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超巨大要塞との戦いと、自由民主同盟からの使者

~ギアルファ星系第四惑星(ギアルファ銀河帝国首都星)周辺宙域へ向かう途中(四日間の航程で三日分消化済み)~


 サンゴウは全速力で、ギアルファ銀河帝国首都星を目指して航行していた。


 そうして、八割に近い航程を消化した段階で、ローラが暗号化したサンゴウ向けの記録映像が受信される。


 そこには、ジンとサンゴウを皇帝が帝都へ呼び出すに足る情報が、確かに在ったのである。




 帝国と同盟との間を繋ぐ、従来から在る二つだけの航路。


 その二つの航路のそれぞれの帝国側入り口付近に、ギアルファ銀河自由民主同盟側が苦心して運んで来た超巨大要塞一個ずつが、現在はしっかりと居座っている。


 その超巨大要塞の周囲に、健在な帝国軍艦艇は皆無だった。


 有効射程距離に差があり過ぎて、攻撃しようとした帝国側の艦艇は一掃されてしまったからだ。


 サンゴウが受け取った記録映像には、それらが破壊された結果の無数にあるデブリだけが映っている。


 そうしたデブリが、そこで行われたであろう一方的な戦闘の、残滓となって漂っていた。


「ええい、アレを何とかする手はないのか!」


「有効射程がまるで違います。なので、帝国軍が擁する戦艦でも機動要塞でも、攻撃するどころかアレに接近することさえ叶いません」


 作戦参謀の一人が、帝国軍総司令官の叫びにも似た問いに答えた。


 しかし、その他の帝国軍の名だたる将官たちは、帝国軍総司令官の問いに対して誰も良案を出すことができない。


 彼らは苦々しい顔で、沈黙せざるを得なかった。


 以上の帝国軍の内情を、ローラが記録映像の中で淡々と解説し、『プランZが可能なサンゴウの火力ならば、排除可能なのでは?』という問いも含めて、ジンとサンゴウに有用な作戦の立案と戦闘への参加を求めていた。


 ちなみに、ローラが暗号化して、広域通信としてサンゴウ宛てにばら撒いた記録映像の暗号強度は、凄まじく高い。


 ローラが訪れたことのあるアサダ子爵邸で、彼女がシルクとともに読んだ三冊の本が『ノーヒントで』解読のキーになっているのをサンゴウが気づかなければ、サンゴウですら解読が困難な代物だったりする。


 けれど、『それが重要か?』と言えば大筋にはあまり影響がないかもしれない。


 記録映像を出したローラの側としても、『解読してくれれば、時間効率が上がってラッキー。もしできなければ、それはそれで仕方がない』と諦める程度のモノでしかなかったのだから。




「艦長。以上がローラさんからの通信内容ですが。どうされますか?」


「『どうされますか?』もなにも。とりあえず『俺らが帝都に着いたら、どう考えても無茶振りが来るなぁ』としか言いようがない」


 サンゴウの問いに答えたジンは、既に憂鬱な表情に変化していた。


「それは確かに。さて、映像から推定される敵要塞のサイズは、およそ直径六百キロメートル。おそらく、内部に帝国軍基準での一個軍相当以上の艦隊を収容しているでしょうね。要塞のサイズに見合った超高出力で超長射程の砲があり、それによってアウトレンジの遠距離攻撃が基本。それで足りない小回りの部分は、艦隊が担うことが予想されます」


「こんなもんを二つも造って投入してきた時点で、同盟側は本気だよなぁ」


 戦争で勝ちに来なければ、必要がない代物なのだ。


 モノがモノだけに、複数の艦隊を整備するよりも、莫大な金と資材と人とが投入されていることは、想像に難くない。


 これによって対帝国の戦争に同盟側が勝てたとして、二つの要塞が以降は維持費のみが掛かり続けて大して役に立たない金食い虫になるのは、あまり賢くないジンですら容易に想像できてしまう。


