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モフモフと害虫駆除と、新たな出会い

~ギアルファ銀河旧同盟側支配宙域の外縁部~


 サンゴウは、宇宙バッタの群れをバッタバッタと薙ぎ倒すように。


 もとい、索敵をして発見からの即攻撃で撃滅を繰り返しており、群れを統率しているはずのトノサマを探して航行していた。


 では、前話だとミウたちを乗せて帝都へ向かっていたはずのサンゴウが、全く別の場所で何故宇宙バッタの群れを撃滅しているのだろうか?


 そこへ至った経緯を、時系列順に振り返ってみよう。




 ミウたちが住んでいた惑星から、サンゴウは帝都に向けて出立している。


 その航行中に、ミウたち獣人はサンゴウの感応波を駆使した知識の流し込みを受けて、ギアルファ銀河帝国の国民としての生活が、できるレベルの文明人へと進化していた。


 獣人さんたちは新たな知識を得てからすぐに、サンゴウの船内設備にも上手く適応する努力をしていたのだ。


 サンゴウに流し込まれた通り一遍の知識が、実践を経験することによって実用的なモノへと変化して行く。


 自力で宇宙に出るどころか、狩猟と採集が生活基盤となっていた、いわゆる原始的な文明レベルの中にいた獣人さんは、最早影も形もない。


 そのように仕上がって行く途中の段階で、ジンはミウと話をする場を設けた。


 サンゴウが獣人全員への聞き取り調査を終えた結果、彼女だけが特殊な存在であったからだ。


 ミウだけの特殊性とは何か?


 それは、彼女だけが人型ではない、いわゆる獣の姿に変身ができる点にある。


 ジンはミウとの出会いの際に彼女の変身を目撃しているので、それについて尋ねてみたのだった。


「ああ、それか。アレができるのは、各種族の族長の血族のみだよ。で、他の種族の族長の血族は死に絶えたみたいだからもういない。つまり、今アレができるのは私だけで、もし私に子が生まれなければ、それも絶えてしまう話になるね」


「そうなのか。それは何と言うか、残念な話だな」


 ジンが知るミウの変身は、大型の山猫のような姿への変化だ。


 ジンは、それを単純にモフりたい。


 そして、山猫だけではなく、狼や狸や熊だって、だ。


 直接触れられるモノなら触れて、撫でまわしたかったのがジンの本音である。


 それだけに、他の種族の生き残りはミウのように変身ができないのは、ジンの主観においてだと非常に残念な話になってしまうのだった。


 まぁ、今更どうしようもないことなので、『そういうものなのか』と、納得するしかない事柄ではあるけれども。


 それはそれとして、ミウが言った『子』の部分の話の流れから、『種族の混血の問題はどうなるのか?』に端を発するアレコレが確認されることとなる。


 その結果、違う種族の組み合わせの番の場合、子供は必ず母親の種族として生まれて来ることが判明する。


 この部分は、ジンとサンゴウがギアルファ銀河帝国で得た知識と同じであった。


 そのため、理屈はわからなくても『同じであること』に内心でジンは胸をなでおろすことになったのだが、そんなことは些細なことであろう。


 尚、付け加えると、獣人たちから生まれる子供の性別は、男性の割合が少なく女性が多く生まれることもわかった。


 これは、サンゴウに乗り込んでいる子供たちに男の子が少ないのを、納得してしまう情報なのだった。


 ちなみに、獣人たちはサンゴウへ乗船した際に、検疫のついでで遺伝子解析がこっそりと行われている。


 サンゴウの解析結果によれば、『ジンやギアルファ銀河帝国の人間と獣人たちが男女の関係になった場合に、子供が望める』と、いろいろな意味で悪くない答えが出ているのであった。


