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生体宇宙船同士の戦いと、鉱物生命体

~ギアルファ銀河旧同盟側支配宙域、ギアルファ銀河帝国とは反対側の未開拓宙域に接する外縁部~


 サンゴウは、自身が保有しているデルタニア星系の軍の記録からすると『存在するはずがない』としか考えられないフタゴウを相手に、戦闘状態へと突入していた。


 何故、そんな事態になってしまっているのか?


 では、そこまでの流れを、時系列順に整理してみよう。




 サンゴウとジンの最強コンビは、ギアルファ銀河帝国の皇帝と皇妃ローラからお願いされた宇宙バッタの問題を概ね解決、いわゆる『誘き寄せ作戦』から始まった殲滅戦の部分を終了させた。


 続いて、宇宙バッタの生き残りがギアルファ銀河帝国の支配領域内に、『脅威となる群れに育つレベルでは、もういないこと』を確認する作業へと移行する。


 サンゴウが殲滅戦を終えただけで帝都への撤収しなかったのは、各惑星や、星系単位で保有している戦力で、対応不可能な群れに育つ可能性を排除しなければ、また同じことが起こるかもしれないから。


 その最後の仕上げ的な確認のための航行中に、サンゴウは高速で接近してくる一隻の宇宙船に気づいたのだった。


 しかもなんと、その宇宙船が垂れ流している識別信号は、サンゴウの製造元が発行したモノで、サンゴウが知る『フタゴウ』のモノだったのである。


 その事実を、サンゴウは艦長へと伝える。


 その際に、まぁ驚きもあって、だ。


 サンゴウが、疑問形のニュアンスで『フタゴウ』の名前を出したのは、大して問題になるような事柄ではなく、些細なことでしかない。


 ただし、報告を受けたジンが唐突に名の出て来た『フタゴウ』についての更なる情報を求めて、質問するのは当然の流れであろう。


「サンゴウ。その『フタゴウ』ってのは何だ?」


 ジンの発言は、ざっくりし過ぎな問い掛けだったかもしれない。


 だが、ジンとサンゴウの間ならば、これだけで十分に意図は伝わる。


 サンゴウはフタゴウへの呼びかけを行いながらも、並行してフタゴウについての情報をジンに開示して行くのだった。


 サンゴウが記録として知る『フタゴウ』とは、『機械式人工知能搭載型の生体宇宙船、試作二号機』のこととなる。


 搭載されている人工知能はサンゴウの有機式とは異なり、通常の機械式コンピューターによるモノであり、電気信号での生体部分の制御を行う形の運用を目指して造られた。


 ちなみに、フタゴウの前には失敗作としての試作機が二つあり、その失敗作の反省から、フタゴウは船体の規模を縮小した形の『砲撃専用船』となっている。


 制御が不安定であるものの、船体のサイズが小さめな割に火力は非常に高く、並行して開発が行われていて、製造に着手されていた『サンゴウ』の試作中に、フタゴウは実戦投入での試験運用が行われていた。


