸地と海の青。


 ただし、記憶にあるオリジナルの日本列島のサイズと個々の陸地を比べると、その大きさは異様なほどにデカイ。


 個々のそれは最早『島』ではなく、それぞれを『大陸』と呼んでも良いかもしれないレベルだ。


 けれども、大きさ以外の違いもちゃんとあった。


 シンの記憶にある佐渡などの島は殆どないし、沖縄や奄美大島、小笠原諸島に相当するものなんかも、なにもないのだから。


 そもそも、あるのは巨大な日本列島の一部だけで、ユーラシアやアフリカ、アメリカに南アメリカ、オーストラリアなどの大陸が全くないので、似てはいても完全に別物なのは確かなのだが。


「これは、先に現地の偵察を俺が直接してから、デリー君を連れて来るべきか? それとも、とっとと連れて来て案内を頼むべきかな? 判断が難しいところだな。あ、サンゴウ。大気の組成や重力は問題ないよな?」


「はい。オゾン層がやや厚いくらいで、地表部分では船内の今の空気と大差ない組成ですね。重力はコンマ五パーセント以下の差で強いですが、行動に支障があるレベルで明確に体感できるほどの差はないと考えます。技術レベルは『宇宙へ出られる』とは考えられないほどに低いようですね。地表での移動手段として、馬車のようなものが確認できていますよ」


