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戦争準備への関与と、作戦失敗の予感

~ギアルファ銀河自由民主同盟支配領域の外側(ギアルファ銀河外の宙域)~


 サンゴウはギアルファ銀河の外側の宙域、いわゆる『外宇宙』と呼ばれるところを航行していた。


 当然ながら、ジンとシルクが乗っている状態で、だ。


 そこは、ギアルファ銀河帝国はもちろんのこと、現在位置から最も近い大国である、ギアルファ銀河自由民主同盟側ですらも、確実に航路データと宙域図データを持っていない未知の宙域となっている。


 そのような前人未踏の宙域でサンゴウは何をしているのか?


「ギアルファ銀河帝国の宇宙軍による、ギアルファ銀河自由民主同盟への大規模侵攻時において、安全に航行可能な新航路を作り出す作業を行っている」


 端的に言うと、その答えは前述のようになる。


 ただし、この航路は、だ。


 作成作業中の現時点において、未だ『使用されるか否か?』がわからないモノであった。


 ギアルファ銀河帝国における軍部の最終結論次第で、『必要ないモノ』となるかもしれないのだから。


 それでも、ジンとサンゴウには時間的余裕があったが故に、先に挙げた事情は承知の上で先行して作業を開始していたのである。


 では、何故そのような無駄になるかもしれない作業へと、ジンとサンゴウが着手するに至ったのか?


 それを知るには過去に遡って、順に物事を時系列に沿って追って行かねばならないだろう。


 よって、ここから先は、少々前のお話になる。




 ベータシア星系の新惑星の視察を終えた皇妃ローラ。


 サンゴウでローラを帝都に送り届けた際、ジンは皇帝陛下宛ての記録映像が入ったデータキューブを彼女に託していた。


 この視察案件の出発前に、ジンは皇帝陛下からの密命を受けている。


 それに関係する返答となるデータキューブは、そのような流れで皇帝の元へと届けられたのであった。


「これは、ローラさまと皇帝陛下の二人だけで見て欲しい」


 尚、ジンが届けてもらうそれをローラへ渡す際に、伝えた言葉の意味。


 実際、それを見た時に当事者の二人は意味を思い知るのだが、そんなことは些細なことであろう。


 ジンは、ローラにサンゴウと二人で考えた作戦案のうちの、一つであるプランZのデータを託し、謁見時にはもう一つの作戦案のプランAを提出したのだった。


 ちなみに、プランAの内容を簡単に言うと『帝国軍の皆さんと一緒に頑張りましょう案』となっている。


 作戦内容としては単純なもので、『二か所の最前線に同盟軍を引きつけつつ、別動隊で後方に回り込んで無防備なところを蹂躙しましょう案』なのだった。


 ただし、『未開拓の新航路を使用しての迂回』という部分が、作戦の肝として存在しているのだけれど。


 では、もう一つの、公にはされない作戦案の内容とはどんなモノなのか?


 プランZは、『サンゴウのみによる無双案』となる。


 こちらは推奨プランではなく、『もうどうにもならない時の、最終手段』としての提案となっていた。


 注意事項として、『ジンもサンゴウも、サンゴウ単艦で全てを解決することが、ギアルファ銀河帝国の未来にとって『良い』とは考えない』という見解が、明記されている案でもある。


 プランZでは、同盟に対する攻撃をするのに、まず、サンゴウを手頃な位置にある恒星に突っ込ませることから始まる。


 そして、サンゴウが恒星のエネルギーを食い潰しながら、超高出力のエネルギー収束砲を同盟全土に向けて、順次打ち続けるのだ。


 某アニメ作品の宇宙が光ってしまうコロニーのアレを、『目標地点を少しずつずらしながら、連射する』のを想像すると、おそらく現実に近いだろうか。


 ただし現実的には、ジンの魔力がサンゴウに供給され続けると単なるエネルギーの供給源でしかない恒星は必要ない。


 本当は必要はないのだが、『対価なしにできる』と知れば安易にそれを選びかねない。


 それが、普通の人間であろう。


 それ故に、だ。


 ジンがこっそり提出したプランZは、その点をあえて伏せての提案となっているのだった。


 サンゴウ単独で、ギアルファ銀河帝国がこれまで散々手を焼いてきた、ギアルファ銀河自由民主同盟を消滅させることのできる内容が明記されているプランZ。


 それを見た皇帝とローラは、思った。


「(確かにコレは、余人に知られると不味い)」


 二人は顔を見合わせ、無言で頷き合うのであった。




 それはそれとして、公の場でジンが皇帝陛下に促されて提出したプランAは、すぐさまギアルファ銀河帝国の帝国軍司令部作戦室へと送られた。


 そこでは、陛下直属の単独艦の遊撃編成で帝国軍司令部の影響下にはない、いわゆる特権を持っている准将のジンから提出された案について、激しい議論がなされていた。


 実現可能かどうか?


