mittion1-2
誤字脱字があるかもしれません。
まだ女の子は出て来ませんが、
どうかお付き合いくださいませ。
「なっ…。」
僕は全身に電気が流れるような感覚を覚えた。真っ白な部屋の中で僕は黒目を痙攣させる。なぜなら目の前にいるのは最強の大人ではなく、ただの子どもなのだ。しかも未成年というレベルではない。どう見ても高校生くらいである。一人は熱心に塗り絵に取り組み、一人は漫画を笑顔で読んでいる。もう二人はチェスで勝負をしているようであったが…。
「あれ?誰このオッサン。」
奥からニット帽を深くかぶったボサボサ頭の少年が出てきた。皺だらけの黒いダボダボのチェックシャツが生活感を漂わせている。
「オッサンって…。それより君たちはっ、そのっ、どうしてこんな所にっ。」
すっかりテンパってしまった僕はこの黒ぶちメガネの少年にさえ口を上手くきけない。
「どうしてここに?ここが家だからに決まってんだろ。」
「家?」
後ろにいるユリコさんの笑い声を聞いて僕は合点が合った。
「あぁそっか。君たちはここの人たちに連れて来られた少年たちか。」
非行少年を取り締まるのが仕事のここなら、子どもを引き取ることくらいしそうである。
ところがユリコさんは笑うのをやめて部屋に入ってきた。
「みんな紹介するわね。この人がこれからあなた達の事務員を務める山川太一さんよ。」
僕は口をもごもごと動かすことしかできない。
「何言ってるんです?僕は1班のメンバーの事務員では…。」
「だから言ってるじゃない。ここにいる1班のみんなの事務員よ。」
「えっ…。冗談ですよね?」
さっきからタメ口になっているユリコさんは下に落ちたトランプを拾い上げた。
「こらっダメじゃない、凶器をこんなところに捨ててたら。」
「凶器?」
「トランプの片方の側面がカッターになっているの。」
「カッター!?どうして…。」
もう何がなんだかわからない。えっ?はぁっ?
黒いソファーチェアに座っている五人は、表情がコロコロ変わる僕に目をくれもしない。
「ユリコさん…。」
「ふふっごめんなさいね。そんな涙目やめてちょうだい。でも私、戦闘員が大人だなんて一言も言ってないわよ?」
「戦闘員…。」
戦闘員って戦うってこと?こんな子どもが…。
「こんな子どもが戦うくらいなら、武道無経験の僕にだってできるような簡単な仕事なんじゃないかな?」
「え?」
「貴様、今そう思っただろう。」
声の主はチェスをやっている薄茶色の髪をした少年だ。
「チェックメイト。今回は俺様の勝ちのようだなハハッ!」
「自分から「今回は」って言っちゃう奴に高笑いされてもムカつかないけど。」
薄茶色の髪の少年はグルリとチェアーを回転させて僕を見る。
「想像通りの外見、想像通りの反応だな。残念ながら貴様が思っているような簡単な仕事など俺様たちは引き受けていない。」
「ちょっと待って、貴様って僕のこと?」
ユリコさんは書類に目を通すのに忙しいようなので、僕自身で彼らの対応をすることに決めた。
「怒るところそこですか、山川さん。この馬鹿が言うことは気にしないで下さい。自己満足ですから。」
「あん?なんだとコラ。」
「はぁー…自分の気持ちを読み取られたことに触れないってことは、事実だから深入りされたくないってことですか?」
「えっ気持ちを読み取る?さっきのは僕をおちょくって言っただけだろう?」
「どうやったらこんな状況でそんなポジティブな解釈ができるんです。」
銀ぶちメガネで短髪の少年は、チェスのナイトを手でいじりながらため息をつく。
「ユリ姉、この人がここに入るのは決定事項なんだろ?」
「えぇ、一応ね。」
すっかり仕事に夢中になっているかと思いきや、素早い返答が返ってきた。
決定?そんな、僕はこんな仕事できない。
「それなら俺たちのことを知ってもらえばいい。そしたらこの状況を理解できるだろ。」
短髪の少年はジャケットの中に手を入れる。
何か深入りする前に逃げなくては。こんなことやってられるか!