「そうか。では、先にちょっと様子を見て来るとしよう。人口が多い街はどのあたりかな?」


 艦長からの問いを受けて、サンゴウは感知している生命反応の数から、モニター上でそれが日本ならば東京に当たる位置を示した。


 それを受けて、シンは短距離転移の連続でそこを目指すのであった。




 地表に近づいたシンは、遠めの上空から街を観察する。


 見える景色の中にある建物は、木造の和風だった。


 けれど、人々の装いと外見からわかる人種は洋風。


 まぁ、このあたりは、デリーの容姿から事前に想像はできていたけれど。


「(和風ナーロッパか!)」


 思わずそう心の中で叫んでしまったのは、シンだけの秘密である。


「(遠くに見えるのが、江戸城に思えるんだが!)」


 続いて出た感想も、些細なことだが同様に秘密にしておくべき事柄であろう。


 日本からルーブル帝国へと勇者召喚をされる前であっても、シンに実物の江戸城を見た経験などもちろんないのは、言うまでもない。


 それはそれとして、だ。


 シンは収納空間からルーブル帝国時代に使っていた衣服を取り出して、いそいそと着替えた。


 それは、ギアルファ銀河帝国産の衣服のままだと、周囲から完全に浮いてしまうような気がしたからだった。


 そして、現地通貨は当然持っていないので、サンゴウが換金用に持たせてくれた小さな金版、銀板、砂金を懐に用意する。


 できる範囲の準備が整ったところで、シンは人目に付かないと思われる場所へと転移するのだった。


 新たな地へ来ても、言葉に関しては何も心配ないのが良いところであろうか。


 今更ながらに、付与された能力に感謝するシンは、デリーが語った問題児であろう人物について、思いを馳せる。


「(ここに召喚された奴だと、そのあたりはどうなってるんだろうなー)」


 漠然とそんなことを考えながらも、町の様子を見て歩くことにしたのである。


「(えーっと。『両替』というか『買取』というか。ここで通用する通貨を手に入れられる感じのお店的なモノはないかなー)」


 周囲に気を配りながらで、なんとなくソレ系の店舗を探しながら歩いていると、露店の主の隙を伺っているっぽい子供がふと目に留まる。


 それは、ルーブル帝国でもよく見かけた、スラムの子供たちの行動と全く同じであった。


「(ちょうど良いな。アレをとっ捕まえて小遣いを渡して、情報源にしよう)」


 勇者のこのような思考は、いわゆるヒーローとはかけ離れていたかもしれない。


 それでも、思いついたら即行動。


 そこからのシンの行動と発言が、本来ならばその子供が破滅する未来を迎えるハズだったのをあっさりと覆したのは事実であろう。


 シンは気配を殺して、素早くその子供の背後をとる。


 そして肩にポンと手を乗せ、声を掛けるのだった。


「なぁ。それはやめとけ。あの露店の親父は気づいてるぞ」


「うわ! って、なんだよおっさん。お、俺は別に何も」


「お? そうか? それなら良いんだが。さて、ところでな坊主。俺はここで使える金を持っていないんだ。だから、これをこの町で使える金に換えられるところを知らないか? もしそれを教えてくれるなら、飯ぐらいは奢るぞ?」


 シンは、手が触れている華奢な肩の感触から、話しかけた相手が実は女の子だったのに気づく。


 それでも、その気づきをスルーした。


 何故なら、この手の子供が性的な面での自衛のために、男の子のふりをするのはよくある事柄であるから。


 シンは肩に乗せた手とは違う方の手で、持っていた金版と銀板を見せる。


 価値ある現物の存在が、眼前の子供に対して自身の語った内容について、納得させるのに最も有効な手段である。


 悲しいことに、そんな正解をシンは知っていた。


 ちなみに、『おっさん』と言われたことについては、ガッツリとショックを受けている。


 中身の年齢はともかくとして、だ。


 シンの外見はどう見ても二十代前半、下手をすれば十代後半と見られてもおかしくないはずだからだ。


「おっさん、それほんとか? でもさ、飯より金が欲しい。俺だけ食うのはダメなんだ」


「そうか。じゃあお礼のお金を渡す。それにお土産で持ち帰りの飯も付けよう。ただし、『このあたりの話を余所者の俺にいろいろ教えてもらう』って条件付きだ。それと、俺には『シン』って名がある。おっさんじゃなくて、名前で呼んで欲しいな」


 偶然発見した女児を、報酬で釣って自身に都合の良い案内人へと仕立て上げるシン。


 字面だけだと完全にヤバイ感じではあるが、シン本人は『三方良し』だと思っていた。


 そのため、何も問題はない。


 とにもかくにもそんな流れで、シンは金板などを買い取ってくれる大店に案内され、無事に現地通貨を得ることとなる。


 その際に、買取金額で少々足元を見られたのは、『一見の地元民ではない客』と相手に受け止められていた節があるので、『必要経費』として受け入れた。


 続いて、夜の情報収集に良さそうな酒場の場所を確認し、女児からは更に追加でしっかりといろいろな情報を聞き出す。


 スラムに生きる子供に学はない。


 だが、生きて行くために必要な細々とした情報は、驚くほどいろいろと持っているモノであり、このような状況下ではとても便利な存在なのである。


 むろん、『襲われたり、騙されて身ぐるみはがされたりしなければ』という、条件付きなのだけれども。


 シンは約束通りに駄賃としてのお金を多めに渡し、女児に持てるだけの食料も買い込んで持たせてやる。


 女児は満面の笑みを浮かべたまま、シンにちゃんとお礼を言い、走り去って行くのだった。


「おっちゃん。ありがとな! 縁があればまたな!」


 シンはおっさんからおっちゃんに進化した!


