19 再会と驚き
シンデア王国の王宮に来て半年が過ぎた頃。
「ラルフィー様ぁ! ラルフィー様ぁぁぁぁぁ!!」
「あれ? この声ってジェームズ様?」
ある日、畑での作業を終わらせて自室へと戻る途中、僕の名前が大きな声で叫ばれ後ろを振り向く。するとジェームズ様が全力疾走でこちらへ向かっていた。何か緊急事態が起こったのかと緊張が走る。
「ラルフィー様! ぜぇぜぇ……お、お父様と妹様に接触出来ましたよ!!」
「え? えええええ!? 本当ですか!?」
僕がこの王宮に来た頃、故郷の村で別れた父さんと妹に僕の現在の状況を伝えてほしいとお願いしたところ、ジェームズ様が請け負ってくれそしてとうとう二人に会えたのだと言う。
急ぎ僕の自室へと戻り詳しく話を聞くことにした。
ジェームズ様の部下数人が僕が住んでいた村を探すために隣国へと向かった。僕がわかっているのは村の名前と辺境にあるということ、そして領主様の名前くらいだ。国のどの辺りに村があるとか、そういったことはわからない。でもジェームズ様の部下の人はその情報から故郷の村がある場所を突き止め、訪ねてくれたそう。
そして無事に僕の父さんと妹と会え、僕のことを話してくれた。以前僕が送った手紙で僕が無事だとわかったものの、その後どうなったか連絡がなく心配していたそうだ。
だから今現在、シンデア王国の『緑の聖女』となったことに驚いたものの、今の僕が何の不自由なく生活出来ていることに安心して泣いてくれたそうだ。
「それでですね! なんとお父様たちがこちらの国に移住されることになりました!」
「え? え!? 移住!?」
これはジェームズ様の提案だそうだが、僕の父さんたちと無事に会えたら最初からこの国に招待するつもりだったそう。それを聞いた父さんが、僕と二度と会えないと思っていたのにまた会えるならと移住を決意。妹も僕に会いたいからと一緒に来ることになったそうだ。
今は引っ越しの準備中で、こちらに到着するのはしばらくかかるとのこと。とりあえず先に、僕にこのことを知らせるために早馬を出したとのこと。
ただ父さんたちは王宮内に住むことは出来ないから王都に用意された家に住むことになるけれど。
それでも十分だ。だってまた父さんたちに会えるんだもの。それだけじゃなく、この国に移住するならいつだって会いに行ける。こんなに嬉しいことはない。
「フィー、よかったな」
「うん! これで父さんたちにヴァンを紹介できるよ!」
あの国で、いつか故郷の村へ帰るんだと強く決意し、それを叶えるためにどんな屈辱でも耐えてきた。だけど今、まさかの形で父さんたちにまた会えるなんて。
そして案の定、故郷の村も魔物の被害はなかったそうだ。その理由を村の人に伝えてくれたそう。父さんたちがいなくなっても、続けて僕の家にあった花たちの面倒を見てくれるそうだ。よかった。
◇
「ラルフィー……? ラルフィー!」
「父さん! レミー!」
「お兄ちゃん!」
それから一月後、父さんと妹のレミーがシンデア王国に到着した。王宮に招かれ、僕の自室へと来てくれた。父さんは少し痩せてしまってどれだけ心配かけさせたのかと胸が痛んだが、それでも元気そうな姿に安心した。レミーはもうすっかり大人になっていて、それだけの月日が流れたのだと少し寂しくもなった。
父さんたちを抱きしめると、あの村での懐かしい日々が思い出され目頭が熱くなる。
「ラルフィー、こんなに立派になってっ……! 母さんも天国で喜んでいるはずだ。ほんとにっ……無事でよかったっ……」
「うん、心配かけてごめんね」
父さんがこんなに泣くところを見たのは母さんが死んだ時以来だ。その姿を見て、僕もレミーもしばらく涙が止まらなかった。
「ジェームズ様、本当にありがとうございました。こうして父さんたちに会えて、とても嬉しいです」
「いえいえ。これくらいお安い御用ですよ」
父さんたちが落ち着いたのを見計らって、侍従のザカリーさんがお茶を淹れてくれた。それに合わせてソファーに腰掛ける。
「あのね、父さんに紹介したい人がいるんだ。専属護衛でもあるヴァンだよ。僕の恋人なんだ」
「なに!? こ、恋人!?」
「ヴァーノンと申します。いきなりで驚かれたでしょうが、私はラルフィーさんと真剣に交際をしております。どうぞよろしくお願いいたします」
「……お兄ちゃん、ちゃっかりこんな格好いい人と恋人になってたの? なにそれずるい! 羨ましい!」
妹の言葉に苦笑しながらも、ヴァンとの出会いから順に説明する。僕が連れ去られてからどんな風に生きていたのか。あまり詳しく説明すると父さんが気絶しそうな気がしたので、かなりぼかしたけれど。それでも僕がいい生活を送れていなかったことを知って憤っていた。
「はぁ……本当にヴァーノン様にはなんとお礼を申し上げたらいいのか……ラルフィーの命を救っていただきありがとうございました」
「頭を上げてください。当然のことをしただけですので」
「いいえ、ヴァーノン様の身も危なかったでしょうに。こんなこと、誰でも出来ることではありません。どうか不束な息子ではありますが、これからもよろしくお願いいたします」
「父さん……」
父さんに認めてもらえてほっとした。きっと反対することはないだろうと思っていたけど、こうしてちゃんと認めてもらえたことが凄く嬉しい。
「フィー。こうしてお父上にも認めてもらえた。だから言おう。俺と結婚してくれないか?」
「え……? え!?」
「「えーーー!?」」
け、結婚!? え、待って待って待って! いきなり過ぎる展開についていけないよ!? 父さんも妹も、侍従のザカリーさんにジェームズ様までみんな驚いちゃったじゃないか!
そ、それにこんなみんなの前で言うなんてっ……! 嬉しいけど恥ずかしいっ……!
「俺はこの先もずっとフィーと一緒に生きていきたい。その誓いをしっかりと立てたいんだ」
「ヴァン……! あ、えとっ……よ、よろしくお願いします!」
「フィーッ!」
「うわぁ!」
この先もずっと一緒に生きていきたい。それは僕だって同じだ。ヴァンに結婚を申し込まれて断れるはずがない。僕だって望んでいたことだから。
だから承諾の返事をした。すると満面の笑みを浮かべたヴァンに、勢いよく抱きしめられてびっくりする。おまけに父さんたちに見られているから恥ずかしいけど……でも幸せな気持ちでいっぱいでなんだかふわふわとする。
「なんという瞬間に立ち会えたんでしょう! おめでとうございますラルフィー様! エセルバード様もお喜びになりますよ!」
「な、なんだか急展開で驚くことばかりだが……ラルフィー、ヴァーノン様と幸せになりなさい。おめでとう」
「……うんっ、ありがとう」
僕たちを祝福して、この場にいるみんなが拍手を送ってくれた。こうして祝われて恥ずかしくも嬉しい。僕はヴァンと結婚して家族になるんだ。新たな家族が増えるってなんて嬉しいんだろう。
「ラルフィー様、こうなったらお父様にもっと驚いていただきましょう!」
「え?」
ジェームズ様がいたずらっこのように笑っている。どういうことだろうか。その答えがわかったのは夕食時だった。