「(少なくとも、現時点でサンゴウに乗っている四種族については、絶滅の心配はなさそうだ)」


 サンゴウからそうした解析結果を知らされたジンは、ホッとしたのだった。




 ここからは、少々余談的に話が脱線する。


 獣人たちが同種族で固まって暮らしていたのは、実のところ生まれて来る子供の男女の数の差が原因だったりするのだ。


 獣人の中で違う種族との交配が可能であっても、そもそも同じ種族内で男性の割合が少ない。


 そのため、態々別の種族のところで生活しようとする男性は、まずいなかったことが原因である。


 それは、『同族の女性が男性を囲い込んで、他の種族のところへ男性を行かせない』とも言うが。


 要は、男の取り合いなのだった。


 まぁ、ギアルファ銀河帝国の男女比は『出生時の割合』で言うと微妙に男性が多いので、獣人が入り込んでも影響は少なく、獣人側にメリットが大きいのかもしれない。




 さて、余談はここまでにして本筋へと戻ろう。


 ジンとミウとの間で、雑談を交えた情報収集が行われたことにより、相互理解が少しは進んだ。


 打ち解ける頃合いを見計らっていたジンは、ヘタレ勇者であったはずなのに、己の欲望に負けたのか?


 遂に、本音の本題へと切り込むのである。


 これが、前話のラスト付近での以下の発言に繋がって行く。


「ミウ。一つ教えて欲しい。とても。とても大事なことなんだ」


「なんだろうか? 私で答えられることなら良いのだけれど」


 ミウ視点だと、語勢から真剣さがひしひしと伝わって来てしまう、ジンの言葉。


 それにやや気圧されながらも、ミウは恩人である男の要望ならば、できる限りのことはしたかった。


 それだけに、『ジンの疑問がどのようなモノなのか?』がわからなくとも、真摯に答える姿勢を見せたのだ。


「俺がいたところでは、だな。ミウたちのような『獣人族』というのは、実在していなくて空想上の存在だったんだ」


「へぇ。そうだったんだね。でも、『実在していないのに、空想上では存在していた』ってことが、すごいとは思うけど」


 ミウはサンゴウから流し込まれたさまざまな知識によって、物事を論理的に考える能力を向上させている。


 それだけに、獣人として本来ならばあり得ない感想が飛び出したのだが、それを異質なモノと判断する者は誰もいない。


 もっとも、それでなにがしかの問題が発生する話ではないから、そのままで良いのだけれど。


「で、だな。その空想上の存在の設定では、『耳や尻尾を触らせるのは、恋人か結婚している相手のみに許される行為だ』というのがあったんだ。そこのところはどうなんだ?」


「特にそういった決まりごとはないよ」


 ミウは深く考えずに、あっさりと事実を述べた。


 それが、どんな結果をもたらすのかを知らずに。


「ないのか! 本当にその類のルール的なモノがないんだな?」


「うん。ないよ。けれど、他人に自分の身体を触らせることに対して、『簡単に同意するワケがない』のも事実としてはある。だから、『実質的には、そのルールに近い』のかもしれない。触られる側が女性になると、『特にその傾向は強い』と思う。だけど、何故それがとても大事なことなのか? 私にはそれがわからないよ」


「(やった! 相手の同意さえあれば、好きなだけモフれる! 恋人限定や夫婦限定の縛りはない!)」


 ジンはミウが語った『実質的には』のくだりの部分を、自分に都合良く、あえて無視して舞い上がっていた。


 それ故に、ミウの疑問への答えが遅れ気味になるのだが、それはジン的には仕方がないことだったのかもしれない。 


「あー。『大事なこと』である理由な。これは、一部の特殊性癖の持ち主に限られる話ではあるのだが」


「うん」


「その、な。『獣人さんたちの、耳や尻尾などを触り倒したい』とかな、『じっくり撫で回したい』とかをだな、考える人間が世の中には存在するんだ」


 予想もしない理由で、ドン引きするミウ。


 一旦は絶句状態になり、そこから復帰して頭が回り始めると、素朴な疑問が湧いてくるのだけれど。


「(アレ? それって、『獣人族に限らずに、人族相手でもやったらダメな行為なのでは?』と私には思えるんだけど。違うのかな?)」


 ドン引きしつつも、そんなことを考えてしまう。


 実際のところ、ミウの考えは正しい。


 ただし、人族に尻尾はない。


 そっちはないのだが、耳はある。


 むろん、在る位置が頭部の上か横かの差異はあるにせよ、だ。


 では、その『耳』を赤の他人に対して『自由に触れて良い、撫で回しても良い』と許可する人族はいるだろうか?