 けれども、その試験運用中に、最終段階でフタゴウは暴走することになる。


 サンゴウが持つデルタニア軍の記録では、暴走を止めるために破壊処分されたことになっているのだ。


 サンゴウはそうした自身の持つ、『フタゴウに関係する、デルタニア軍の記録』の内容を、ジンへざっくりと開示したのであった。


「ふむ。破壊されたはずのモノか。って、おいこれ。そのフタゴウがこっちへの攻撃態勢に入ってないか?」


「撃って来ました! 回避、間に合いません。直撃、来ます」


 直前まで、フタゴウに対して『敵』という判定をしていなかったサンゴウ。


 よって、起こった事態にサンゴウは慌てるわけだが、攻撃態勢を感知した段階でさっさとサンゴウの外側にシールド魔法を展開していたジンには余裕があった。


 ジンのシールド魔法による強固な防御は、フタゴウの砲撃程度だと被害を受けようもない。


 龍脈の元を融合された勇者の魔法は、たとえジンに少ししか自覚がなくとも、それほどのモノへと進化していたのだ。


「艦長。直撃の無効化、ありがとうございます。ですが、艦長の『シールド魔法』って強力過ぎませんか?」


「俺、勇者だもん」


「そうですね。そうでしたね。もう良いです」


 答えになっているようで、全く答えになっていないジンのサンゴウへの返し。


 サンゴウは、諦めて現実の事象のみを記録し、受け止める。


 こうした部分は、機械式人工知能には不可能な、有機人工知能が優れている点なのだった。


「で、これはさ。反撃して良いの? まだ撃って来てるけど。その『フタゴウ』ってのは、味方なのか?」


 一応、友軍の可能性がジンの頭を過った。


 ただし、この場合の『友軍』とは、ギアルファ銀河における帝国軍ではなく、デルタニア星系のデルタニア軍となるけれども。


 もし、現状が相手側の誤認攻撃であるなら、反撃をするのはよろしくない。


 その判断がつかない以上は、相手からの攻撃をシールド魔法で防ぐに徹するしかないジンであった。


「いえ。サンゴウと製造元が同じであることを示す識別信号は出ているのですが、デルタニア軍の識別信号は出していません。何より、できるはずの感応波による意思疎通ができません。残念ですがこれでは、『フタゴウを『敵』として処分するしかない』と判断します」


「そうか、『敵』なのかぁ」


 サンゴウとは別の、初めての生体宇宙船の存在を確認できた状況。


 その事実だけで、ジンはちょっとワクワクしていた。


 それだけに、フタゴウがサンゴウから『敵』と断定されてしまったのが、ジン的には非常に悲しい。


 だが、どれだけ興味惹かれる存在であったとしても、サンゴウの敵ならば、だ。


 それは、ジンにとっても敵となるしかないのだから。


「フタゴウの性能は、サンゴウとの比較で火力は二倍、機動力は五割増し、防御力は五分の一です。いわゆる、砲撃専用船なので、攻撃と回避に特化しています。あっちの方がサンゴウよりも火力は高いはずなのですけれど、艦長のシールド魔法があるおかげで、全然平気ですね」


「昔の俺なら防げなかったかもな。だけど今は、『魔力量が違う!』ような気がしなくもない」


「いえ、そこは自信を持っていただきたい部分なんですけれどね」


「まぁ、細かいことは良いじゃん。んで、『敵』ってことなら、こちらからの攻撃はどうする? もし『サンゴウが気持ち的に攻撃し難い』のなら、俺がやるけど」


「そうですね。『今のサンゴウの力量ですと、フタゴウに攻撃を当てられるかどうか?』が問題になるのですが。とりあえず、やってみましょうか。初手はお任せください」


 このような経緯で、サンゴウとフタゴウの戦闘が開始された。


 これが、冒頭の状況に繋がって行くのである。


 デルタニア軍でも前例のない生体宇宙船同士の戦いの最中で、ジンはサンゴウから要請があるまでは、基本的に見学の姿勢を貫く。


 この時のジンが、『積極的に手を出さないことを『是』とする考え』でいられたのは、『サンゴウが経験を積む良い機会だ』と思ったからだった。


 サンゴウも生物である以上、『経験による最適化』というモノが存在する。


 それを、ジンは過去に感応波で流し込まれた知識から理解していた。


 そして、『部分的にでも格上の相手であれば、学ぶことも多いだろう』との判断が働いていたのだ。


 もちろん、『サンゴウはジンのシールド魔法によって、完璧に守られている』という余裕があってこその、『いわゆる、舐めプ』だったりもするワケなのだが、そんなことは些細なことであろう。


「当たりませんね。被弾は減っていますが」


「だなぁ。『フタゴウが素早い』ってのもあるだろうけど、『サンゴウの攻撃のパターンが予測されている』って感じもするぞ」


「そんな可能性もありますか。ならば、もう少しやらせてください」


「おう。貴重な経験だ。でも、もしヤバくなったら勝手に手出すから。それまではいろいろやってみると良い」


 そんな会話を間に挟んで、戦闘開始から二時間が経過した。


 敵であるフタゴウの、攻撃精度はかなり高い。


 それだけに、サンゴウの回避行動はどんどんと向上し、熟達して行く。


 また、サンゴウからの攻撃も、『当たりそう?』なレベルにはなって来ていた。


 しかし、練習的なそれがずっと続けられるか?