「動かないで下さいよ、死にたくなければ。」
するとさっきのトランプが宙に放り出された。
「?」
―ヒュンッ
「!?」
―ズボッ
一瞬の出来事に足がすくんだ。一時停止しているのは僕だけで子どもたちは平然としている。ゆっくり、ゆっくりと振り返ると自分のギリギリの壁にトランプが棒状の物によって突き刺さっている。
「どっどうしてクナイが…。」
「俺は木影ヒカル。木影流忍者の子孫だ。」
は…はははははは。
「ひっヒカルくん?そのあの…どういうこと?」
「どういうことも何も…。」
ヒカルくんはジャケットのボタンをはずすと、内側を見せるように僕に向かって開いた。
「こういうことだけど。」
そこにはぎっしりクナイが収納されている。
「どうして…。」
「あぁ手裏剣は好きじゃないんだ。クナイの方が実用的だしな。」
「そうじゃなくて、どうしてクナイなんか…。」
「俺は戦闘員の中で主に敵の動きを封じたりする役回りだからだ。こういったものがあった方が便利だろう。それに先祖の血を有効活用しない手はない。」
さっきの忍者の子孫という話を僕が信じている前提で話が進んでいる。
どうしよう、どうしよう。全然ダメだ、理解できない。
「ハッハー!おい、理解できないってよヒカル。」
茶髪の少年は意地悪そうに笑う。
「いつまで俺様のこと茶髪の少年って呼ぶつもりだ?これからは天地イク様と呼べ!」
またしても心の声を読み取るかのような発言にちょっと苛立ちを覚えた。
「どうして茶髪の少年って呼んでるってわかるの?」
「俺様は人の心が読めるからに決まってんだろう!」
すると後ろの方にいるマンガを読んでいた白衣姿の男の子が立ちあがった。
「ふふっ誰でもわかりますよ。さっきから太一さんイクの髪ばかり見ていましたから。」
イクくんが舌打ちをする音を聞いてヒカルくんは嬉しそうにしている。
白衣の男の子は僕の方へまっすぐ歩いてきた…と思いきやストーブの電源を消しにきただけらしい。
「そろそろ換気をしないと。」
「あの…君は…。」
白衣の男の子は柔らかそうな髪を揺らして、初めて好意的ともいえる笑顔を浮かべた。
「星島リウっていいます。この中では医療担当です。」
医療?あまりにも見たままなので口角が上がってしまう。
「すいませんね、みんな個性的な人たちばかりなので。でもいい人たちなんですよ。」
「あの、医療って何をするんですか?」
リウくんにつられて僕も敬語で聞いてしまった。
「みんなの健康管理や、怪我などの応急処置ですよ。他にも容疑者や被害者のけがの具合などを調査する時も俺ですが。」
容疑者?被害者?訝しい単語が出てきたと思いつつ、リウくんは普通に優しそうなので心がやっと落ち着いた。
「ほら、マコトも挨拶したら?」
リウくんは塗り絵をしている少年に声をかける。前髪ぱっつんが印象的のこの少年はこの中では一番若そうだった。
「今忙しいんです。後にしてもらえますか。」
あまりにもキッパリと滑舌良く返事をしたので、見た目以上に大人らしいことを知る。ひたすら色鉛筆を動かす少年はある意味忙しそうに見えた。
「ねぇ何の塗り絵をしているの。」
「塗り絵じゃないですよ。定理の証明です。」
数学で聞いたことのあるような単語が小さな少年の口から出てきてびっくりする。
「四色定理ですよ、知らないんですか?」
「四色定理?もしかして四色問題のこと?」
「あぁやっぱり知ってるんじゃないですか。」
もう僕との会話を終わらせたつもりなのか、また新しい色鉛筆に手を伸した。
「おい、クソガキ、絶対そいつわかってねーぞ。」
「知ってますよ、でも説明するの面倒ですし。」
四色問題という名前しか知らなかったことが子どもたちにはバレバレらしい。
「説明してほしいですか?」
「あっいや…それより君自身の説明がほしいんだけど…。」
気まずいので遠慮がちに尋ねると、黒く大きい瞳が僕の目と交わった。
「風宮マコト、14歳です。情報担当をしています。」
14歳!?中学2年生じゃないか。
「情報?」
あくまで平静を装いながら聞き返す。