 そんな者は、そうそういない。


 いや、『まずいない』が正解だろう。


 つまり、ミウの想像は全く以って正しい。


 けれども、その正論を、だ。


 いろいろ振り切っているオタク相手に、『モフモフを諦めさせる理由』として出しても、本人の欲望が優先されて無視されそうなのが現実だけれど。


「ジンもそうなのか? そちら側なのか?」


 怖いけれど、ジン個人についての事実確認をせずにはいられないミウであった。


「俺は理性で抑えている。だが、欲求としてはある。あり過ぎるくらいにある」


 ミウへ向ける視線が、既にギラついた獲物を見る目に変化しているジン。


 暴走寸前の勇者は、臆面もなく言い切ってしまう。


 このような状況になってしまうと、普段はヘタレ勇者のくせに全く本音が隠せていなかった。


「そうなんだ? 私なら、ジンが相手ならば少しくらいは我慢するよ。触れられても我慢できると思う。だから、私の耳をちょっと触ってみる?」


「本当か? 良いのか?」


 かくして、ジンは無言のままでミウの後ろに回り込み、入念に猫耳を思う存分撫で回した。


 勢い余って、許可が出ていなかったはずの尻尾にも手を伸ばしている始末。


 ミウはジンに嫌な顔を見せず、怒りもせず。


 しかもなんと、事前に許可していなかったはずの尻尾を触られていることについても、その時点で拒否をしなかった。


 よって、ギリギリセーフなのかもしれないが、客観的に見れば完全にセクハラであろう。


 付け加えると、入念に撫で回すのは、決して『少し』の範疇ではないのだ。


「(自分から『触って良い』って言ったから今回は我慢するけど、こんなことなら許可なんてするんじゃなかった!)」 


 この時のミウの本音は、誰も知らない方が平和であるのは、間違いなかった。 




 そうした、サンゴウ船内での事案発生はさておき、だ。


 帝都に向かっていたサンゴウは、リアルタイム通信が可能な距離になった時、ジンを船橋へ呼び帝都へと通信を入れる。


 それは、未開拓惑星の原住民を保護している事実の連絡と、その原住民の入国の許可を得るためだった。


 皇帝陛下にまで根回しをしたため、ミウたちのジンの自宅への受け入れと、ギアルファ銀河帝国での住民登録がすんなりと認められた。


「(やはり世の中、コネと権力! あと金!)」


 この時のジンがそんなことを考えていたのは、誰にも知られてはならない秘密である。


 尚、ミウたちは帝都へ到着するまでの期間を、生活設備が高水準に整ったサンゴウ内で生活した影響は、実のところ大きかった。


 元々の文明水準の違いが問題にならなくなるほど、いろいろなことを学習してしまったのだから。


 その結果として、このまますぐに帝国の人間に混ざって生活することが、困難な話ではなくなってしまう。


 それ故に、だ。


 当初の予定であったベータシア星系の新造惑星移住案は、ジンがお義父さんを相手に交渉をしている途中で、アサダ侯爵邸に滞在中の本人たちからの申し入れがあったことで中止となってしまったのだった。