 そんなことはあり得ない。


 戦闘に影響する有限なモノが、そこには確実に存在するのだから。


 そうこうしているうちに、事態は動く。


 フタゴウからの砲撃回数が、ジワジワと減る事態へと移行したのだ。


 当たり前である。


 サンゴウとフタゴウとでは、そもそもエネルギー面での条件に差があり過ぎた。


 ジンから、エネルギーがいくらでも補給できるサンゴウ。


 そのようなチート状態の船と持久戦を行って、勝てる船はどこをどのように探しても、おそらく存在しないのだから。


 サンゴウから見たフタゴウには、ここへきてエネルギー残量に余裕がなくなってきたように映る。


 かくして、フタゴウは『逃げ』の意思をジンとサンゴウに感じさせてしまう、撤退準備行動へと入ったのであった。


 まぁ、見物モードであった勇者がフタゴウのそうした変化を見逃すはずもなく、撤退するのを黙って見送るワケもないのだけれど。


「おっと。逃がすワケにはいかんよな。ヨシ、この距離なら魔法で行ける。状態異常付与。麻痺」


 生物に状態異常を付与する魔法。


 それを、ジンはサンゴウの船橋にいるままの状態から、フタゴウに対して行使したのだった。


「艦長! 何ですか、それは!」


「いや、だから『麻痺』だってば。サンゴウもそうだけどさ。『フタゴウ』って生体宇宙船、つまり『生物』なんだろ? ならば、『身体を麻痺させる状態異常付与魔法』が効くと思ってな。魔力や魔法の存在を知らないのなら、魔法防御力なんて最初からないだろうし」


「ホント、艦長はもう。デタラメ過ぎますよ」


 実際のところ、フタゴウもサンゴウと同じ宇宙獣をベースにして生み出された生体宇宙船なので、魔力をエネルギーとして一部利用することができる。


 よって、素養自体はあるので『魔法防御力が皆無』というワケではない。


 しかし『皆無』ではないのだが、今のジンが相手となるどうであろうか?


 そんなものは『僅かにあるだけ』でしかなく、いわゆる『誤差の範囲』となってしまう。


 尚、ジンから魔力をエネルギーとして供給され続けているサンゴウの現状は、船体の全てに魔力を纏っている状態と変わらない。


 そのため、サンゴウの魔法防御力はフタゴウとは違い、格段に高くなっている。


 また、ジンの状態異常付与は、範囲魔法ではないことから対象が単体相手でしか使えない。


 故に、大群で襲って来るような相手には不向きな魔法だったりする。


 まぁ、やろうと思えば連発することは可能なのだけれど。


 要は、ちょっと前に倒していた宇宙バッタみたいなのが相手だと使い難い魔法なのだが、そんなことは現状に何ら関係のない話であろう。


 とにもかくにも、麻痺状態に陥っているフタゴウは、慣性のみで動いている状態となってしまった。


 そうであれば、だ。


 脅威ではなくなった以上、サンゴウには『フタゴウの調査をしたい』という欲求が生じてしまう。


 サンゴウはジンにその許可を求めるのであった。




「接舷、接触します」


 フタゴウとの相対速度を合わせ終えたサンゴウは、調査のための行動へと移って行く。


「おう。やってくれ」


「これは! 接触部を緊急パージ。侵食汚染を確認。汚染された船体部分を切り離しました。艦長、ダメです。フタゴウは何かに支配されています」


 実のところ、このフタゴウは現在、『鉱物生命体』なるモノと融合してしまっている状態だった。


 その融合によって、鉱物生命体に全てを支配されている状態だったりするのだ。


 むろん、そのような事情がサンゴウにわかろうはずもない。


 外部からの解析ではその実態がわからず、接触解析をしようとすればサンゴウ自身が浸食汚染されてしまう。


 つまりは、調べることすらできないのであった。


「なら、無理に調べる必要はない。危険なら処分一択だな」


「やむを得ないですね」


「さて、一応聞くけどさ。フタゴウには『急所的な場所』ってあったりするか? いわゆる、『そこだけ壊せば死ぬ』みたいな場所。それがなければ、全体を消滅させる勢いで攻撃するけど?」