「戦場では情報が命を左右するんです。班長に的確な指令を出していただくために僕がすべての情報と、すべての可能性を散策します。そこにあるパソコンが僕の相棒ですよ。」
全然意識していなかったが、近くに薄っぺらい黒い板が座っている。
「へぇ…それは、あれかな。ヘッドフォンマイクかなんか付けてやるんだよね。」
「はい?」
マコトくんは1度考えてから声を出して笑った。
「そうです、そうです。ははっ。へぇ、結構面白い人じゃないですか。」
「うっははは…。」
明らかに子どもに見下されている。僕の方が果てしなく立場が低い。もうどうすればいんだよ!それでもみんな僕の方にやっと気を向けてくれたようだ。気が向くというか、好奇心の塊を向けられているだけのような気がするのだが。
「…さっき班長って言ったけど誰がそうなの?」
「あぁ紹介まだでしたもんね。」
マコトくんは部屋をぐるりと見回してから、何かを見つけたようでぱっと顔が華やぐ。
「僕らの班長であり『青少年非行防止委員会』の会長にあたる空見レイ先輩です。」
レイ?女の子なんかいたっけと思いつつみんなの視線の先をたどる。
「あっはじめの…。」
視線の先にいるのは深くニット帽をかぶったあの少年である。眠っているのか小さくかがんでいるので存在を忘れていた。
「どうしたんです?」
「いや、女の子かと思ってね。」
「でも先輩、カッコイイでしょ?」
「そ、うだね…。」
なんだか男の子が男の子のことをカッコイイと言うと生生しく感じてしまう。
「会長かぁ…でも意外だな…。」
オッサンと言われたことを少し根に持っていたからか、そんなことを言ってしまった。
「山川さん、レイのことナメてると痛い目にあいますよ?」
「リウくん。」
「レイは僕らとは比べものにならないくらいの力を持っていますから。ふふっ残念ながら僕なんかレイの足元にも及びません。」
「おい、何だその言い草。俺様が雑魚だとでも言いたいのか。」
「そんなんじゃないよ。でも事実じゃない?」
「僕もレイ先輩には敵いません。…他の人には負けない自信はありますが。」
「何か言ったか。」
「いえ、何でもないですヒカルさん。」
みんなただ自分の意見を言うだけで、結局レイくんが何者なのか教えてくれない。
全員性格がバラバラのためか仲が良さそうには見えなかった。それにしてもこんな状況の中眠れるレイくんって何者なんだ?あ、すごいのはそんなところじゃないんだろうけど。
「IQ209の天才よ。」
思いがけなく書類の整理を終えたと思われるユリコさんが口を開く。
「青少年非行防止委員会の人間兵器と恐れられ、闇社会では『天から来た悪魔』という異名を持つ世界最強のキッズ。」
「悪魔…。」
レイくんの横顔と僕の手を見比べる。
「その異名の由来はすぐにわかるわよ。仕事は毎日山ほどあるんだから。」
「僕には無理です。」
「え?」
僕は持ってきた黒革のバッグを肩にかける。
「はっきり言って信じられない。こんなの…非現実的すぎる。どうして子どもが戦っているんです?戦うって何と?もう…。」
息が切れる。脳に酸素が回らない。
「太一さん。」
「僕は普通の仕事をしに来ただけです。危険な仕事に巻き込まれる筋合いなんて一つもない!」
沈黙が流れる。
僕は自分で何を言い出したのかよくわからなかった。でも今言わないとこのまま流されてしまう気がしたのだ。
ユリコさんはまつ毛を下に向けてから、外に出て行った。本当は一人にしないでほしかったが、呼びかける気も起らこない。元はと言えば彼女のせいなのだ。こんなの詐欺じゃないか!今すぐ帰ろう。帰って就職活動をしよう!
「じゃあ、聞きますけど。」
マコトくんが冷たい眼差しを僕に向けた。
「なんで僕たちの自己紹介最後まで聞いたんです?」
あぁそうだ、どうして最後まで聞いてしまったんだろう。
「おもしろかったんでしょ?子どもなのに危険な仕事をしているのが。信憑性が出てきたら終わりにするんですか。」
彼の目を見ることができなかった。
確かに興味本位もあったかもしれない。それでも自分の言っていることが間違っているとは思わない。大人なら誰だって同じような行動をしただろう。それをこんな子どもに偉そうにー…!