 最後まで名前で呼ばれることがなかったのは、些細なことであろうか。


「(俺は『おっちゃん』なのか?)」


 その呼称に内心でシンがどれだけ黄昏ていようとも、大勢に影響はないので『些細なこと』と断じて良いのかもしれない。


 次の情報収集地となる酒場が、喧騒にまみれるような良い感じの時間になるまでには、まだ少々余裕がある。


 それはそれとして、だ。


 少しでも多くの情報を得たい。


 それ故に、露店や商店を巡って漏れ聞こえる話に耳を立てる形で、周囲に意識を向けながらシンは時を過ごした。


 夕闇が降りて以降は酒場で酒を飲み、めぼしい相手には酒やつまみをちょっと奢ってやったりなんかもして行く。


 そんな感じで、欲しい情報を聞き出すことに成功するシンなのだった。


 この段階でできる範囲の全てを終え、転移でサンゴウに戻った勇者シン。


 サンゴウはシンの服に張り付いていた子機経由で情報を共有しているため、そこからの話は説明をすっ飛ばせるはず。


 そのはずなのだが、それでも知った内容の確認も兼ねて、ある程度シンが相棒へとアレコレ語ってしまうのは、人としての在り様から仕方がないことなのだろう。


「元々は大きな大陸四つに国がそれぞれあったみたいなんだが。九州のここ、阿蘇山のあたりに怪物、まぁキチョウの話だと『地竜の変種』っぽいんだけど、それが出現してそこの国は壊滅した。次はここ、四国にそれが渡った時点で、本州のデリーの国が富士山の付近の遺跡で儀式を開始。そして、『古代超文明の遺産』という巨大機械騎士の起動に成功。怪物を倒したまではまぁ良いんだが、倒す前の段階で四国も壊滅。残った本州と北海道は、その機械騎士が政治の中枢だった城を急襲して国の上を全部始末しちまったんだとさ。で、召喚されて機械騎士操ってたドアホウが建国王を宣言。地方領主はそれに従わなかったのもいるけど、全部蹂躙して終わりだったそうだ。んで、今はその機械騎士があった遺跡を本拠地にして税を搾り取ってるってよ」


「そうなのですか。それで、艦長はどうされるおつもりですか?」


「一応、好き勝手をしているドアホウの言い分も聞く気ではあるんだが、『状況から見てアウトじゃないかな』と俺は思ってる。で、もし完全にアウトなら、粛清する。そして、助けられるならデリーの姉さんを助け出す。他は、デリーが国を継ぐ意思があるならその手助けだな」


「なるほど」


「あ、それと事後に俺への報酬として遺跡の調査権をもらう。状況によっては遺物ももらうことになるかな。今回は、客観的に報酬が不足でも、そこはまぁ無料サービスにする。『同郷のアホがやらかした』としか思えんからなぁ」


 異世界で『ヒャッハー』をするドアホウが出て来るラノベを思い出してしまい、遠い目になるしかないシンであった。


「その、『同郷』なのは確定なのでしょうか?」


 サンゴウには、その部分の判断が可能な知識はない。


 それ故に出た質問であった。


「厳密には、現時点で確実な証拠はない。けど、確定として扱うつもり。それで困ることもないだろうしな。あ、そのアホへと与えられた、国からの報酬の話を忘れてたわ。酒場で噂として出てたのは『王女との結婚と領地を与える』だったみたいでな。『それじゃ足らん』と暴れたってとこなんだろう。親をぶっ殺して攫った娘が、そんな奴に靡くとかあり得ん気がするんだよな。だから、その点だけでも俺の中ではドアホウ確定なんだけどな」


「そうですか。では、サンゴウは周辺宙域の残骸の調査をしながら待つ感じで良いですね? そのお話だと艦長とキチョウのお仕事っぽいですし」


「ああ。そうだな。ただ、先にデリーは連れて来て、サンゴウ内で待機してもらう。俺らのことをモニターして見せてやることは可能だよな?」


「はい。ではそのように」


 こんな感じの大まかな流れの打ち合わせを終え、シンはデリーを連れ出すために自宅へと戻る。


 ミウはデリーと同行する気が当然のように満々であったので、一緒に連れて行くことになるのだった。


 そんなこんなのなんやかんやで、サンゴウはラムダニュー銀河のタウロー星系第三惑星、衛星軌道上に居座り続け、デリーとミウを大気圏内に送り込む時を待つ。


 タイミング的には、シンとキチョウの龍騎兵コンビが、巨大機械騎士を操るドアホウを無力化してからになる予定であり、そうなるのをモニタリングしながら待つのみであった。


 シンが巨大機械騎士の操縦者との接触をはかるべく、根拠地との情報があった地へと近づく。


 その地は、日本で言う『富士山』の麓、南側なのだった。


「(一応、まずは話し合いをするつもりだけど、たぶん力で押さえつけることになるんだろうなぁ。アホ勇者を俺らが相手にせにゃならんとか、本当は勘弁して欲しいんだがなぁ)」