「脳とか心臓に当たる部分のことですね。『艦長の理解が及ぶ範囲』で言えば、残念ながら、フタゴウにはそのような部位はありません。消滅処分でお願いします」


「了解だ。ならちょっと行って来る。少し離れて、待っていてくれ」


 そうして、短距離転移で飛び出すジン。


 勇者は、収納空間から聖剣を取り出すのであった。


「行くぞ! 全消滅スラーッシュ!」


 勇者の最強の一撃に対して、自力で動くことができないだけではなく、防御フィールドすら展開できないフタゴウには、対抗する手段がない。


 広い意味だとサンゴウと同種に分類される船は、ジンの攻撃であっさりと消滅したのであった。


 このような想定外の事案発生があったものの、大元の宇宙バッタ関連のお仕事は特定の宙域を確認する航行を終えたことで完了となる。


 フタゴウに関連することは不明な点ばかりで、ハッキリ言ってわからないことだらけなのだが、メインのお仕事は完了しているのだ。


 それ故に、ジンとサンゴウはこの案件に区切りをつける。


 サンゴウは帝都に向かって発進するのだった。




 帝都に着いたジンはお仕事の報告を行う。


 とは言っても、だ。


 報告書のデータはサンゴウが作成してくれるので、実際にやることはそれにざっと目を通し、その報告書の提出を承認するだけだったりするのだけれど。


 報酬の口座への振り込みと、残高の確認をしてから久々の自宅へ戻る。


 ミウが抱きついて出迎えてくれたことに、ジンは驚くしかなかった。


「(俺、フラグ立てたっけ?)」


 ジンはそんなことまで考えてしまう始末だ。


 続いて、子竜がジンにジャレついてくる。


「(キチョウは全く成長しないなぁ)」


 子竜を撫でてやりながらも、しっかりと食べさせている割には身体の成長のしなさかげんが気になり、少々不安に思ったりもする。


 しかしながら、よく考えるとドラゴンの成長速度や見た目の変化と年月の経過の関連性についての知識が、ジンにあるワケでもなかった。


 尚、ジンは知らないことだが、キチョウの身体が成長できないのは当たり前だったりする。


 この世界には、ドラゴンの成長に必要な魔力が周囲に漂っていないのだから。


 子竜は知能が高いので、その事実には気づいていた。


 けれども、身体が大きく成長してしまうと居場所の問題が出てきてしまう。


 そのため、自己判断で現状維持をしているだけであった。


 いずれサンゴウ内で生活し、キチョウはドラゴンとしての成長をする時が来るのだけれど、それは少しばかり先のお話となるのである。


 付け加えると、子竜はその身に高濃度の魔力を浴び続けることで、種としての進化もする。


 竜から老竜へ。


 老竜から龍へ。


 その先は、『老龍』、『神龍』という順で進化するのであるが、ジンが召喚されたルーブル帝国がある世界でも老龍までしか進化して到達した例はなかった。


 とにもかくにも、モフモフ枠とペットの子竜によって、帰宅直後のジンは癒されていたワケだが、出発前の経緯からするとそれで済むはずもない。


 なんとなく向けた視線のその先には、目だけが全く笑っていない美人エルフの三姉妹とシルクの、四人の妻が音もなく佇んでいたのであった。


 そこからは、ガッツリとしたお説教が延々と続いたのは言うまでもない。


 それでも、ジンは自宅での寛ぎの日々に一旦は戻ることができたのである。

 

「(試作二号機が『フタゴウ』って呼び名で出て来た。ということは、一号機が。いや、初号機もそのうち出て来るのか? でも、よく考えるとサンゴウは『フタゴウの前に二機の失敗作があった』って言っていた気がするんだよな。となると、零号機もあったりする?)」