「さっきの質問に答えましょう。僕たちが何と闘っているかでしたっけ。」
――――――――。
「アンタみたいな汚い大人とですよ。」
急に全員の顔から笑みが消えた。腰が引く。
怖い?僕は子ども相手に恐怖を感じているのか。
「青少年非行防止委員会って名前の意味わかりますか?青少年の非行を防止する委員会。そのままですけど、ここで指す『青少年』って誰だと思います?」
聞きたくない。怖い、怖い、これ以上知ってはいけない。
それでも身体が動かない。どうして、子ども相手なのに。
「はぁ、知りたいようですよレイ先輩。」
急に人間兵器の名前を口にされ顔が引きつる。
「ふわぁ~そろそろ時間?」
少年は大きく伸びをすると、口元を手で押さえながら立ちあがった。椅子にかけてあるイヤホンを掴むと扉に向かって歩き出す。
「やっぱり起きてたんじゃないですか、演技も上手いですね、先輩♪」
「そりゃ、起きてそいつの相手をしなくちゃいけねーのダリィし。」
白い歯を少し覗かせると、僕の肩に手を置いて耳元で囁く。
「これから仕事なんだけど、付いてくる?」
首筋に寒気が走る。寒気を通り越して恐怖そのものが走り去ったような気分になった。
「僕は…。」
今すぐ帰るに決まってるだろ、と言おうとして口が止まった。舌から水気が引く。
「帰りたいなら帰っていいけど?」
少年の顔が数センチのところにある。身動きが取れない。
「これはアンタが決めることだからさ。ね?」
自分の目が燃えるように熱くなる。
「…かわ…は…に……ない。」
「っ?」
「山川太一は絶対に帰らない。」
無声映画からいきなり声が出てきたような感覚に襲われた。
彼は瞬きもせず口を動かす。
「山川太一は絶対に帰らない。」
彼はくり返した。くり返した?実際は口パクでもう一度言っただけだ。それでも鮮明に音が聞こえてくる。
しばらくして風の音が初めて聞こえた。ような気がした。僕は今、どうしてここにいる?
帰らない。帰れない…。帰りたくない?
宙がひっくり返る。地面がすっぽりと抜け落ちた。
僕は何のためにここへ来たんだっけ?
目をつむるとそこは暗い暗い世界の奥底だった。
「はっ!!」
気付くと僕は暗闇ではなく車の中にいた。車?動いている?
口の中が渇いている。少しの間の記憶がない。僕は寝ていたのか。それじゃ、あの子どもに囲まれているおかしな光景も夢だったんだ。そうだよな、子どもが戦っているだなんてそんな馬鹿げたことがあるはずがない。
「はははっはははは…。」
もう立派な大人の僕が、夢にうなされていたなんて恥ずかしいことだと思う。でも覚めてくれて本当に良かった…。
「何笑ってんだぁ?起きたならさっさ準備しやがれ。」
「…………………。」
夢じゃねえぇぇぇェェ!!
あっ僕なんかおかしくなってる。これも夢だ、というか夢だと言ってくれエェェ!!
「だから夢じゃねぇって。俺様が夢ごとテメェを叩きのめしてやろうか、アン?」
「ちょっとやめてよイク。車の中狭いんだから。はい、これお守り。」
どういうことだ?僕は帰ったんじゃないのか?何で子どもたちと一緒にいる?
僕は車の最後部座席にいるらしく、慌ててバッグミラーに目をやる。運転しているのはユリコさんだ。僕が起きているのを知ってか知らずか何も言わない。
「…は…はは…。」
車の窓が特殊加工されているせいか入ってくる光が極端に少ない。もう真っ暗だ。なんだ、結局、暗闇の中にいるじゃないか!!