 ちなみに、ここからは少々未来の獣人さんたちのお話となる。


 獣人族は人族やエルフよりも、身体能力、嗅覚、味覚、聴覚に優れている。


 そのため、帝都においてでもそれらを生かした職業に就くことができた。


 最初は、ジンの家に客人兼使用人見習いとして逗留をしていたものの、数年かけて一人、また一人とだんだん自立して行き、生活の場を他所へ移して行くこととなったのである。


 そのような状況の推移の中で、獣人さんの最も多かった就職先は、身体能力、嗅覚、聴覚が役に立つ護衛であり、次点が嗅覚が役に立つ食事への毒混入を発見する仕事であった。


 特に護衛のお仕事では、獣人特有の鋭敏な感覚が、賊や暗殺者を発見する面で非常に活用された。


 そのため、重宝される存在となったのだった。


 まぁそんな状況にあっても、ミウだけはジンの家にずっと残った。


 残ってしまったのだ。


 第一夫人から第四夫人までの全員が、『ちょっと怒ってるんだからね!』になったのは別のお話であり、これまた少しばかり未来のお話でもある。




 そのような、未来の話はさておき、だ。


 帝都に戻り、ミウたちを自宅に預けたジンは、その場で最近急に増えている宇宙獣による被害案件の解決を、ローラ経由で依頼されていた。


 むろん、依頼主は皇帝陛下となる。


 ただし、この段階では命令ではなく、『やってくれると嬉しいな』レベルの、拒否も可能な依頼だったのだけれど。


 ローラの説明によれば、旧同盟側の外縁部の宙域が被害の中心となっており、広範囲に小集団で宇宙獣が次々に襲って来る案件。


 そのため、現地が自前で抱えている旧同盟の残存戦力に加えて、派遣されている帝国軍の三個軍が協力していても、対処に手を焼いてた。


 尚、襲われた惑星は植物が全てがやられ、草木一本ない荒野になる。


 ジンとしては、どこかで聞いたような話であった。


 かくして、ジンは侯爵邸からサンゴウへと戻る。


 子機経由で状況を把握しているサンゴウの判断は、『対象の宇宙獣がおそらく宇宙バッタであり、状況的にトノサマとオクガタサマが既に発生していて、群れを率いている可能性が高い』となったのだった。


 ついでに言えば、その群れの推定される現在位置からして、ミウたちの星を死の星に変えた元凶の可能性が高いのである。


 ただし、ローラから得られた情報だけでは、正確に状況を判断するには足りなかった。


 遠方であり、旧同盟領の宙域の話なせいもあって帝国側の動きは鈍く、そもそも帝都に届いている情報自体が少ないのだから。


 そのため、ジンにもサンゴウにもまだ断定はできなかった。


 それでも、もし、サンゴウの知るトノサマとオクガタサマが発生していて、群れを率いているのであれば、だ。


 末端の宇宙バッタだけを倒しても、延々と宇宙バッタが湧き続けることになる。


 根本的に問題を解決するには、大元の発生源を探して潰す必要があるのが、この事案の厄介な部分であろうか。


「艦長。トノサマは単独でもサンゴウの危険度判定で『S』です。今回のケースでは戦うとなると、オクガタサマも同時に相手にすることになる可能性が高く、その場合は『SS』の判定となります。どうなさいますか?」


「『どうする』って言われてもなぁ。もし、サンゴウの推測通りの相手だったとして、帝国軍だけで倒そうとしたらどうなる?」


 この時のジンは、自分も帝国軍の一員であることを忘れているかのような、ちょっと不味い発言をしているのだが、それを問題視するような人間がこの発言を聴いていないのでセーフであった。


「はい。サンゴウの計算では五個軍を投入すると互角。勝率五十パーセントで勝っても負けても損耗率は七割に達する見込みですね。倍の十個軍を投入すれば勝率が約八十八パーセントへ上昇。その場合の損耗率はおそらく二十五パーセント前後になります」


「待て。今の投入戦力って『広範囲を三個軍でカバーしてる』って話だったぞ?」


 ジンもサンゴウも、旧同盟領の残存戦力は数に入れていなかった。


 もっとも、規模も実力も良くわからない部隊を計算に入れる方が間違っている。


 よって、この場合の二人の判断は正しいのだけれど。


「大元の群れから逐次投入されているであろう宇宙バッタの、小集団への迎撃だけなら、飽和する物量が来るまでならばその戦力でも耐えられるのではないでしょうか? 『餌場として美味しくない』と、トノサマが判断すれば別の場所に去る可能性があります。ただし、期待するには薄い可能性ですけれど」