 やるとしたら、どのくらいの戦力を投入するのか?


 投入した戦力で、勝算はあるのか?


 論点は他にも多数あるが、特に重要なのは前述の三点であろう。


 さて、この作戦の肝の部分である『未開拓の新航路を使用しての迂回』の、『未開拓の新航路』とはどんなものだろうか?


 いや、もっと範囲を広げて、そもそも、『宇宙船の航路』とは一体どんなものであろうか?


 くだんのソレは、簡単に言えば『迷子にならない道』であり、『自船の位置確認が確実にできて、航行が容易な道、すなわち障害物がない宙域の連続しているところ』である。


 ついでに言えば『通常、宇宙船が航路として使っていない場所』というのは、その殆どが『迷子にならない』の部分が問題になるのだけれど。


「目標物が見える範囲に何もない大海原のど真ん中で、『方位磁針なし、天体観測なし、もちろんGPSなんかありません』の状況下で、迷子にならずに目的地へ辿り着けますか?」


 地球の海を例にして言えば、『前述のように問うレベルのお話』なのだ。


 そして、『宇宙』でいう障害物とは、地球の海だと『暗礁、浅瀬、流氷、氷山など』をイメージしてもらえば近いだろうか。


 広い意味では、通過に困難が伴う、幅が狭い海峡などもソレに含めても良いのかもしれない。


 ちなみに、『殆ど』じゃない方に当てはまるのは、『障害物だらけ』という至極当たり前の場所と、宇宙船の船体が物理的に耐えられない場所を指す。


 具体的には小惑星やデブリが広範囲に大量にある場所や、恒星や高重力惑星、ブラックホールの近くなどの場所である。


 ここでは関係のない話だが、『ギアルファ銀河を形成する星雲の中心には、超巨大なブラックホールがおそらく存在している』というのが帝国における主流派の学説であり、星雲の中心から一定の範囲内は、ギアルファ銀河の人類にとって利用できない宙域となっている。


 むろん、そこを宇宙船で通過するのは不可能だ。




 まぁ、少々話が脱線したが、作戦の肝へと話を戻そう。


 宇宙船の航路とは、迷子にならずに安全に移動できる道を指し、そのデータは帝国の版図内の宙域図のデータと一緒にして、重要な情報として扱われている。


 では、敵側の版図内のソレについてはどうか?


 長らく戦争状態が続いているため、破壊した艦船から得られたデータが、完全ではないにしろあるにはある。


 よって、敵の勢力圏内に帝国軍の戦力を送り込むことができれば、現地での作戦行動は概ね可能であろう。


 ただし、その肝心の戦力を送り込むことができない。


 それは同盟側も同じであるため、お互いさまな部分でもあるわけなのだが。


 帝国側から同盟側へ行ける航路は、確立されているルートが二つしかない。


 その両方が、最前線で激戦地となっているのであった。


 ジンが提出した作戦案とは、銀河の外側から外宇宙の部分を航行する形で迂回して、その二つのルートを利用せずに同盟の勢力圏内に帝国軍を送り込むことが骨子となっている。


 だが、これまでにたったそれだけの単純なコトが、実現できていないのは何故なのか?


 銀河の外側を迂回するルートは、位置や方向の確認が絶望的に困難となる。


 しかも長大な距離の行軍が必要で、その途中に天然の補給物資が存在しない。


 はっきり言ってしまうと、『通りたくても危なくて通れないし、仮に運良く一度通過できたとしても、再現が不可能』だったりするのだ。


 では、ジンの提出した作戦とは?


「その通行不可能なはずの宙域を、帝国軍が安全に通過できる航路データを作って渡すから、それを利用して遠征しようぜ」


 こう言っているのと同じなのであった。


 むろん、この段階でその航路のデータ自体は、帝国軍に提供されていない。


 どういうことなのか?