 それだけに、こんなモノを造ってしまった同盟側の本気度を、ジンが察せられるワケなのだが。


「でしょうね。ですが、『苦し紛れの時間稼ぎ』とも考えられます」


「そうなのか?(『時間稼ぎ』って。戦争に勝つ気満々で造られたであろう超巨大要塞の投入は、同盟側にとって必勝への道筋なんじゃないの?)」


 ジンはサンゴウに即否定されそうな考えの部分だけを、言及せずに済ませた。 


「ギアルファ銀河の科学技術の水準からして、このサイズの要塞を高速で移動させるのは不可能です。そして、現在位置から更に帝国領の奥深くへ踏み込む気配がないことで、それは証明されています」


「いや、でもさ。あの場所でアレを造ったわけじゃないよな? なら、移動はできるんじゃね?」


「できることはできるでしょう。しかし、足の遅い軍艦レベルの速度ですらも出せないでしょうね」


「(あー。コレ、動かすだけで一苦労。進行方向をちょっと変更するだけでも大変なレベルっぽいな)」


 サンゴウの言い方で、ジンはなんとなく超巨大要塞の鈍重さを悟る。


 そしてそれは、間違いではなかった。


「なるほどなぁ。で、『時間稼ぎ』ってのは?」


「同盟側の視点だと、帝国に無防備だった後方を襲われたことになります。後方の機能回復と防衛。そこに小回りの利く艦隊戦力を、この先必要なだけ配置しなくてはなりません」


「ま、そうなるわな。同盟側は『帝国が同じことをまたやるかも』って考えるのが普通だろうし」


 元々の迂回侵攻作戦で、その部分は事後の波及効果として期待されていた。


 それだけに、ジンでもサンゴウの説明はすぐに理解できた。


 一度奇襲を受けてしまえば、以降はそれがある前提で戦略を組みなおさねばならないのだから。


「そうです。それで、なのですが。もし最初からそこに配置できる艦隊が存在していたならば、それは前線に投入されていたはずなのです」


「あー。つまり、帝国軍を最前線に置いた要塞でくい止めて、本来ならそこに必要だった艦隊を後方に回した。だから『時間稼ぎ』ってことか。納得した」


「同盟側は、まだ戦争に勝つことを諦めてはいないのでしょう。劣勢の今は力を蓄える時。おそらくそのような考えで、橋頭堡としての要塞を置いたのでしょうね」


「そっか。なぁ、サンゴウ。もしそうならさ、その『超巨大要塞』っての。放置で良くね?」


 今の同盟側に、帝国領の深いところまで攻め込んで来る意思がないのなら、戦争がしたいワケではない帝国が突っ掛かって行く必要はない。


 少なくとも、ジンにはそう思えていた。


「はい。『自由に動いて帝国内への攻撃』というのは、この要塞には不可能のようですし、『後方からの補給艦の往来が確認されている』との情報がありますから、補給が確保できなくなるような場所への移動はないでしょう。つまり、現状だと近寄らなければ害はないですね。よって、選択肢としては敵の射程外で遠巻きに包囲して放置でしょうか。もちろん『今のところは』ですけれども」


 サンゴウの語った『補給艦の往来』の情報ですらも、要塞に接近を試みて破壊された帝国側の艦艇が、破壊される寸前にギリギリで送信した貴重な情報だったりするのだが、そのような事実は状況を分析しているだけのサンゴウには無関係であった。


 とは言え、こうした情報が既に在るのは、『帝国軍はできる範囲の努力をしている』という証左でもあろう。


「まぁそうだな。将来的には回復した戦力でこの要塞を橋頭保に、攻め込んでくるだろうけど。だが、それにはまだ、数年単位で時間が掛かるんじゃないか?」


 ルーブル帝国時代に無理やり学ばされた軍略の知識が。


 朝田迅として日本にいた頃のオタ知識が。


 その二つが役に立ち、それっぽい推測をすることができるジンだったりする。


「そうですね。同盟側が自前の支配領域の防衛戦力を確保した上で、攻撃に回せる戦力を回復させてから攻めて来るのであればそうなります。しかし、今のような状況であると、サンゴウの知るデルタニア軍の歴史には、あまり時間を置かず全力攻撃に出るケースがあるのです」