「あのっ降ろしてくださいっ無理ですからっ早く!!」
「あんたがここにいるのは班長のせいだからな。俺たちの意志ではない。」
黒く扮装したヒカルくんがご親切に回答してくれた。
「班長があんたに軽い催眠術をかけたんだ。『山平太一は絶対に帰らない』ってな。」
それならまぁ納得がいく。とりあえず僕の意志で来たわけではないことが判明してほっとした。…っていくかー!!催眠術!?
「催眠術なんて大袈裟なものじゃない。ただ、調教しやすい体質っぽいから軽い暗示をかけてやっただけだ。」
助手席から声が聞こえて、また背中に悪寒が走る。僕はどうやら彼が苦手らしい。
「それよりマコト、情報は?」
「ちょっと待ってください。ユリさん、ここ電波悪いです。」
「チッ。わーったよ、次の信号右折すりゃーなんとかなんだろィ。」
え?今の誰の声?
「あぁ、ユリさんはハンドルを握ると性格が変わっちゃうんです、ふふっ。」
「おーらぁ行くわよっ!!」
「ひゃっ!」
勢いよく右折したせいで危うくイクくんに抱きついてしまうところだった。なんとかイスに重心をかけたものの、イクくんの手に頭がぶつかった。
「うわっ!おい、俺様のお守り落としてんじゃねーぞ。」
「ごめっ…。」
俺様キャラでもお守りなんかに頼るんだなぁ、と思いつつイスの下に顔を入れる。
「あれ?お守りなんかないよ。」
「はあ?ねぇわけねぇだろーが。」
「だって何も…おもちゃのピストルならあるけど。」
「それだ、お守り。さっさと拾ってくれ。」
何でこんなオモチャ…。
「ハイどうぞ。」
「あぁ御苦労さん。んァ?おいリウ、弾が入ってねーぞ!」
弾?弾?エアガンのアレみたいなやつ?ダメだ、おかしなことは考えちゃいけない。こう見えても彼らは中高生…。
「だからお守りだって言ったじゃない。そんな撃つ気満々でいっちゃだめだよ。」
「弾が入ってねー拳銃に何の意味があんだ!せっかくボディは最新型なのによ。」
「けけけ、拳銃?」
「せんぱーい、電波回復しました~。」
キーボードを叩く音が規則的に車内に響く。
「準備いいですか?」
「うん、いいよ。」
「完了だ。」
「ふははっどんと来やがれ!」
「…どーぞ。」
僕はもう逃げ出す気力さえ失っていた。逃げられない。逃げてもどうにもならない。
それよりも興味が湧いてきてしまった。汚い大人だと言われてもいい。何もないはずの真っ暗な空間の中で、何かが淡く光り出した気がしたのだ。
「それじゃ。」
…?全員の呼吸が一瞬止まったー…!?
「ここより2080m先、白沖海岸近くの第18倉庫に、大勢の若者が月に1度集まって何かをしているとの通報が1か月前に有り。具体的に何をしているかについては情報はないですが、恐らく麻薬の売買と思われます。」
「根拠は?」
「倉庫内から度々狂ったような声や、唾液を垂らしながら暴れている男もいたというので。海岸に近いため外国船からの輸入がしやすいですし。謎の船も何度か目撃されています。」
「船が目撃されているのに捕まらないってことは、政府絡みか。」
「いえ、今回は漁獲を行いながら密輸もしているという線が一番濃さそうです。」
「その定期売買の日が今日ってこと?唾液を垂らして暴れるってことは、相当依存性が高いね。何カ月前から?」
「目撃は5カ月前からです。今まで通報しなかったのは報復を恐れてのことだそうで。」
「はぁ…早めに言ってくれりゃぁ俺様達の仕事も減るっつーのに。」
「人数は大体30人程度らしいですが、月によって人数が違うらしいのでわかりません。さっき写真を解剖したのですが、年齢層は若くて17歳、上では28歳だと思われます。とりあえず黒いコートを羽織った男がボスらしいです。写真はありませんでしたが。」
「黒いコートねぇ…倉庫と周辺の環境は?」