「ということは、つまり?」


 嫌な予感しかしないジンであった。


「艦長。出番です!」


「やっぱりかぁ! でも帝国軍だと被害が看過できんほど出るのが確定の相手ならば、俺らが出張らなきゃならんのも仕方がないか」


 帝国軍の戦力が数的な意味で大幅に減少することは、結局のところジンとサンゴウに振られる仕事が増加する結果に繋がってしまうのが明白となる。


 しかも、その場合は失った戦力が回復するまでその状況が続く。


 総合的に判断すれば、今回の案件だとジンとサンゴウが速やかに関与する方が、軍務に拘束されるトータルの時間は少なくなるであろう。


 ジンの発言は、そこまで考えてのモノであった。


 付け加えると、サンゴウの発言に対しては、『俺だけで戦うんじゃないからね?』の意味をしっかりと込めた返答をジンはしている。


「(ま、たまには、勇者らしく『宇宙獣』って魔物を相手に暴れるか!)」


 そんなことを心の中で呟いてもいるけれど。


 とにもかくにも、最強コンビはそのような経緯から、くだんの宙域へと向かう。


 これが、しばらく先の未来において、冒頭のサンゴウの状況へと繋がって行く原因なのであった。




「艦長。いつかは、本命に当たるでしょうけど、探知に引っ掛かる反応が多過ぎて見分けがつきません」


「俺の方もだ。『特別大きな反応』ってのも今のところないなぁ。あれ? でも待てよ」


 サンゴウとの会話中に、ジンは急に押し黙って思考を始めた。


「どうされました?」


「うん? ああ、『ルーブル帝国で『蝗害』(こうがい)ってのがあったなぁ』と思い出していたんだ。バッタの大量発生で起こる災害のことなんだけどさ。あの時はそのバッタが好んで食う草をな、成長促進魔法で指定された場所へと大量に用意したんだ。王都の外側で、誘引して火壁に飛び込ませてたなぁ。で、こんがり焼きあがって死んだのは『食料になる』ってんで、スラムの住人が群がっていたよ。ただし、『味』についてはね。まぁ『美味くはない』ってことだったけど」


 蝗害は日本だと発生例が少ないため、一般的な知識ではないかもしれない。


 だが、『蝗害』という現象自体は、地球でも発生している。


 ジンは元日本人なだけに、知らないだけだったりするけれど。


 尚、余談であるが、地球での蝗害はそのバッタを食べること自体が可能ではあるけれど、危険でもある。


 バッタの駆除に農薬が使われるので、バッタ自体が有毒化しているのがその理由なのだから。


「でしたら、宇宙バッタに襲われて一時放棄されている惑星の緑化でもしてみますか? 上手くおびき寄せれるとは限りませんけれども」


 以前に艦長のジンが魔法を使って行った、ベータシア星系での食料生産惑星の再生を。


 そして、新造惑星の緑化を。


 それらの事例をきちんと記録していたことが前提にあってのモノ。


 生体宇宙船は、勇者の魔法のデタラメさをしっかりと理解している。


 それ故の、提案となる発言だったりしたのだ。


 ただし、本来であれば、惑星規模の話を気軽に『緑化しますか?』とかはあり得ない。


 少なくとも、サンゴウの知るデルタニア星系に在った技術を駆使しても、短期間ではそれが不可能なのは当然として、だ。


 それでも、それを承知で行おうとすれば、時間とは別に莫大な費用が必要となってしまう。


 通常であれば、惑星の緑化は為政者レベルにとっての一大事業であり、数年単位の時間を掛けて行われる事柄であるのだ。


 サンゴウが知る過去のジンが行ったように、一日二日で終わらせることができるような話では断じてない。


「そうだなぁ。ダメ元でやってみるか。なら、良い感じの場所にある惑星の選定を頼めるか? あと、その惑星を利用する許可も得ないとな。その旨、帝国に申請を出してみてくれ」