「なんだそりゃ。どうしてそうなる?(そんなむちゃくちゃなことが、本当にあり得るのか?)」


 全く理解できないジンは、率直にサンゴウに問うた。


「『どうせ蹂躙されたあとの領土だ、ならば立て直すより、敵から奪おう』とか。もしくは、『先に敵を殲滅すれば良い。立て直すのはあとでもできる』などと、開き直る場合ですね。『今の同盟側が、それを選ばない』と断言する材料がサンゴウにはありません」


「なるほどな。となると、前回の作戦で未開拓航路を使った点が、マイナス方向への影響になる可能性があるか。『何処から襲われるかわからない』という判断がされていれば、『防御より、捨て身の攻撃に賭けること』は、あり得るのかもしれない」


 ここに至って、ジンにもサンゴウの説明が理解できた。


 ただ、『では、どうすれば良いの?』という、当然出て来る問いに対する答えには、ジンは辿り着いていない。


 艦長の表情から、その部分を察してしまうサンゴウ。


 優秀な有機人工知能搭載型生体宇宙船は、それを察することができるが故に、最も簡単な解決策を提示するのだけれど。


「艦長が単身で特攻す」


 もちろん、サンゴウが言い掛けたそれを最後まで言わせるジンではない。


 このあたりもまた、まるでお約束の如く呼吸が合い過ぎるほどに合ってしまう。


 二人の相性は、やはり抜群であるのかもしれない。


「おいこら! 待て! そういうのは求めていないからね? 今回はマジに本気でそうなりそうだからやめてくれ」


 言い掛けたサンゴウに、懇願レベルで即待ったを掛けるジンなのだった。


 このようにして、久しぶりに『あーでもない、こーでもない』とやり合う、サンゴウとジンの二人だけの時間が続く。

 

 帝都へ辿り着く前の二人は、このような流れで同盟側が繰り出して来た超巨大要塞についての議論に、興じていたのである。




 サンゴウは、ローラからの記録映像の受信以外には、何事もなかった四日の航程を終える。


 生体宇宙船は、ギアルファ星系第四惑星の衛星軌道上に居座り、二十メートル級子機で送り出した艦長ジンの帰還を待つだけの状態を保つ。


 もっとも、ジンの着ている服の左胸のところには、サンゴウを模したデザインのワッペンモドキの子機が、まるで縫い付けられているかの如く、しっかりとくっついていた。


 これにより、サンゴウは衛星軌道上いる状態のままで、艦長の状況が逐一把握できるのであった。


 ジンは二十メートル級子機で地上に降りてから、そのまま宮廷に直行する。


 今回も後宮の中庭に着陸させているので、そこから歩いて移動してもさほど時間が掛かることはない。


 そんな流れで宮廷に着いたジンには、皇帝陛下のスケジュール調整待ちの待機が知らされた。


 故に、控えの間でのんびりと待つことになってしまう。


 そうしていたところへ、ローラ付きの侍女がジンを呼びにやって来たことで、事態に動きが出るのだけれど。


「陛下が時間を捻出するまでの間に、先行して話しておきたいことがあるのと、ジンの話を聴きたい」


 侍女が伝えたローラからの要望の内容は、そんな感じであった。


 これは、ジン視点で拒否するような話ではない。


 そのため、ジンを呼び出した皇帝と会う前に、ローラと会って下打ち合わせ的な話をする段取りへと、事態は移行したのだった。


「シルクは連れてきていないわよね? サンゴウが戦場に出ることになるのがわかっていたはずだから。でも、もし連れて来ているのなら、すぐに地上へ降ろして。シルクを戦場に出すわけには行かないのよ」


 開口一番。


 貴族的な挨拶すらすっ飛ばして、ローラの口から出たのはシルクの名であった。


 このあたりの状況が成立してしまうのは、ジンとローラの間に、ある程度気安い関係が出来上がりつつある証ではあろう。


 また、ローラのそれに合わせて、ジンも挨拶抜きで答えるのだが。


「ええ、その点は大丈夫です。戦場うんぬんとは関係なしに、出産を終え」


 発言の途中で、もの凄い形相に変化したローラから放出される、激しい圧力を感じ取ったジン。


 それにより、ジンの言い掛けた言葉は止まる。


 止まってしまったのだが。


「どうして、シルクを連れて来ていないのかしら? 『出産』ですって? シルクが子を産むのなら、それはベータシア星系の主星ではなく、帝都のわたくしの元であるべきではないのかしら?」