 自分自身が残念ポンコツヘタレ勇者なのは棚に上げて、シンがそう考えてしまっていたのは些細なことであろうか。


 とにもかくにも、事前のシンの考えはそんな感じであった。


 ちなみに、キチョウが戦闘経験を欲しているのはわかっているし、相手の実力が未知数であっても、これまでの経験からして負けることや苦戦することをシンは想定などしていない。


 むろん、見方によっては『根拠のない自信』と言われかねないモノではある。


 しかしながら、シンにはそれなりに当てになる自身の直感力に加えて、キチョウの種族特性からくる勘のサポートがあるのだ。


「(戦いになっても、相手を舐めるくらいでちょうど良い)」


 キチョウから危機があることを告げられない以上、シンの覚悟は前述のような状態になるのであった。




「見た目の印象は完全に富士山なわけだが。ただし、ざっくり三倍くらいの大きさになってるから、山頂の標高は一万メートルを余裕で超えるっと」


「マスター。それは何の話なのー?」


 シンがこぼした呟きには、他者がそれを理解する必要のある情報は微塵も含まれていない。


 故に、キチョウからの問いに、シンは内心で苦笑しつつ答えることになる。


「うん。いや、今のは俺個人の感想だから、キチョウは気にしなくて良いぞ」


「はーい」


「さてさて、デリーが言ってた遺跡の場所は、上空からそれっぽい入口だけが確認できるけど、人はいないな。ガードロボットみたいのがいるだけか。キチョウの勘とか超感覚で何かわかることはあるか?」


「マスター。何かの波の信号は出ているからー、こちらの探知はされてると思うですー。そろそろ向こうから出て来るよー」


「そうかそうか。って、そういえばなんも確認して来なかったけどさ。巨大な機械騎士って奴は空を飛べるのかな?」


 そのあたりをデリーに確認しなかったのは、無意識下で『どうせ格下!』と決めつけての『舐めプであり、余裕』だったりするワケなのだが。


 無意識に相手の戦闘能力を舐めているからこそ、『確認する必要性に思い至らなかった』ということもあるのだろう。


 もっとも、仮に確認したとしても、動かした記録が長い年月の間に失われているため、デリーも含めロンダヌール王国の誰も、それに関係する知識を持ち合わせていないのだけれど。


 そうこうしているうちに、巨大な金色の人型の騎士が現れる。


 まぁ、『巨大』と言っても、機体の全高は三十メートルには届かないレベルでしかなかった。


 サンゴウの五百メートル級の巨体や、子竜の姿の状態から神龍状態に戻っている時のキチョウを見慣れていたり、過去に戦った宇宙獣の大きなモノを思い出せば、シンがさほど『大きい』とは感じなくても仕方がないのかもしれない。


「(金色か。機動する戦士しちゃってるアレに出て来るアレには似てないな。どっちかと言えば星が五つの方かな? あれ? でも、どっちも同じ人のデザインだったような?)」