 ゆったりと寛いでいる中で、ジンの頭の中にはそんな考えが過ることもあった。


 ジンがそうした時を過ごしている時、特にやることのないサンゴウは首都星の海面上に浮かんで、待機状態を維持する。


 物理的に何かしなければならないことがなければ、サンゴウはいろいろなことについて思考する日々を過ごすことになる。


 そのような待機中のサンゴウは、フタゴウについての記録を調べていた。


 記録上は、破壊されたはずの船。


 しかも、現在位置のギアルファ銀河は、デルタニア星系と一体どれだけ物理的に離れているのか?


 単純に距離だけの問題ではなく、艦長の身に起こった事象のケースも加味して考えると、デルタニア星系があった世界とは、全く別の世界の宇宙の可能性すらもある。


 先日の予期せぬ遭遇とは、そのようにデルタニア星系とは縁もゆかりもないはずの場所に、フタゴウが突然出現したことになるのだ。


 そして、その原因がサンゴウにはわからない。


 そのため、サンゴウは手持ちにある、デルタニア星系でのフタゴウの戦闘記録の詳細を、入念に調べていたのであった。


 フタゴウは試作されてから、試験中に『人工知能が瞬間的に明らかにおかしな命令を出し、直後にそのおかしな命令を修正する』という行動ログが頻出していた。


 これは、試作機としてフタゴウが製造された直後から、判明していた不具合となっている。


 けれども、『すぐに自ら修正している』という点が評価され、『運用上は問題ない』と、フタゴウを実際に使うことになる軍は判断を下した。


 そうして、フタゴウは実戦での試験運用の段階へと移行したのだ。


 一度目と二度目の、軍での試験運用となった短時間の実戦投入では、想定の三倍以上の敵を撃破するスコアをフタゴウは叩き出してしまう。


 そのため、軍は本格採用に乗り気になってしまった。


 最終試験となった三度目は、長時間の実戦投入とされることに。


 その試験運用中に、フタゴウは暴走したのである。


 敵味方関係なく砲撃を繰り返し、無茶苦茶な高機動の負荷によって、フタゴウ内部の乗組員が耐えられずに全員が死亡してしまう。


 船外からのデルタニア軍の命令を受け付けず、全くの無秩序に戦場を飛び回る暴走中のフタゴウ。


 何とも恐ろしいことに、この時のフタゴウは『艦長死亡』という事態によって掛かるはずの制限が、暴走状態になったせいなのか掛かっていなかった。


 その事態を受けて、当然のごとくフタゴウに対する破壊処理の命令が出される。


 しかし、そのあまりの戦闘機動に、デルタニア軍の通常攻撃ではまともに砲撃を当てることが不可能であった。


 事態を重く見た部隊の司令官は、最新式の飛空間ミサイルの大量使用を許可し、集中攻撃命令を出す。


 この攻撃により、広範囲の空間を全て抉り取ることで、デルタニア軍はフタゴウの破壊処理をついに成功させたのだった。


 これは、軍の記録上だと『破壊』とされたが、実際は『フタゴウをどこか別の空間に飛ばして、目の前から消滅させただけ』でしかない。


 ちなみに、フタゴウの暴走の原因は、生体部分から不規則に発生する電気的な逆流信号であり、デルタニア星系の技術陣ではフタゴウタイプに必ず生じるこの原因の克服ができなかった。


