5 聖女召喚
そして翌日。いつもなら聖女としての仕事にでかけるのだが、今日は王太子殿下から招待を受けたためヴァーノン様と共に謁見の間へと来ている。
謁見の間には王族の方々を始め、多くの貴族たちが集まっていた。全員、僕を汚いものを見るような目で見ている。だがそれよりも気になるものが目に入る。謁見の間の中央に、大きな文様が描かれていたのだ。
これは一体なんなのだろう。そう思いながらその文様の近くまで歩みを進める。すると、そこで止まれと王太子殿下の声がした。
「『能無し聖女』ラルフィーよ。貴様は自分こそが聖女だと謀り王宮へと来た割りに、魔力が乏しく満足に聖女として力を使うことは出来なかった。そうだな?」
「……」
事実とは違うため『はい』と返事をすることは出来ない。だからと言って『いいえ』と否定することも許されていない僕はただ黙る。
この人たちの間では、僕が聖女だと意気揚々ここへ来たことになっていたのか。そうなっていたのなら、力を満足に使えず『能無し』と呼ばれ蔑まされてきた理由がわかる。無理やりここへ連れてきたくせに。
「ここには異世界より真なる聖女を召喚するための魔法陣が描かれている。お前とは違う、本物の聖女をだ」
聖女を召喚するための魔法陣……? そんなものがあるのなら、どうして今まで使わなかったのだろうか。そう不思議に思うものの、何も言えない僕はそのまま黙って王太子殿下の話を聞く。
「ではこれより! 聖女召喚の儀を行う! 始めよ!」
王太子殿下が声高々に叫ぶと、魔法陣を囲むようにしていた魔導士たちは一斉にそこへ手をかざす。魔力が注がれると魔法陣はヴンッ……と光り輝いた。
魔法陣の光はぐるぐると円を描くように激しく点滅する。その勢いは凄まじく、眩しくて目を開けていられない。そして同時に周りの空気が一気に変わった。
うまく言えないが、何かが魔法陣に吸い取られていくような感覚だ。その時『ダメ! いけない!』という植物たちの声がする。
何が駄目? 何がいけない? そう聞きたいが僕の近くに植物はない。この声はきっと王宮の外の植物たちの声だ。それが一斉に大合唱となって『やめて』と叫んでいる。
そんな植物たちの声を無視するように魔法陣は益々光り輝き、カッと一際強く輝くと先ほどまでの眩しさが嘘のように沈黙する。眩しさがなくなり恐る恐る目を開ける。すると魔法陣の真ん中に座り込む一人の女性がいた。
「おおおッ! 召喚成功だッ!」
「素晴らしいッ! 聖女様のご降臨だッ!」
「え? え? なになになに!? どういうこと!?」
聖女が現れたと一斉に騒ぎ立てる貴族たち。その声に驚き、魔法陣に座り込む女性は驚いていた。だがそれは僕も同じ。本当に人が召喚されたのだ。こんなことが本当に出来るなんて……
「聖女様、ようこそサレルヴァ王国へ。あなたが現れるのを待っていました」
「え……? 聖女、様……? え、私、聖女なの!? それに超イケメンじゃん! 嘘っ、コレ、ラノベとかにある聖女召喚ってやつ!? マジ!?」
王太子殿下が座り込む女性に優しく手を差し伸べる。殿下の顔を見た女性は一瞬にして頬を赤く染めていた。殿下の手を取りゆっくりと立ち上がる。少し小柄ながらもとても美しい女性だった。
殿下は聖女様の腰を抱くようにそっと抱きしめる。聖女様の顔は満更でもなく、しなだれかかるように殿下に身を寄せた。
「聖女様、あなたのお名前は?」
「私? タナカミサキよ。ミサキって呼んで!」
「ミサキ……美しいあなたにぴったりの可憐な名前だ。ではミサキ。突然で申し訳ないが、あなたの力を示してもらえないだろうか? あなたは真の聖女だ。きっと聖女としての力を使うことが出来るはず」
「聖女の力……? あ、もしかしてコレ?」
聖女様は掌を上に向けると、ぶわりと聖属性の魔力を解放した。僕が力を使えるようになるまでに半年かかったのに、召喚された聖女様はいとも簡単に力を行使する。
聖女様が力を使った途端、この場の空気が優しく心地のいいものに変わった。これが本物の聖女の力。僕とは全然違う、本当の聖属性の力。
「なんと素晴らしい! あの偽りの『能無し聖女』とは雲泥の差だ!」
「『能無し聖女』……?」
「そこにただ突っ立っている者がそうだ。大した力もないくせに、自分こそが聖女だとここへ乗り込んできた恥知らず」
殿下が僕を忌々し気に睨みながら指を指す。それに合わせて聖女様と視線がぶつかった。僕を上から下まで眺めると、くすりと嘲笑の笑みを浮かべた。
「ヤバ。超ダサいんですけど。あれが聖女? 能無しって言われるの、わかるわ~」
「そうでしょう。あなたとは比べるまでもない。……おい、『能無し聖女』よ。お前を虚偽罪で罪人とする! 引っ立てよ!」
「え……!?」
罪人……!? どうして、と混乱している間に、僕はあっという間に二人の騎士に拘束された。手を後ろに回され紐で固く結ばれる。締め上げられるように結ばれ腕が強く痛んだ。
どうして。なんで。急な展開に頭が追い付かない。
「聖女様!」
そんな時ヴァーノン様の声がする。顔を動かせばヴァーノン様がこちらへ駆けてきていた。だが他の騎士によって拘束され身動きが取れなくされてしまう。
「ヴァーノン様っ! 駄目! こっちへ来てはいけません!」
僕を庇うようなことをすればヴァーノン様まで罪人にされてしまうかもしれない。罪人とまではならなくても、何か罰を受けることになるかも。僕に唯一優しくしてくれた人が、僕のせいでそうなることは望まない。
「やだ、何あの人もイケメンじゃん! ねぇ、あの金髪の人って誰?」
「……あれは『能無し聖女』に付けられた騎士です。騎士とはいいますが、あいつは我が国の恥さらしですよ。聖女様が気にされるような方ではありません」
「え~? でも顔が超タイプなんだよね。ねぇ、あの人私の騎士にしてもいい? いいでしょ? ねぇ、お願~い!」
「……くっ。聖女様がそう望まれるなら仕方ない。ヴァーノン! お前は今から聖女様の騎士となれ! それから『能無し聖女』を早く牢へ入れろ! こんな奴の顔など見たくもない!」
「はっ!」
殿下の一声で、僕は引っ張られるようにして謁見の間から連れ去られる。その時ちらりと見たヴァーノン様は、まるで泣きそうな顔をしていた。
ありがとうございます、ヴァーノン様。僕が罪人となったことを、たった一人でも憤ってくれて嬉しかったです。
その気持ちが伝わるよう、ヴァーノン様ににこりと微笑んだ。




