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mittion1-1 境界線の手前からの景色

またお会いできて嬉しいです。

今回もよろしくお願いいたします。

 

 世の中そう上手くはいかない。


 僕はずっとそう思いながら20年以上(正確に言うと23年間)を生きてきた。

 僕は学校のクラスで言うとよく「あれ?いたの?」と言われるキャラである。もっとわかりやすくいうと、大きなくしゃみをした時だけやたら注目され、照れたりしたらからかわれるので、教科書を読んでいるフリを瞬時にするというキャラだ。あれ?わかりづらいかな。それならえーと…。ごめんなさいなんでもないです。

 小学校、中学校、高校、大学と中の下くらいの学歴で歩んできた僕だが、とうとう社会に羽ばたく時がやってきた。いつでも慎重に、細心の注意を払いながら細々と生きてきた僕。それでもやっと社会に貢献できる日がきたのだ!!…とまでは思っていないが、小学校の入学式並の興奮と気恥ずかしさを覚えていた。初めなら誰だってそうなのかもしれないが、僕は今回誰よりも舞い上がる権利がある。なぜなら、今回の職業は誰でもなれるものではない。僕は人生で初めての「特別」に抜擢されたのだ!!

 自分でもどうしてなのかわからない。突然大学の先輩からこの職業を紹介された。その先輩はどうしてこんな普通の大学に来たのだろうと思うくらい頭が良く、卒業前に数々の賞(なんか方程式がいっぱいの論文で)を受賞しており、先生、生徒ともに信頼される、いわゆるモテモテ君だった。そんな僕とは対極の人がなぜ職業を紹介してくれたのかは少し疑問に思うが、そんなこといったらその人と親しい仲にあることさえ疑問だ。

 世の中そう上手くはいかない。でも、それは僕の考えすぎだったのかもしれない。人はこうも言う。渡る世間に鬼はなし。

 これからの僕は違う。堂々と胸を張って、かっこいい大人になろう。

 これが大人への第一歩だ!!


 

とか言いながら前祝いでお酒をたっぷり飲んだ次の日。(もちろん一人で)

今日がその初出勤の日だ。

 先輩から貰った職場先への地図とにらめっこしながら、東京の端っこを歩き進める。


僕の就職先。「青少年非行防止委員会」

とても単純な響きだが、立派な公務員、しかも警察関連の仕事である。とは言っても仕事内容は至って簡単で事務的な作業のみ。武道に長けていない僕でも簡単になれるはずである。「青少年非行防止委員会」(では長いのでこれから“子どもの会”と呼ぶことにする)とは何かというと、その名の通りやり過ぎた子供たちのおふざけを規制するためにある組織だ。基本的に各地域の派出所などで行っている内容だが、もっと過度になった場合のみ子ども会で処分する。ということで、この委員会は警察庁の中でかなり小さな組織だ。つまり!人員がほとんど割かれていない=上司がほとんどいない!ということになる。おまけに給料は研修期間ゼロでいきなり高額、待遇も寝泊まりOK,朝昼夜ご飯すべて食堂でタダ、おまけに可愛い子もたくさんいるという最高の条件だ。その代わりこんな好条件で職員が仕事をしているとなると問題になるため、世間には一切知られてはいけない極秘組織として活動している。同じような名前の組織はいくらでもあるが、本格的なものはここだけらしい。もちろん、子ども会の存在を誰かに話した時点でクビだ。先輩の話では他言した職員は次の日から行方不明になったとか…。


 アレ?もしかして危険か、この仕事。 

 いやいやいやいや、ないないない。それに僕は気にしてなんかいないぞ。警察庁なのに歩いていたらこんな薄気味悪い建物ばかりの所に迷い込んでいるなんて。

こんな所にあるはずない。うん、何かの間違いだ。

 それでも止まるわけにはいかないので僕はさらに足を速める。そろそろ左手首を気にしなくてはならない時間だ。かと言って右手に握る地図を信じないわけにもいかない。一刻も早くたどり着かなくては。

 勘違いだといいのだがさっきから同じ所を何度も通っている気がする。まぁ、どこも同じような景色だからしょうがないか。古いはずなのに崩れる気配もなく高くそびえるマンションの瓦礫や、何十年も前に廃墟になったであろう平屋などが笑えてくるほどたくさんある。時間が早いのでいいが、夜なんかとても歩ける場所じゃない。

