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14 聖女だとバレた

「さて、まず君たちに確認したいことがある。不思議な力を持つ野菜を育てているフィーという青年は、その小柄な君で間違いないか?」

「っ!?」


 その言葉を聞いて、とうとう恐れていたことが起こったのだとわかった。ヴァンは急ぎ僕を立たせると背中へと庇った。恐怖で震える手でヴァンの背中をギュッと掴む。

 この人は一体どこまで知っているんだろうか。もしかして、無理やり王都へと連れて行くつもりなのか。それともあの国へ送り返すつもりなのか。


「そう警戒しないでくれ。君たちに危害を加えるつもりはない」

「……それを信じろと?」


 ヴァンの声は今まで聞いたことのない、冷たく重い声色だった。エセルバード様とヴァンは目を逸らすことなく睨み合う。

 どうしよう。僕たちなんかこの人たちの前では無力も同然。騎士も二人いるし、このまま逃げることも出来ないだろう。


「ちょっとちょっと! エセルバード様! そんな態度じゃ誤解されると言ったじゃないですか! 顔が怖いんですって! 笑顔ですよ、笑顔!」

「……笑っているだろう」

「どこが!? いつもの仏頂面にしか見えませんけど!?」


 あ、あれ? もう一人の役人の男性が割って入ってきたことで、重苦しい空気が一気に変わってしまった。「すみません、すみません!」と平民の僕たちにペコペコと頭を下げている。


「怖がらせてしまってすみません! 僕は宰相様の秘書を勤めているジェームズと言います。本日はフィーさんにお話をお伺いしたくて王都から参りました。どうかそんなに警戒しないでください。僕たちは誓って、あなたたちに危害を加えることはありませんので」

「……」


 どこまで信用していいのかわからないけど、とりあえず話を聞かなければ何も進まない。僕はヴァンに「大丈夫」と一言告げ、また椅子に腰かけた。だけどヴァンは警戒を解くことはなく、いつでも動けるように僕の後ろへと立った。


「エセルバード様に説明させると怖がらせるだけなので、ここからは僕がお話しますね! えっとですね、まず今現在、この世界に魔物が溢れ出していることをご存知でしょうか?」

「は……? 魔物……?」


 いきなり突拍子もない話を振られ、思わず間抜けな声を上げてしまう。だっていきなり魔物だなんて言われてもわからない。魔物という存在は知っていても、見たことなんてないのだから。


「ご存知だとは思いますが、魔物とは瘴気に侵された動物が変異した姿になります」


 瘴気とは淀んだ魔素の集合体だ。魔素とは空気中に漂う魔力の欠片。人間が持つ魔力に対して、魔素とは自然界の魔力の欠片だ。それが何らかの影響を受け瘴気の欠片へと変じる。それが多く集まると瘴気となり、動物がその瘴気に侵されると自我を失い恐ろしい魔物となる。

 だけど魔物の数はかなり少ない。瘴気自体が少ないからだ。本当にたまに目撃され、国の騎士団が討伐に向かったりする。

 なのにジェームズ様が言うにはその恐ろしい魔物が溢れ出していると言う。この村にいて魔物が出てきたなんて話は聞いたことがない。誰もそんなことを言っている人はいなかったはずだ。


「何が原因なのかは未だ調査中ですが、この国だけではなく、至るところで魔物が多く目撃されています。襲われた村や街も多く、被害者が急増しているんです。ですがこの村周辺だけは、魔物が一切近寄らないのです」

「え……?」

「この村周辺だけ、と言いましたが、正確に言えば王都とこの村周辺だけ、です。王都が狙われない理由は、聖女様がいらっしゃるからです。聖女様が癒しの力を使い、瘴気を浄化してくださったからなのです」

「っ……!」


 この人が言いたいことがわかってしまった。この村に、聖女がいるとわかったんだ。そして不思議な野菜を育てている僕のことを知ってこの村へと訪ねてきた。こういうことだろう。

 どうしよう。怖い。手が震えてきた。僕はまた聖女として無理やり力を使わされるのか。


「……そのご様子だと、あなたが『聖女様』なのですね。男性なので驚きましたが、聖属性の力を持っている。そうですね?」

「……はい、そうです」

「お前たちの目的は一体なんだ? フィーを無理やり連れて行くと言うのなら、抵抗させてもらう」

「あわわわわ! 待って待って! あなたたちに危害を加えるつもりはないって言ったじゃないですか! 剣から手を放してください!」

「ならばそこの騎士二人も剣から手を放してもらおう」


 ヴァンが臨戦態勢を取ったことで、エセルバード様たちに付いていた騎士二人が剣に手をかけた。まさに一触即発の状態でいつ剣を抜いてもおかしくない。

 ジェームズ様は「わかりましたわかりました!」と騎士二人に剣から手を放すよう指示をする。騎士は渋々ながらも警戒を解く。だがこちらを睨みつけるような視線は変わらなかった。


「あなたが聖属性を持っているとご存知だということは、属性検査を受けたのですね? 見たところ平民のようですが、属性検査は平民が受けることはあまりありません。どうしてなのか、伺っても?」

「それはっ……」


 本当のことを話してもいいのだろうか。それであの国に連れ戻されるようなことになったらどうしよう。それだけは嫌だ。ヴァンとこうして暮せなくなることだけは、絶対に嫌だ。


「……お話してもかまいませんが、一つだけ約束してください。僕を元の国に送り返さないと約束してくれますか?」

「何か深い事情がおありなんですね。……わかりました。いいでしょう。エセルバード様もよろしいですね?」

「ああ」


 ジェームズ様とエセルバード様の了承を貰えた。これも正直どこまで信用できるのかわからない。だけど信用するしかないのだ。


「……僕は、隣国サレルヴァ王国の聖女でした」


 元々辺境の村に住んでいたが、国から役人が来て属性検査を受けさせられたことから順に話をした。無理やり王都へと連れて行かれ偽りの聖女として女装をしていたこと。魔力量が少なく『能無し聖女』と呼ばれていたこと。僕が余りにも使えないからと、異世界から聖女を召喚したこと。それによって処刑が決まり、ヴァンが助けてくれ、この村へと逃げてきたこと。長くなったが、誰も僕の話の邪魔をすることはなかった。

 だけど「聖女召喚」という言葉に、ジェームズ様もエセルバード様も大きく反応した。


「そ、それは間違いないのですか!?」

「はい。召喚するところを見ていましたので」

「エセルバード様! 魔物が溢れた原因はこれだったんですよ!」

「……はぁ。何ということをしてくれたんだ、あの国は」


 聖女召喚が魔物が溢れた原因……? どういうことか全くわからず、ヴァンの顔を見るもヴァンもよくわからないようだった。そんな僕たちを見たジェームズ様が詳しく教えてくれた。

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