 鬼女もかくやの女性が、ジンの目の前に降臨していた。


 皇妃足り得る美貌の持ち主なだけに、豹変した怒りの表情を向けられれば、ジン的にはかなり怖い。


 対女性スキルが低いヘタレ勇者は、それだけで恐怖を感じてしまう。


「(さっきと、意見がまるっと変わっているんだが)」


 言えない本音はさておき、だ。


 ここから、ジンがガッツリ説教を喰らったのは、言うまでもない話であろう。


 理不尽な話だが、ジンにはローラの気持ちがわからなくもない。


 お詫びの言葉で事態が鎮静化するのであれば、そのくらいの譲歩はジンだってするのだ。


 むろんそこに、『恐怖に負けて、単純にごめんなさいをしたくなった』という、『そんな感じの要素がない』とは決して言わないけれど。


「シルクを連れて来なかったことは、申し訳ないです。ですが、改めてシルクを連れに行く時間はないはずですよね? それより私とサンゴウは、やはり戦場に出すために呼び出されたのですか?」


「いえ。すぐに『どうこう』はね。さすがにないのよ。でも、帝国として『このまま』ってワケには当然行かないの。『帝国のプライド』ってモノがあるから。まずは、『良い案がないか?』からだと思うけれど、最後はジンとサンゴウに任せることになる気がしているわね」


「(つまり、帝国軍には打つ手なしなのかよ! ガンバレよ! 帝国軍! くじけちゃダメだよ! 帝国軍! やれる。君たちならやれるよ! だから、お願い! 俺とサンゴウにお鉢が回ってくるような状況にするんじゃねぇ!)」


 ローラの発言を受けて、そんなことをジンは心の中で呟いてみた。


 むろん、『そうであって欲しい』という、願望込み込みでしかないけれども。


 まぁ、ジンは自分でもそれが、『実現しそうもない願望でしかない』ことがわかっているので、ローラに向けて語るのは現実的な話になる。


「往路での航行中にサンゴウと話し合ったのですが、正直なところ『良い案』というものはありませんでした。『有効性や実現性に疑問がある、帝国軍艦艇全力投入の案』は一応出たのですが」


「それを『皇帝陛下より先に、わたくしが知るのもどうか?』とは思うのですが。でもまぁ、その案の内容を今この場で知っておきましょうか」


「はい。では。作戦案自体は単純です。小惑星などの岩塊を全艦艇に曳航させて、加速からの投石による遠距離飽和攻撃になります。命中精度、要塞の迎撃能力、要塞自体の防御力での被害軽減などの要素から有効性は不明ですし、『そもそも帝国軍艦艇で、それ自体を上手くできるのか?』という問題で、実現性に疑問がある案です」


「なるほど。そのような案ですか。不可能ではないでしょうが、事前に『確実に有効だ』と判断できる者は誰もいないでしょうね。つまりは、『やってみないとわからない』ってことですか」


「ええ。ただし、費用対効果の観点で考えたとしても、『動員兵力に対して効果が未知数』というのは『問題があり過ぎる』というのがサンゴウの判断として出ていました(サンゴウの計算によると、『帝国軍では加速させての命中精度が期待できず、飽和攻撃にならない可能性が高い』と出ているのだけれどね)」


 最後の部分は、さすがに言えないジンであった。


 ここまで話し合った段階で、『皇帝陛下の時間調整が終わりました』という連絡が入り、ジンはローラとともに部屋を移ることになる。




 皇帝陛下を交えての、私的な場での話し合い。


 ジンは、『公の場においてで、作戦案の提示を求められる』と思っていた。


 故に、その一点でまず驚かされてしまう。


 まぁ、それはそれとして、ジンは皇帝陛下より想定通りの対超巨大要塞戦の作戦案が求められた。


 そこで、『現時点での案』として先ほどローラへ説明したものを、ジンはもう一度披露することとなる。


 とりあえず、その案については『即座に帝国軍で検討してもらう』と決まり、ローラが一度中座して、皇帝が一筆入れた書簡を宰相の元へ持って行く。


 こればかりは、侍女などに託す選択はしないローラであった。


 もちろん、その間にもジンと皇帝との話し合いは続くのだけれど。


「以前提出された『プランZ』なのだがな、あの方法で此度の要塞を排除することも考えておった。だが、できればそれはしたくない。で、だ。帝国軍司令部作戦室から、超長距離射程の砲とエネルギー供給のジェネレーターの開発制作案が出されてな。今から作ったのでは時間的な面で全くお話にならん。けれども、『プランZが可能であるなら、『砲の部分だけをサンゴウに担当してもらう』ということは可能であろうか?』というのが、我々二人の考えだ」