「はい。申請完了しました。申請の可否返信は早くても五日後以降と考えます。それまでは現状維持の続行で良いでしょうか?」


 ここでは関係ないが、この申請がされたことで、皇帝とローラには『サンゴウには荒廃した惑星を短期間で緑化再生させる能力がある』と誤認されることになる。


 他者にその認識を知られないために、二人がガッツリ情報操作をしたのは、サンゴウもジンも知ることがない別の話なのだった。


 これは、『ジンとサンゴウに頼る側も、それなりに苦労している』という話でもある。


 もっとも、苦労以上に得るモノが大きいのが現実であり、もし事実を知る者がいたとしたら、『それぐらいは、頑張ろうね』と言われてしまうだろうが。


 まぁそんな話とは関係なく、事態は動いているのでサンゴウの問いにジンが答えていくのだけれど。


「ああ、それで頼む。っと、ルーブル帝国で使った種の残りが、まだ収納空間内に残ってるな。これを試すか。サンゴウ。種の増産も頼みたい」


「はい。ではそのように」


 そんなこんなのなんやかんやで、五日が過ぎ、サンゴウは『申請、可』の返信を得て、選定した惑星がある宙域に到着していた。


 ジンは特にあとのことを考えることなく、水魔法を大盤振る舞い。


 続いて、種蒔きからの、成長促進魔法をガンガン掛ける、お手軽超速緑化を実行に移した。


 いわゆる、魔法と魔力量でのゴリ押しである。


 尚、水魔法の影響で、山岳地帯や丘陵地の一部ではかなりの規模の土砂崩れなどが起こったりしたのだけれど。


 そんなモノは見なかったことにして、ガン無視したのはジンだけが知る秘密なのだった。


「艦長。緑化に使った種はどうも当たりのようですね。宇宙バッタと思われる反応が続々と集まって来ています。バッタが大気圏内に突入する前、宇宙空間で殲滅してよろしいですか?」


「ああ、俺の方でも探知している。ここからは手分けして、殲滅戦と行こうか。サンゴウにはこの惑星の南半球部分への侵入阻止を頼む。俺は北半球部分を受け持つとしよう。では行こうか」