「この作戦で戦う気があるなら、準備を始めろ。その間に、俺がサンゴウで航路のデータを作って来るから」


 この話が戯言として無視されなかったのは、皇帝がそれを強制したせいもある。


 帝国軍としては、もし作戦を実行して航路の不備が原因で失敗したならば、責任をジンに対して追及すれば良いのだ。


 ただし、それができるだけの準備は必要なのである。


 ギアルファ銀河帝国の帝国軍司令部作戦室においては、議論の末に『作戦自体は実行する』と結論を出し、動員兵力や兵站の話に移行したのであった。


 ジンとサンゴウが冒頭の宙域にいたのは、帝国軍の結論を待たずに皇帝陛下から許可をもらって、フライングで航路データの作成を開始していたからなのだった。


 まぁ、ジンがいないところでの、ジンの今後に関係して来そうな事態の動きは、もちろんそれだけではないのだけれど。




 さて、違う場所での動きがあるので、別の場面へ話を移そう。


 首都星側とは別で、中立コロニーグレタを間に挟んで、ベータシア星系のお隣の星系となるカイデロン星系第十五惑星においても、不穏な会話が繰り広げられていた。


 何気にそれが、前話のラスト付近で出て来た発言のことだったりするのだが。


 ベータシア星系の小惑星帯が、綺麗さっぱり消失したことを忌々しく思うアノ内容の発言をしたのは、以前にロウジュたちを狙っていた息子がいる男爵家の当主、ママワガ男爵その人であった。


 ママワガ男爵は、ベータシア星系についての話を息子としている最中だった。


「親父、グレタの輸出入管理記録と入出港記録からは食料の輸出が急激に増えてやがる! こりゃあおかしい。ベータシア星系の領民食わせず輸出してる勢いの量だぁ。それと、『宙域図にない惑星が何故かある』って話だぁ。未管理なら奪えるんじゃねぇかぁ?」


「その惑星については調査依頼を出したところだ、詳細については三十日以内に何かわかるだろうて。それよりも、だ。ここ数年で打った手が全て上手く行っておらん。小惑星帯がなくなって賊に扮しての略奪行為も封じられると、ちと苦しくなってくるぞ」


 ママワガ男爵領はカイデロン星系第十五惑星と本拠地としており、惑星付近の衛星八つを含んだ宙域を支配領域としている。


 男爵領は『希少金属の産出が、ギアルファ銀河でトップクラス』ということになっている。


 けれども、実態は誤魔化しによってそう見せかけているだけ。


 実は本来の産出量は、精々二番手クラスが良いところの量だったりするのだ。


 採掘して輸送中の希少金属を、賊に扮して略奪することを繰り返し、略奪品を新たに採掘したモノとする形で再循環する。


 そうすることで、ママワガ男爵は量の水増しを行っていたのであった。


 その『略奪して再循環』という行為が止まると、ママワガ男爵は放漫財政をしているだけに、じり貧になるのである。


「急に出てきた『英雄、アサダ家』って子爵が邪魔だぁ。俺のモノになるハズだったエルフ女たちを、全部娶ったのもコイツなんだろう? ぶっ殺してぇなぁ」


「ソイツは『『帝国軍近衛の独立遊撃隊』として、単独行動が許されている特別な者だ』と帝都の社交界で噂になっておったわ。その際に、『『ベータシア伯爵』とな? さて、会った記憶がない』という影の薄さの話は笑えたがな。『アサダ子爵はベータシア伯の部下の法衣貴族であるから、ベータシア家と誼を結ぶか? それとも、アサダ家と直接親交を持つか?』などという話題も別の夜会では出ておったな。ただ、最近はそのような話も全く聞かぬ。つまりは、一時の話題だっただけだな」


「ベータシア星系が手に入ればぁ。宙賊でグレタにやりたい放題できるんだぁ。でもぅ。その『アサダ家の宇宙艦を見たら即逃げろ』ってぇ、賊の仲間の噂になってるんだぁ」


「あの宇宙獣の卵はもう手に入らん。ベータシア星系での試しで、危なくて近くで使えぬこともわかったから、どのみち、手に入れても暗殺くらいにしか使い道はないかもしれんがな。同盟へのツテを使って、ずいぶんと金を使った。『後方かく乱の潜入部隊』というのが暴れまわるのもそろそろのハズだが」