 余人には知らせられないプランZの話が出てきたことで、ジンは皇帝が『何故、私的な場での、ジンとの話し合いを求めたのか?』の理由を悟る。


 そして、皇帝とローラの二人だけで知恵を出し合って考えたであろうその案。


 それは、現時点だとサンゴウにしかできないかもしれない。


 しかしながら、金と時間さえ掛ければ、今の帝国の技術力でも似たようなことができる点が優れていた。


 となれば、そこに協力しない選択がジンにもサンゴウにもない。


 故に、ジンは言葉を選びながら、肯定的な意思を伝えて行くことになる。


「なるほど。おそらくそれは可能です。もちろん、最終的な可否はサンゴウと話し合ってからになりますが。エネルギー調達部分を帝国軍が担当し、サンゴウにはそれを以て砲撃させるワケですか。一時的にサンゴウへと頼ることにはなっても、帝国軍自体で後々実現可能なことであれば、問題は少なそうですね」


「可能か! ならばその線でサンゴウと検討を開始してくれ。良い返事を期待しておるぞ」


 このような話し合いが帝都で行われてから、ジンは速やかにサンゴウの船内へと戻った。


 ただし実際には、この段階でもうサンゴウはジンが知った内容を子機経由で把握している。


 それだけに、話は早かった。




「艦長。『それが可能かどうか?』は帝国軍の努力次第。もちろん、供給されたエネルギーを収束して、帝国軍や同盟側から見れば信じられない超遠距離からの正確な砲撃は、サンゴウにとって児戯に等しいレベルですね」


 サンゴウの性能が頭に入っているジンにも、それが事実でしかないことはわかってしまう。


 エネルギーの供給方法と供給元が確定されなければならないものの、エネルギーの供給量が十分であれば、超巨大要塞の射程外からの一方的な攻撃が可能。


 それが、サンゴウが出した結論となる。


 そして、サンゴウからの『実行可能』の結論が出てしまえば、だ。


 そこからは、皇帝陛下の権限がモノを言う。


 まず最初に、皇帝から直接、帝国軍司令部作戦室に超巨大要塞攻略作戦の概要が知らされる。


 その時点で、帝国軍の内部で独自に検討中だった全ての案は『保留』とされた。


 そうした事態の推移で、帝国軍司令部作戦室が動き出す。


 サンゴウを砲として考える作戦案が、最速で立案されることとなるのだった。


 かくして、空前絶後の物量の帝国軍艦艇が一つの宙域に集結する壮大な作戦が立案され、即座に実行へと移された。


 なんと帝国軍の四十個軍である八百万隻と、機動要塞八十個が一か所の宙域に所狭しと集められる事態が成立。


 それらは、エネルギー供給用のケーブルで接続を行うための密集の陣形となったにもかかわらず、全く陣列を乱すことなく、小さな接触事故すらも起こさずに整然としていた。


 このあたりの帝国軍の練度は、艦艇の動きを逐一観察していたサンゴウが称賛したレベルであった。


 サンゴウから見た帝国軍の、艦艇の性能的な意味での質はともかくとして、だ。


 軍としての統率レベルがサンゴウの知るデルタニア星系のそれと比較しても、全く見劣りしないレベルで高かったのは確実だった。


 案外、人間とは、置かれた環境として科学技術に大きな差が存在していても、中の人はその差に比例して劇的に変わるモノではないのかもしれない。


 とにもかくにも、帝国軍は立案された作戦を実施するために、事前準備を着々と進めていた。


 そうして、集結した全ての艦艇が非常用の予備エネルギーに切り替え、全ての通常エネルギーをサンゴウに集中させる。


 事態は次の段階へと移行するのである。




 帝国軍がそのように盛大に動いている時。


 同盟側の動きは、はたしてどうだったのであろうか?