 機械騎士を視認したシンは、自身の持つ真偽が怪しい記憶についてで、思考を巡らせていたのは本人だけの秘密となる。


 戦闘になるかもしれない状況を目前としながらも、全く緊張感のない勇者であった。


 そんな状態のシンを背に乗せたまま、上空一万五千メートル付近を飛んでいたキチョウ。


 神龍は、砲撃体勢に入った感じの動きを見せた機械騎士に、一応の警戒心を向けていた。


 ただし、それは本当に『一応』でしかなかったけれど。


「(マスターのシールドを破れるならすごいなー。絶対無理だろうけどー)」


 キチョウにはそのような考えがあって、どっしりと構えていた。


 ちなみに、万一、シンの展開しているシールド魔法の防御が敵の攻撃で抜かれるような事態が発生した場合、キチョウのプライドはズタズタになる。


 それは、自身の渾身のブレスでも、シンのそれを絶対に貫けないことを知っているからだ。


 まぁ、今回の事案においてはキチョウの予測が正しく、そんな未来は当然起こらないのだけれど。


「うわっ! 警告とかなんもなしでいきなり撃って来るかぁ。一応、人が乗ってるって向こうは気づいてないんかな? キチョウ。避けなくても平気だけど、手の内を明かしたくないからできるだけ直撃を喰らうのは避けてな」


 外れた砲撃を見たことで、それがシールド魔法を貫くことができないことを確認できてしまったシン。


 勇者はキチョウへ、冷静に指示を出した。


 ちなみに、これが冒頭の一連の状況へと繋がる場面だったりするのだけれど。


「はーい。下手くそ過ぎて当たるほうが難しいかもー」


 ひょいひょいと砲撃を躱して、地上にいる機械騎士へと近づくキチョウは、蝶のように舞うのであった。


「おーい。一度話を聞きたいんだが、撃つのをやめないか? やりあうのは話をしたあとでもできるだろ」


 シンから発せられた呼びかけは、相手に声がちゃんと届くように魔法で音量を増幅し、なおかつ指向性を持たせているのは言うまでもないであろう。


「誰だお前? 俺と対等に話ができる立場の奴なんざ、存在しねぇぞ」


「まぁまぁ。そう言うなよ。君はたぶんだけど、日本から来たんだろ? 俺も日本人なんだ。同郷の誼でさ。あとから戦うにしても、その前にちょっとお話するくらいは良いじゃないか。俺の名前は『朝田迅』っていうんだ」


 シンはキチョウに接近させながらそう言いいつつ、自身は身に纏っていた子機アーマーの頭部を外し、素顔を露わにする。


 その行動は、ちゃんと顔を見せて話し合うためであった。


「『朝田迅』だと? ってことはお前、『ジン』じゃねえか! そんな変装で俺を誤魔化せると思ってるのか? 髪の色がちょっと違う程度で。広域指名手配の重犯罪者がこんなところで何を言ってるんだ! お前のせいで俺は死にかけたんだぞ」


 シンにとって、相手はまさかの、シン自身のことを知っていることがその発言から嫌でも悟らざるを得ない人物。


 想定外過ぎる情報が飛び出した瞬間であった。


 こうして、シンとキチョウはデリーの親の仇である日本出身の勇者気取りな人物と、邂逅することに成功した。

 しかしながら、その相手はシンの情報を持っていることが発覚し、しかも完全な喧嘩腰の状態で、ガッツリとシンを恨んでいる様子すらある。

 機械騎士の操縦者は一体どこからきて、どんな情報を持っているのか?

 シンのことを『重犯罪者』呼ばわりするのは何故なのか?

 のちのちに明らかになるであろうそうした謎が、シンの胸中に沸き上がる。

 未来を知る者は誰もいないのだけれど。


 子機経由でサンゴウが受信し、船橋で映像とともに流す音声により、シンと機械騎士の操縦者との言葉のやり取りをデリーが知って、自身の現在の保護者的存在が『重犯罪者』と言われたことに衝撃を受けていたのは知る由もない勇者さま。

 同じ情報を得たミウは、『レッテル張りは、それをする側のポジション次第でコロコロ変わるから意味がない。たとえば旧自由民主同盟の上層部とか、シンをめっちゃ恨んでるし重犯罪者扱いをしたいだろうな』と冷静過ぎる判断をしていたことには、それをあとで知って驚くしかないシンなのであった。

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