 ベータシア星系は自由民主同盟側から見ると最後方側の一つであるので、防備は手薄であり、卵が男爵の手に渡った当時は、手頃な感じのかく乱対象として目を向けられたのだ。


 けれども、二年と少し前の事件で、かく乱の潜入部隊は一網打尽にされており、実行部隊はもう存在していなかったりする。


 その事実をママワガ男爵は未だに知らない。


 僅かに生き残っている、情報連絡員未満のチンピラに寄生され続けているが。


 自由民主同盟で、一つの星系を壊滅させた新種の宇宙獣。


 それは、サンゴウの生まれ故郷では、『宇宙の掃除屋』と呼ばれるモノだった。


 大きな被害が出たその事件では、一時的に戦争の前線に送られるハズだった予備兵力の全て、帝国軍基準での六個軍相当が投入され、叩きつけられることで宇宙獣が一匹残らず殲滅された。


 駆除に手を焼いて、最終的に使用されたのは『惑星破壊弾』に『恒星破壊弾』の二種類であり、いわゆる最終兵器まで投入した激戦だったのだ。


 同盟の宙域図にぽっかり穴が開くように、一定範囲の宙域の全てを破壊し尽くすことで、やっとの思いで殲滅を成功させたのである。


 そして、この事態の事後処理時に流れ着いたデブリから、くだんの宇宙獣の卵が発見されたのが、のちに起きるいろいろな事件の発端となってしまう。


 同盟での実験により、一定以上の大きさを持つ生物にくだんの宇宙獣の卵を食べさせると孵ることが判明。


 そこから更に重ねられた実験により、『実験で孵ったモノを繁殖管理するのは不可能』と結論付けられた。


 そうした一連の実験で、同盟側ではこの宇宙獣の危険度が理解されたのである。


 残った卵は、同盟での利用方法がなかった。


 しかしながら、何の因果か、諜報工作の部門がその実験の情報を得てしまう。


「その卵を帝国で使ってやれ!」


 最初にそれを言い出したのは誰だったのか?


 それについての記録はないので詳細は不明だが、そのような流れで、くだんの卵はギアルファ銀河帝国の内部へと持ち込まれたのだった。


 使い道が生まれたことで、残った卵は全て、諜報工作の部門に委ねられる事態へ発展したのであった。


 それはそれとして、だ。


 同盟側は、対宇宙獣戦への帝国軍基準での六個軍相当の緊急投入により、予備兵力を大きく損耗してしまった。


 それが原因で一時的に兵力不足に陥り、最前線へ投入する艦隊戦力に穴が開きそうになってしまう。


 この時の、同盟側に実行可能な対策は残念ながら限られていた。


 故に、諜報工作の部門は忙しくなってしまったのだけれど。


 帝国の後方かく乱の手段として、アレフトリア公爵家部屋住みのスペアや、皇妃ローラの周辺に諜報工作員を暗躍させて行く。


 同盟側の諜報工作の部門に従事していた人々は、さまざまな工作を仕掛けることで、貴重な時間を稼ごうとしたのであった。


 そうした、同盟の諜報工作の一環として、ママワガ男爵にくだんの卵が流れて来たのが、二年と少し前のあの頃。


 ジンがこれまでに関与してきた全ての事柄は、妙なところで何気に繋がっていたのだった。


 ただし、今のママワガ男爵にできることは少ない。


 カイデロン星系第十五惑星にいる悪党は、自身に何らかの幸運が舞い込むことを祈りつつ、思考の海に沈んでいた。




 そうした別の場所での他者の動きなど、知るはずもない勇者と生体宇宙船の最強コンビ。


 新しい航路を自力で作り出している二者は、その仕事をしながらも、帝国軍の動きを予測する会話を繰り広げていた。 


「なぁ、サンゴウ。提出した作戦案。プランAの方は通ると思うか?」


「はい。プランA自体は通るでしょう。プランZが通ると良くありませんから、それが望ましいですしね」


「だよなぁ」


「ただし、問題はプランAに投入される、戦力の規模です。これは、何度も使える手ではありません。なので、一回で決めきれる戦力が必要なのですけれど。『そこをギアルファ銀河帝国の帝国軍司令部作戦室が正確に理解していて、作戦の実施となるかどうか?』ですね」


「そうだな。逆進撃に使われると困るから、今作ってるのは使い捨ての航路でしかないものなぁ」


「はい。一度後方を大規模に襲われれば、最前線に集中して戦力を送り込むことはできなくなります。ですので、『現状の苦しい状況を緩和する』という、最低限の目標は達成はできるでしょうね」