 実のところ、超巨大要塞側は帝国軍の艦艇の集結の軍事行動自体を、きちんと察知はしていた。


 けれども、だ。


 完全に超巨大要塞の射程外での行動であったために、同盟側は何もしなかった。


 いや、『何もできなかった』が正しいのかもしれない。


 もっとも、何かする気も全くなかったわけだが。


「(どれだけザコの艦艇が集まったところで、どうせ何もできないだろう?)」


 超巨大要塞の最高司令官が、『そう高をくくっていた』という事実も相まっての傍観であったのだ。


 むろん、ジンとサンゴウが直接関与した時点で、現実はその司令が考えたようにはならないのだけれど。




「全艦艇及び全機動要塞、連結完了いたしました。作業完了の予定時刻に対して、遅延は全くありません」


 集結している帝国軍の旗艦。


 そこに詰めているオペレーターは、総司令官に向けて状況報告を行っていた。


「ヨシ! 全艦艇及び全機動要塞、エネルギー供給開始! 帝国軍の力を同盟の奴らに思い知らせてやれ!」


 帝国軍総司令官は『最前線』とも言えるこの宙域の総旗艦で吠えていた。




「艦長。エネルギーの供給、開始されました。収束を開始します。供給終了まで残り三百秒。広域通信での発射カウントダウンに入ります。尚、発射は供給終了から十秒後になります。様式美の発射トリガーは必要ですか?」


「いやいや。そんなん要らんから。照準も発射もサンゴウに全部任せるよ」


「そうですか? デルタニア軍ではよくあった事象なのですけれども。なんでも、ターゲットスコープと発射トリガーは『ロマン』なのだとか」


 もちろん、それは様式美であって、デルタニア軍においても実際の照準は人工知能にお任せであり、人工知能による発射のタイミングの指示で、軍人がトリガーを引くだけ。


 その行為に、様式美とロマン以上の意味はどこにもないであろう。


「そ、そうか? まぁ『オタク心に響かないか?』と言われれば、全く否定はできないがなぁ(でも、そこまで拘るならな。そこは『対閃光防御』とか『対ショック防御』とかも足そうよ!)」


 後半の本音の部分を、ジンは心の中だけで呟いていた。


「(そんな俺を責めることのできるオタクなど、おそらく存在しないのだろう)」


 日本出身の元勇者は、自らのことを客観的にそう判断していた。


 まぁ、そんな話はさておき、だ。


 滞りなくサンゴウによるカウントダウンが終了し、ついに発射の時が訪れる。


「発射します」


「おう!」


 極太のビームのような、エネルギー収束砲による帝国軍渾身の一撃が、サンゴウによって発射された瞬間であった。


「命中。対象の中央部に被弾穴を確認。対象の被弾箇所にサンゴウの照準位置との誤差はありません。エネルギー供給源の各艦艇の冷却、開始されています。次回発射可能時間までは、残り六百秒」


「おー。お見事。でも、さすがに一発で終わりってワケにはいかんか?」


「いえ。もう対象は沈黙しています。確実に急所と考えられる場所を、ピンポイントで撃ち抜きました。次発はセカンドベストと考えられる場所を、念のために撃つだけです」


「(確実に仕留めに行くサンゴウに、油断はないのね)」


 ジンはサンゴウの敵に対する姿勢に、感心するしかなかった。


「艦長。対象の底部より、多数の艦艇が発進しています。ですが、こちらへは向かっていません。どうやら撤退のようですね。撤退して行く艦艇を、次発の攻撃目標にしますか?」