 そして、『機械的なコンピューターの人工知能では、生体宇宙船の制御が困難である』と結論付けられ、三号機は試作途中の段階で有機人工知能での制御に変更されたのだった。


「つまり、記録上は『破壊処理』となっていたけれど、『爆散』とか『粉砕』という意味での破壊ではなかったというワケですか」


 サンゴウはこの記録から、フタゴウがサンゴウ自身と同様に、超空間に飛ばされたと判断した。


 しかもサンゴウとは違い、『船体をバラバラにされて』であろう。


「『どうにかして、バラバラにされた船体の部位を集め、超空間から通常空間へ出たらこの宇宙だった』というところかな」


 考察を重ねた結果、それっぽい結論を出したサンゴウである。


 しかし、サンゴウが気づくことはないけれど、この『推測』と言うか『結論』と言うかが、実は間違っていた。


 飛空間ミサイルの大量使用で相互干渉した結果、フタゴウは本来ならば超空間へと飛ばされるはずが、何故か偶然にも通常空間へと飛ばされてしまったのだ。


 そうして、フタゴウの『心臓部』と言って過言ではない人工知能が搭載されている部分が、奇跡的に損傷せずに丸ごと含まれている状態で、直接この宇宙に出現しただけだったりする。


 そして、その出現場所がギアルファ銀河から二番目に近い距離にある銀河、お隣のウミュー銀河であり、しかも『そこに生息していた、鉱物生命体のちょうど目の前だった』というだけの話であった。


 ただし、サンゴウの間違った結論は、別に何かへ影響を及ぼすワケでもない。


 現実に遭遇してしまう事象は重要だが、この案件はそうではないのだから。


 特定の事象を自力で成そうとしたり、あるいはその事象が発生する前に防ごうとするならば、正確な原因の究明には意味があるだろう。


 しかしながら、ジンが消滅させたフタゴウについては、済んだ話でしかないのだからサンゴウの自己満足以上の意味は、結果的に存在しないのだった。


 加えて、余談ではあるが、フタゴウには心臓部となる人工知能が搭載されている部分があるにもかかわらず、以前に艦長からフタゴウの弱点を問われた時のサンゴウは、それがないことを告げていたのは何故なのか?


「あるにはあるが、場所が特定できない」


 実のところ、これが答えだったりする。


 フタゴウのそれは、船内でどこにでも移動させることができる。


 そのため、場所の特定は不可能。


 よって、厳密に言えば『弱点があるにはある』が、『ないのと同等』という判断から、ジンにはそのように伝えられただけ。


 無駄に詳しく説明をしていないあたりは、阿吽の呼吸なのかもしれない。




 とにもかくにも、フタゴウの人工知能がある機械の部分は、偶然出会ってしまった鉱物生命体に融合侵食され、全機能と保有データを乗っ取られた。


 そこから、鉱物生命体がフタゴウの生体部分の再生を行いながら、そこにあったデータを検分する事態へと発展。


 続いて、そのデータ内から汎用型三号機と母船型四号機の開発計画案の詳細と、失敗作に終わった過去の二機の全てのデータを発見したのだった。


 尚、母船型の四号機は、二号機十隻と三号機五隻までを同時搭載でき、それらを運用することを目的とした母船となっている。


 フタゴウは試作品特有の制限が安全装置の一環として掛けられており、生体部分の再生量には製造段階で上限が設定されていたのもその内の一つであった。


 フタゴウの人工知能を乗っ取った鉱物生命体は、自身を艦長扱いとして登録することに成功する。


 その状態から、融合してくれる仲間の到着を待ちつつ、融合した生命体は艦長権限を行使して限界まで再生を行い、生体部分を増やしていた。


 こうして、二号機のコピー四隻、三号機モドキ五隻、四号機モドキ一隻の合計十隻が、ウミュー銀河で造り出されたのである。


 そのような経緯で新たに造り出された生体宇宙船は、『自己再生での修理不可』という点だけが、『本来のソレと異なる点』となっているのだけれど。


 ちなみに、鉱物生命体は、元来、他者への攻撃の手段として体当たりと融合侵食しか方法を持っていなかった。


 そのため、エネルギーを利用して砲撃できる生体宇宙船は、『新たな武器』として即採用されたのだった。


 これは、日本の戦国時代に鉄砲が戦に導入されたのと似たようなものだろうか?