「この戦争は発端からして、帝国側は防衛戦争だったようだし、『同盟側を完全消滅させるまで、一気に攻め込むような決断が出るかどうか?』だな。まあ、そのあたりは、『帝国で入手できた資料を信じるのなら』の話だけど(この手の資料は、自国にとって都合の良いように、事実を捻じ曲げて作られることが、往々にしてあるのが現実なんだよな)」


 元日本人だったジンは、歴史を学んだことで、言葉にはしない部分の考えを持っていたが故に、疑いを残すような発言が出たワケなのだが。

 

 それでも、ジンが帝国側から提供を受けた資料を見る限りだと、帝国側に同盟の版図を侵略しなければならない理由が見つからない。


 片や、同盟側が帝国に戦争を仕掛ける理由は、単純明快に記載されている。


「民主的ではない、世襲が当たり前の『専制政治』という政治体制が気に入らない」


「帝国の国民を『専制政治』の圧政から解放する」


 同盟側が叫び続け、掲げた戦争理由は前述のコレであった。


 資料上では『同盟が帝国に戦争を仕掛けている』ということになっているのだ。


 まぁ、二つの最前線の戦場は、二国間を繋ぐ航路の『帝国側』の入り口部分であるから、客観的に見ても『どちらが仕掛けた戦争なのか?』は簡単に想像がつくけれども。


「(これってさぁ。同盟を軍事力でガツンと殴り倒してから、『お前らさぁ、他国に内政干渉するのは、民主的な行為なのか?』って正論パンチで現実を突き付けた上で、両国間にちょっと広い範囲の中立地帯を設けてさ。『これからはお互いに、非干渉で行きましょう』で良いんじゃね?)」


 ジンの個人的な考えはそうなってしまう。


 むろん、それだけのことが、簡単ではないのだけれども。




 航路作りをしながらそんな話をしている二人はさておき、自身の職務を真面目に行おうとしているシルクは混乱していた。


 オペレーターとして受けた訓練内容からすると、現在サンゴウが問題なく航行していることが、『理解不能』となるからだ。


 シルクの知識によると、今のサンゴウの航行は『あり得ないこと』なのである。


 サンゴウは新航路を作るために、当然ながら航路も宙域図もない前人未踏の宙域を航行している。


 シルクが見ているサンゴウのモニターには、進む先についてが自船位置と周囲との位置関係がわからない状態でしか表示されていない。


 そうであるのに、ジンがサンゴウに針路の指示を出し、何ら迷うことなく航行できているように見えている。


 そして、通過時には恒星のような光源が一定の間隔で設置されて行き、航路図として新たに更新され続けている。


 これでは、『訳がわからない』とシルクが混乱して当然であった。


 ちなみに、こうしたことができるカラクリは、その全てがジンの魔法によるモノだったりするのだけれど。

 

 ジンは成長した最大魔力量によって、マップ魔法と探査魔法を現在可能な最大領域に広げていた。


 そうしておいて、同盟の支配領域に対して、サンゴウの位置確認と進行方向の確認を常に行い続け、適切に針路の指示を飛ばし続けている。


 更に、そうした指示と並行して、瞬時回復する無尽蔵の魔力にモノを言わせ、光球の魔法をなんと、ちょっとした恒星並みの規模で発動して、ガンガンと設置し続けていたのである。


 ジンの光球の魔法は、発動後の持続時間が込める魔力量で調整できる。


 そのため、ジンは持続期間が九か月程度になるようにしていた。


 ジンが行っているこれは、地球の船舶が必要としている灯台やブイがアイデアの源であり、それを大量設置しているのと同じであった。


 けれども、光源は魔法であるが故の、恒星との違いが存在する。


 ジンが設置している巨大な光球は、恒星が持つような高重力や超高熱は当然ながらない。


 つまり、『光源のすぐ近く』でも、極論言えば『光源の中』でも、宇宙船が問題なく航行できる。


 ただし、そういった無茶なことをすれば、光学系の外部カメラや、センサー類がどうなるかは知らないが。


 そして、持続時間が設定されている魔法のため、その時間が過ぎれば跡形もなく消えてしまう。


 これが、『使い捨ての航路だ』とジンが表現した理由だったりするのだった。




 光には速度があり、距離的に表現されるもので『光年』という単位がある。


 『光年』とは光の速度で一年進めた時の距離を表現した単位のことなのだが、ジンが設置した瞬間から発生する光が観測できるのは、当たり前のことであるが発生した光が到達した距離範囲のみとなる。