「人通りはほとんど無いようです。まぁ野次馬もいるそうですが。倉庫の大きさは白沖海岸の倉庫群の中では大きな1番巨大で、えっとそうですね、教室7,5個分くらいの大きさです。入り口が海岸側に1つ、通常の出入り口が逆方向に2つ、2階も少しだけスペースがあるので海岸側の角に梯子が1つあります。近くに爆発する危険性のあるものはなし、ただし管制室が奥にあるのでそこでは暴れないようにしてくださいね。」
「管制室では何ができるんだ?」
「大扉の開閉や、照明の明るさを調節したですかね。それを利用して一般人を入れないようにしていたようです。」
「犯人が所持していると思われる凶器は?」
「さすがに拳銃を撃ったら音が大きいですから気付かれると思うんですけど、それらの情報は全くないですね。倉庫近くの木の幹が、何かで傷つけられた後が無数にあるというので、刃物類などは所持していると思います。」
「ん?どれどれ…。あぁ、そりゃ間違いなくサバイバルナイフだ。気をつけた方がいいな、結構大型だぜ。」
「以上が現在の情報です。」
目が回った。なんだ、今何が起こっていた?呼吸することも許されない、高密度の中で何かが、何かが、起きている。
「残り2分43秒で到着します。もうすでに集会は行われている時間ですね。」
どうしてそんな情報がわかるんだ?マコトくんのパソコンに映し出されているのは何枚かの写真と、真っ黒な背景に白い文字が羅列されている画面だけなのだ。
「レイ先輩、指揮を。」
サイドミラーが妖しく光る。レイくんが笑ったのがわかった。
右手が僕の意識とは関係なく震えている。誰にも気づかれたくないので右手に左手を重ねたが、左手も震えているので意味がない。他の人たちはそんなことも気付かず、レイくんの言葉をただ待っている。
「…夕焼けだ。今日は月がきれいに見える。」
「えっ?」
この緊張感に不似合いな文章が聞こえ、思わず僕が声を出してしまった。
レイくんは髪を指で乱す。その時また全員の息が消えた。
「前々回と同じ作戦で行く。担当を同じように分けるぞ。ヒカルは裏口をこじ開けて管制室へ行け。入るタイミングはヒカルに任せる。」
「あぁ。」
「イクとリウは正面突破だ。もちろん下調べはしてから行け。」
「はい。」
「おう!」
「マコトは倉庫の周りを巡回して、ネズミ1匹逃がさないようにしろ。わかった情報は全てマイクを通して伝えるように。」
「了解です。あれ、先輩は?」
「あぁ、忘れてた。イクとリウと共に行動する。」
「ふふっ、レイがいたら俺らの出番ないかもね。」
「んなことねーだろ!ぱーっと暴れるぜっ!!」
「暴れるのは構わないけど、銃を暴発しないでよ?」
「あと、ユリさんは倉庫周辺、及び近くの道路を車で巡回して目撃者を最小限に抑えて。」
「任しときなさい!」
「それと、」
着々と準備が整っていく。くそぅ、あと何分だ?もしかしたら車からみんなが降りる際に、全力で走れば逃げられるかもしれない。でも白沖海岸?聞いたことがない。帰れるかな…。
「最後部座席のオッサンは、マコトと一緒に行動しろ。」
とりあえず駅に行けばなんとかなるか。でもあれ、財布どこだ。しまったバッグが!
「オッサン?」
くそぉ、どうすれば…。ってえ?
「オッサンって僕に言ってる?もしかして。」
「アンタ意外にオッサンと呼ばれる人間は乗車してないだろ。」
「そういう問題じゃなくて、何で僕も行くんだよ。」
事務員だからと言われても僕は動くつもりがなかった。そもそもまだ仮入社だ!多分。
「『青少年非行防止委員会』の“青年”が誰を指すか気にならないの?」
「え、あぁあの質問か。」
すっかり忘れていた。
「その狂暴な麻薬中毒者達だろう。そんなの見に行っても危な…。」
「人は危険を冒してから、初めて“答え”を見つけることができるんだ。」
助手席からシートベルトを外す音がした。
「全員イヤホンとマイクを付けろ。汚いオッサンに自分達の“答え”を見せに行くぞ。」
「了解!!」
どうやら僕には行くしか道は残されていないようだ。
見てくださってありがとうございます。
アクセス数はかなりあるのに、
感想などが無いのが残念です…。
要望などがあったら取り入れたいので
どうぞよろしくお願いします★