「あー。総司令官から指示がない限り、見逃して良いんじゃないか? やり過ぎは良くない」


「はい。ではそのように」


 帝国軍は、サンゴウの射撃能力の正確性を知らない。


 彼らは彼らなりに持っている常識から、今回の作戦では何発も、下手をすれば何十発も撃って超巨大要塞を撃破するつもりでいた。


 それ故に、照準的なモノはジンに、つまりは実質サンゴウに一任されている。


 だからこそ、前述のようなサンゴウとジンの会話が成立したワケなのだが。


 そしてこの時、ジンもサンゴウも気づいていなかったことがある。


 実のところ、帝国軍の総旗艦から同盟側の艦艇の撤退行動を観測するのは、距離の問題で至難の業だった。


 結果として、総司令官は同盟側の艦艇の撤退行動を知ることはなかったのだ。


 それを、総司令官は知ることがなく、攻撃命令が出されなかったこと。


 その事実が、何気に同盟と帝国の長きにわたって続いてきた戦争を終戦へと繋げることになるのだが、この時はまだ誰もそれを知らない。


 まぁ、そのような未来も含めた話はさておき、だ。


 サンゴウによる二回目の砲撃が、粛々と行われた。


 帝国軍視点では『痛撃』と思われる二撃を受けて尚、沈黙を続ける超巨大要塞。


 反撃の動きがないそれを不審に思った帝国軍の総司令官は、超巨大要塞に対してオープンチャンネルで降伏の呼びかけを自ら行う。


 しかし、超巨大要塞側からの返答は、当然のように一切なかったのである。


 帝国軍は仕方なく偵察艦を出し、おっかなびっくりで沈黙を続ける超巨大要塞に近寄った。


 それでも、偵察艦が攻撃されることはなかった。


 実はこの段階において、超巨大要塞は既に残存人員の全てを駐留艦隊に移乗させており、脱出済みだったのであった。


 このような事態を経て、中核となる部分が完全に破壊されてしまった超巨大要塞の残骸は、帝国軍に占拠されることとなる。


「修理には莫大な費用がかかるであろうが、再利用は可能である」


 占領後にそう判断され、超巨大要塞は帝国軍の軍人の手で確保されることになったのだった。


 そんなこんなのなんやかんやで、ジンたちは少数の監視部隊のみを撃破した超巨大要塞に残して、次の目標であるもう一つの超巨大要塞へ向かって発進して行く。


 サンゴウだけなら全速で三日と掛からない航程でも、超巨大要塞を攻略するための帝国軍の軍勢と一緒に行動、行軍をするとなるとそうは行かない。


 それでも、ガッツリと移動に日時を費やしさえすれば、ちゃんと目的の宙域に到着することができた。


 そこから、更に時間を費やし、超巨大要塞への攻撃の準備へと入る。


 ただし、全ての準備が整うまさに直前のタイミングで、帝都からの想定外な命令が届いたりするのだけれど。


 超巨大要塞攻略軍に、ギアルファ銀河帝国皇帝の新たな命が伝わる。


 それは、攻撃中止命令であった。


 そのような命令が、何故出てしまったのか?


 それは、ギアルファ銀河帝国の首都星には、ギアルファ銀河自由民主同盟からの停戦を目的とした交渉を行う使者が訪れていたのが理由となる。


 このような事態の流れで、ジンたちは新たな局面を迎えることになるのだった。


 こうして、勇者ジンとサンゴウは、皇帝陛下の命令によって最短時間で帝都に馳せ参じ、無難且つ成功がおぼつかない作戦案を提出することに成功した。

 むろん、それが採用されるワケもなく、以前に提出していたプランZを流用する逆提案を受ける。

 その話し合いの前段階で、シルクの妊娠に纏わる話でローラがキレたのは些細なことであった。

 受けた提案はサンゴウの手でブラッシュアップされ、帝国軍とサンゴウのコラボによって成立した攻撃は、同盟側の切り札である超巨大要塞一個を撃破、沈黙させることに成功する。

 その結果、ギアルファ銀河帝国の帝都では、同盟側の急使が訪れる事態を迎えてしまう。

 想定外の新たな事態の発生が、ジンとサンゴウの今後にどう関係してくるのか?

 未来を知る者は誰もいないのだけれど。


 今回の超巨大要塞への攻撃は、サンゴウの見せ場しかなく、それを船橋で眺めていただけの勇者さま。

 それでも、サンゴウの出した成果は艦長のジンに帰属してしまうので、未来に起こるであろう論功行賞の場では、釈然としない思いに駆られることが確実な情勢のジンなのであった。

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