 つまり、たとえば十光年先にある場所からは十年後以降しか観測できない。


 そして『魔法の持続時間が九か月』となると、『観測され始めてから九か月が過ぎれば観測できなくなる』ということになる。


 よって、同盟の支配宙域から、一光年の七十五パーセント、すなわち九か月分以上の距離に目印となる光球を設置していれば、作戦行動中はバレることが基本的にはない。


 もちろん、設置場所は『安全性を担保できる』と思われる距離を、ちゃんと余裕を持たせて確保しているのだけれど。




 サンゴウが新航路を完成させ、ジンは真っ直ぐに帝都へと戻る。


 帝国軍からすればチートでしかない生体宇宙船が戻った時、プランAに対する軍の結論は既に出ていた。


 そして、迂回侵攻軍の編成も、想定される作戦期間中に必要十分な兵站部分の準備も終わっていた。


 ジンの提出したプランAの作戦案は、帝国軍にあらゆる意味で完全に認められたのである。


 尚、初期段階での帝国軍の投入予定戦力は、三個軍であった。


 だが、皇帝の鶴の一声により、追加で帝都の戦力である機動要塞のうち五個が投入されることとなった。


 これは、サンゴウが計算する同盟側の戦力予想が正しければ、同盟の支配領域の五割程度を蹂躙できる戦力となる。


 それはそれとして、だ。


 サンゴウの参戦は『なし』と決まった。


 この決定は、帝国軍からの皇帝陛下宛てで出された意見が原因。


 それが採用されてしまった結果であった。


 このような経緯があって、ジンとサンゴウが作り上げた新航路のデータは、帝国軍に引き渡されることになる。


 ただし、情報漏洩を防ぐための予防策が同時に発動。


 超大規模演習として、新航路の出発地点となる宙域に迂回侵攻軍が集結した時、新航路のデータは初めて、帝国軍への引き渡しが行われたのである。


 新航路データの引き渡しを受けた迂回侵攻軍は、作戦開始となり出発した。


 参戦しないサンゴウは、作戦終了まで期間を帝都の周辺宙域で待機して過ごすことになったのである。




「なぁ、サンゴウ。俺ら『待機』になったのってさ、何故だと思う?」


「はい。『帝国軍内部での手柄の配分の問題』だと考えます。新航路の提供だけでも大手柄。そこへ更に戦場での戦果が上乗せされると、『艦長の手柄が大きくなり過ぎる』ということではないでしょうか?」


「呆れる理由だな。勝つ前から、愚かなことだ」


 ジンとしては、戦争に勝つことを第一目標にしていない時点で、帝国軍のやり方に疑問符が付く。


 また、勇者の直感的にも、今回の件は失策に感じた。


 もっとも、取り返しがつかないレベルの惨事にはならないのだろう。


 もしそうなら、もっと激しい嫌な予感に襲われるのであろうから。


「それと、帝都周辺に配置されていた機動要塞を抽出しているので、皇帝は『サンゴウをその分の穴埋め』という考えで、『帝国軍の意見を是とした』と推測されます。その推測が正しい場合、『サンゴウは『あの機動要塞五個分と同等』と判断された』ということですね。フフフ」


「そ、そうか」


 ジンとしては、久々に聴くことになったサンゴウの『フフフ』だった。


 何度聴いても、それに対するそこはかとなく感じてしまう恐怖に、ジンは全く慣れないのだが。


「別の可能性として、『ローラさまの意思』が影響した可能性もあります。『シルクさんを最前線に出したくない』とか、『待機中にちょくちょく会いたい』とか、『艦長とシルクさんの時間を確保してあげたい』とか。そういった私情が皇帝への圧力になったかもしれません」