 そうして始まった殲滅戦の最中で、ジンは心の中で叫んでいた。


「(中将さん。あんた正しいよ!)」


 アニメの中で、『戦いは数だ』と言い切ったお偉い軍人さんを頭に思い浮かべながら、ジンは終わりが見えない殲滅作業を続けていたのだ。


 いくら、ジンの範囲魔法が宇宙バッタの群れに対して有効であろうとも、だ。


 それが、無詠唱で発動でき、連発できたとしても、である。


 次々と襲い来るバッタを殲滅する処理速度が、『ギリギリ追い付いているだけ』という状況。


 それが、丸三日も継続していた。


 むろん、大変なのはジンだけではない。


 サンゴウもまた、敵の物量に苦戦していた。


 事前にサンゴウが船体の内部に保有していたエネルギーと、近くにある恒星から放出されているエネルギーによる補充分だけでは、消費量に追いつかない。


 サンゴウは、何度かジンに魔力での補給を要請し、戦闘中に補給を受けなければならない有り様だったのだ。


 しかも、補給中は大気圏内へのバッタの侵入を阻止するに当たって、隙がどうしてもできてしまう。


 故に、補給ができるタイミング探しにも苦労したのだが、それでも勇者と生体宇宙船の最強コンビは、なんとか宇宙バッタの大規模襲来を凌いでいたのである。


 そして、何事にも終わりは存在するのであろう。


「艦長。倒し続けたのが良かったようですね。親玉が近寄って来ていますよ」


「ああ。俺の探査魔法にもそれっぽいのが引っ掛かった。四日間倒し続けて、ようやく手駒が尽きて来たようだな!」


「そのようですね」


「もう少し近寄ってきたら、俺が倒しに行って来る。行く前にはサンゴウに魔力を供給するから、そこからのあとの雑魚の処理は任せるぞ」


「了解です。お任せください」


「親玉の『トノサマ』と『オクガタサマ』だったか? そいつらとの戦闘に入ってからなら、少々撃ち漏らしが出て惑星内に侵入されても構わんからな」


 そのような会話から二時間が経過し、ジンはサンゴウに魔力でのエネルギー供給を行った。


 続いて、トノサマたちがいると思われる宙域へと急ぐ。


「やっと近寄れたけど、取り巻き多いな! しかし、視認で位置の当たりが付けられれば、どうということもない。ここから先は、お前らなんか雑魚と同じだ!」


 勇者ジンは、攻撃魔法を発動する。


 この時、魔法に籠められた魔力は、ジンが魔力枯渇に苦しまないで済む、限界ギリギリの分量であった。


「極大雷撃範囲魔法だぁ」


 魔力によって生み出された雷撃の一発一発の威力が、ジンの勇者時代の最強の敵であった魔王をも屠れるレベル。


 それが無数に、まるで豪雨のように降り注ぐ形での、空間制圧となる。


 まぁ、電撃を自由自在に飛ばせること自体がそもそもおかしいのだが、そこは勇者の『魔法』によって成せる業であるのだろう。


 これが、サンゴウの知る科学とは、対極にある魔法の理不尽さなのであった。


 サンゴウがジンの衣服の左胸の部分にある子機を経由して、科学的には信じ難いその光景を観測及び記録していたのは些細なことなのである。


 とにもかくにも、そうして、雷光で埋め尽くされたその空間が漆黒の宇宙の闇に戻った時、その対象範囲内に生きて動いているものは何もいなかったのだった。


「バッタの死骸が餌になっちゃいかんからな。回収回収っと(此奴ら普通に共食いもしやがるからな)」


 ジンはそんなことを考えながら、取り巻きもトノサマもオクガタサマも、とにかく全ての死骸を収納空間へと放り込む。


 こんな流れで、大元は始末し終えた。


 残るは、雑魚の掃討戦へと移行するだけとなる。


「艦長。相変わらずのデタラメさですね。『SS級』の相手でしたのに」


「『デタラメ』って言うな! 俺は勇者だから強いの! それより、あとはここで待機して、寄って来るのが皆無になったら、『念のために外縁部を一周してから戻る』って感じで良いか?」


 ジンが召喚されたルーブル帝国が存在するあの世界において、過去に召喚されたジン以外の勇者たちの誰もが、今回成されたようなことはできない。


 本来の勇者は、そんなに便利で強力な存在ではないのだ。


 龍脈の元を強引に融合されている、ジンが特別過ぎるだけである。


「あ、このあたりの死骸も忘れずに回収しとかないと不味いか。サンゴウ、食べるか?」


「はい。回収して吸収しています。ただ、殲滅優先でしたので、消滅させた個体が多いです。よって、撃破数に対する回収率が低いですね。艦長が担当した方面も、状況が同じのようなので残念です」


「だな。ま、『可能な限り回収しておく』ってことで」


 そうこうして、ジンとサンゴウは寄せ餌用に緑化した惑星での待機&追加殲滅期間を終える。


 帝国軍が投入していた三個軍は、『既に安全は確保された』として、通常任務へと復帰していた。


 かくして、宇宙バッタ関連の事案には一応の決着がついた。


 サンゴウは、念のために旧同盟領の外縁部を一周する航行を始めたのだが、勇者の持つ運命力はその途中で新たな事案を呼び寄せるのだけれど。


「艦長。単独で急速に接近して来る船があります。この反応は、フタゴウ?」


 こうして、勇者ジンとサンゴウは、ミウたち獣人のギアルファ銀河帝国での定住に道を開いた。

 ジンはその過程において、ミウを相手にモフモフを堪能もしたのである。

 それはそれとして、獣人たちの惑星を襲ったと思われる宇宙バッタの群れが、ギアルファ銀河帝国を悩ませる事態へと発展。

 最強コンビは、その解決へと駆り出されもした。

 相手の数があまりにも多過ぎたせいで、少し苦戦はしたものの、殲滅を完了して討ち漏らしがいないかの最終確認航行へと出発。

 その途中で、新たな事案に遭遇するのであった。

 この新たな事案の影響で、ジンとサンゴウに何が起こるのか?

 未来を知る者は誰もいないのだけれど。


 獣人さんと直接会ってお話をし、その上『触れて、モフり倒す』という昔からの夢を遂に実現させることに成功した勇者さま。

 若い獣人の女性たちをアサダ侯爵邸に連れ込み、対応をロウジュたちに丸投げして早々に、帝国軍案件の依頼を受けて妻たちから逃走した格好の状況なだけに、今度自宅へ帰ったらガッツリお説教されるのは確実なのだが、その点には全く気づいていないジンなのであった。

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