 もっとも、『当時の鉄砲のように、大量生産することはできない』という部分で違いはあるけれど。


 ウミュー銀河とは、ギアルファ銀河に最も近い銀河とは真逆の方向の側にあるお隣の銀河であり、鉱物生命体が覇権を握った銀河でもある。


 その鉱物生命体とは、種族特性として、常に知識が全ての個体に共有される不思議生物だったりする。


 これは、通信による情報伝達が必要ないことを意味するのだ。


 鉱物生命体は、ある時、彼らにとって重要な情報を感知してしまう。


 遥か遠く隣の銀河から、彼らにとって未知の金属である、『ミスリル』という存在を感知してしまった。


 未知のそれは、種族としての進化に利用できる可能性が高い金属だった。


 それを知って、放置などできるはずもない。


 それ故に、だ。


 フタゴウから得た跳躍航行の技術により、ギアルファ銀河に到達することが既にできるようになっていた彼らは、二号機のコピー一隻をギアルファ銀河へと向かわせる決定を下す。


 偵察が主目的だが、『可能なら、『ミスリル』の採取をする』も、努力目標とした計画が実行に移されたのである。


 くだんのミスリルはサンプルをサンゴウが所持しており、偶々、ウミュー銀河側から一番近くにそのサンゴウがいた。


 そのため、二号機のコピーとサンゴウが遭遇したのは必然となる。


 宇宙バッタの案件の仕上げの段階で、生体宇宙船同士の遭遇戦が発生するに至った経緯は、このようなモノなのだった。


 それはそれとして、帝都にいるロウジュたちや、ベータシア星系の主星にいるレンジュもミスリルを所持している。


 だが、そこへとフタゴウのコピーが向かわなかったのは、『位置的な偶然』というか、『彼女らが幸運に恵まれただけ』であった。


 サンゴウが『フタゴウだ』と認識していて、ジンにより消滅させられた二号機のコピー。


 消滅の瞬間まで、その船体に融合していた鉱物生命体の個体の記憶が、ウミュー銀河にいた鉱物生命体たちの全てに共有されている。


 ウミュー銀河の鉱物生命体たちは、当然のように仲間が殺されたことに怒りを感じていた。


 また、遭遇したサンゴウを捕獲して利用することを考えつき、それについても魅力を感じていたのである。


 かくして、当初の『未知の金属の採取(奪取?)』に加え、『サンゴウを捕獲して、利用しよう』というなんとも身勝手な理由で、ウミュー銀河から鉱物生命体の派兵が行われることとなる。


 派兵部隊の偵察隊がギアルファ銀河に近づいた時、哨戒任務で航行していた帝国軍の艦艇と遭遇したのは、不可避な事態だったのかもしれない。


 むろん、そこまで事態が進むには、それ相応の時間が必要であった。


 ジンとサンゴウのコンビが、大きな事案発生のないゆったりとした時間を過ごしていた間に、事態は動いていたのだった。


 それはおそらく、勇者が持つ運命力に引き寄せられている事柄なのであろう。


「サンゴウ。出番だってよー」 


 こうして、勇者ジンとサンゴウは、サンゴウが『フタゴウ』と認識する生体宇宙船との戦闘を終え、『宇宙バッタの案件を完了させた』として帝都へと戻った。

 もし何もしなければ、出ていたはずの帝国軍への大被害を未然に防いだ。

 また、ギアルファ銀河帝国の版図の一部が洒落にならないレベルで荒廃していた事態の発生も、未然に防ぐことを成功させている。

 その過程でジンは妻四人の怒りを買い、盛大なお説教を受けたのは銀河の命運とは関係のない個人レベルの話であり、些細なことであるのだ。

 一見片付いたように映る事案は、時を置いて別の事案発生へと繋がって行く。

 ジンがサンゴウに告げた出番とは何なのか?

 未来を知る者は誰もいないのだけれど。


 フタゴウとの遭遇を切っ掛けに、それ以前の試作機のコードネームがなんとなく気になってしまうも、それをわざわざサンゴウに確認することはしない勇者さま。

 それについて心の中で、「こういうのはさ、妄想を膨らませる過程を楽しむのが重要だから、焦って答えを知る必要なんてないんだよね」と、誰に向けての言いワケなのか、よくわからないことを呟いてしまうジンなのであった。

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