 さすがのサンゴウ。


 サンゴウの推測は、全て正解だったりする。


 だが、『正解』だからといって〇をもらえることはない。


 ちなみに、そのようなサンゴウの回答を聞いていて、シルクは船橋の座席にて顔を赤くしていた。


「ジンとゆっくり時間を取って、子を望みたい」


 何故なら、シルクは以前のローラとの会話の中で、こんな感じの話をしてしまっていたからである。


「そうかー。そういうのもあるかもなー」


 ジンはヤル気スイッチをオンにした。


 だが、なにもおこらなかった。


 現実はゲームではないのだった。




 そんな会話を取りとめもなくしていると、話題に出たローラからのお願いごとの通信が入った。


 ローラが病に倒れていた時の関連案件で、以前手首から先を切り落とすことになってしまった女性の治療依頼が、お願いごととなる。


「わたくしの私財から五億エンを出すので、なんとか元の状態になりませんか?」


 ローラから持ち込まれた話は、そのような案件であった。


 帝国の医療技術ではできない、失ったはずの自身の腕と足の再生ができるのは、サンゴウをおいて他にはないのだから。


 ただし、ジンからすると通常であれば『お断り案件』となってしまう。


「(何故今になって?)」


 そんな考えが、頭を過ったのは確かだ。


 けれども、事情も心情も詳しく説明されてしまうと、ジンとしては『了承するしかない案件』へと変化してしまったのだけれど。


 この案件には、ジンが絆されるような事情が存在していたのだった。


 事件以降は義手での生活をしていたその女性には、元々婚約者が存在していたのだが、その家族から『義手の女性なんて!』と偏見に満ちた婚姻への妨害圧力が掛かり続けていたのである。


 それでも、当人同士の結婚の意思は固かった。


 そのため、幸い婚約解消には至っていなかったのだが、妨害が酷いせいで結婚ができず『婚約したままの期間が長くなり過ぎた』という状況になってしまう。


 それが最近になってローラの耳に入ったのだった。




 首都星周辺宙域で待機中のサンゴウには、喫緊でやらなければならないことは何もない。


 艦長のジンが了承した案件であれば、二十メートル級子機を出すことも吝かではないのだ。


 そのような案件の発生で、二十メートル級子機はサンゴウの格納庫からするりと発進する。


 ローラと治療が必要な女性と、護衛女性騎士一名、メイド一名の総勢四名が、サンゴウに乗り込み、ジンは手首の治療をパーフェクトヒールで行う。


 もちろん、『サンゴウが治療したように見せかけている』のは言うまでもない。


 経過観察として、サンゴウ内一泊し、翌日には全員帰還となる。


 この一件で味を占めたのか、待機中のサンゴウに子機での送り迎え要請付きでローラが何度か足を運んだのは、些細なことであろう。


 ジンが治療の報酬として五億エンを手に入れたり、治療を受けた女性が帝都到着後すぐに婚約者との婚姻手続きに入ったのは、もっと些細なことであろう。


 尚、格納庫で時々行われる、シルクの子機を装着した訓練の様子を、滞在中のローラが見学希望し、一緒に見学した女性騎士が、『アレ私も使ってみたい!』と言い出したのは別のお話である。


 普通に、サンゴウから却下されたのだけれど。




 待機中のサンゴウ、その船内で過ごすジンとシルクにはゆったりとした時間が流れ、一時的な休暇が訪れたも同然だった。


 けれど、それが長く続かないのは、ジンの運命力が作用しているせいなのかもしれない。


「艦長。侵攻軍で帰還できたのは、『七割』だそうです」


 不意打ちで、同盟側には防備がないところを襲う作戦であったはずなのに、想定外の損害を受けた帝国軍帰還の報が届いたのは、彼らの出発を見送ってから、四か月後のことなのだった。


 こうして、勇者ジンとサンゴウは帝国軍に銀河の星雲の外側から迂回侵攻する作戦を実施可能な状態にして授けた。

 ファンタジー由来の魔法と超科学由来の技術は、いとも簡単に『新航路のデータを作成する』という、比類のない巨大な功績を帝国軍の上層部に認めさせることに成功する。

 ローラの負い目を軽くする、とある女性の切り落とされてしまった手の再生治療も済ませた。

 けれども、遥か遠い地、カイデロン星系第十五惑星にいる悪党は健在。

 その上、楽勝ムードで出発したはずの帝国軍は、三割の損失を出しての帰還。

 それらが今後どう関係してくるのか?

 未来を知る者は誰もいないのだけれど。


 四か月少々の待機期間中に、ロウジュが女児を出産した旨の連絡を受け、無謀にも超長距離転移を行ってしまった勇者さま。

 一応転移自体は成功させたものの、魔力の枯渇でこれまでになかなか経験したことがないレベルの、激しい苦痛を味わうことになったジンなのであった。

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