「ん?行き止まり…かな。」

目の前に高い塀で囲まれた何かの建物が見えた。時計台しか見えないが、校門らしきものが見えるので多分廃校だろう。

「なんで学校なのにこんなに高い塀があるんだ?」

 そろそろ一人で歩き続けるのが怖くなってきた僕はわざと独り言を言ってみた。

 ちょうどいいので近くにあった電信柱で住所を確認する。

「えぇっと…。?ん?デジャヴ?」

 その住所はどこかで見たことのあるものだった。確かに、間違いなくどこかで…。

「あっ!!!!」

 僕は地図の上に目を滑らせ、電信柱に書かれている数字と全く同じ数字を発見した。どうやらにらめっこは僕に軍配が上がったらしい。

「やった!!着いた!!さて、この辺に…。」

 その辺りには廃校しか無いことを確認して、僕が落胆することを3秒前までの僕は知る由もない。




「もしもーし。」

 とりあえず目の前にある校門の取っ手をガチャガチャ鳴らしてみる。

一瞬猛ダッシュでお家に帰ろうとしたが、よく考えれば僕に後戻りするなどという選択肢は残されていない。先輩から仕事の紹介があったのは卒業する大分前だったため、就職活動を一切していないのだ。この仕事から逃げれば僕は多分一生働けないだろう。それに尊敬する大先輩からの紹介を断るわけにもいかない。

校門は蹴りとばしたらすぐに壊れてしまいそうな代物だったが、僕は黙って待った。待つと言っても誰も出て来なければいいなと思っていたのだが。しかし少し違和感を覚える。門はすごく老朽化が進んでいるのに、塀は所々新しく塗装し直しているような部分があるのだ。おまけにさっきから誰かに見られているような感覚がおさまらない。

最悪だ、自意識過剰なだけだ、僕みたいな人間がそんなこと考えちゃいけない。

風が冷たい。風が冷たい。風が冷たい。

でも一体どれ位待てばいいんだ?


「すいません!!開けてください。山川太一です!」

 なんとなく自分の名前を強調して叫んでみた。

 …風が…。

「はい、山川さんですね。こんにちは。」

「うわぁっ!!」

 目の前に女の人が立っている。というか出現した。

「えっあの…。」

「お待ちしていました。すいませんね、もしかしてずっと前からいました?」

 風に彼女の無造作に一つに結んだ髪がなびく。

それにしてもどういうことだ!?瞬間移動じゃあるまいし…。

「一応、確認しますが…「青少年非行防止委員会」の方でしょうか?」

 彼女は表情を緩めながら少し小さな声で

「はい。私、青少年非行防止委員会の事務員を務めている、ユリコと言います。

 これからはあなたのお姉さんになりますのでよろしくお願いしますね。」

 と言った。

 お姉さん?上司という言い方を緩和したものだろうか。彼女はお姉さんというには僕とは年齢が10歳以上も離れることになりそうな容姿である。とても真面目そうな雰囲気だが自己紹介はユリコとしか言わないし…。それでも、どんなに怪しくてもやるしかない。

「よろしくお願いします!!」

「あら、元気がいいわね。それじゃ中に入りましょうか。」

 門の中に入るとお決まりのように門が勝手に閉まった。まだ会社の出勤時刻くらいの時間なため“お化け”などという、その、、、幼稚な発想に至らなくて済んだ。

「ひゃっ!」

 緑のツルに足を引っ掛けて転びそうにる。それもそのはず校庭であっただろう場所は緑が生い茂り、奥の方には池までできてしまっているのだ。だが生物のいる気配は皆無と言っていいほどしない。

「気をつけてくださいね、危険ですから。」

 ユリコさん(と呼んでいいのだろうか)は危険だと言いながらも下を気にせず淡々と歩いていく。

「慣れてらっしゃるんですね。」

「毎日ここを歩いていますから。山川さんもすぐに慣れますよ。というか慣れてもらわなきゃ困ります。」

「はぁ、そうですか…。」

 僕は何か一番聞かなければならないことを忘れている気がする。一番重要で、一番疑問に思ったこと…。頭が混乱して上手く働かない。

「あっそうだ!」

 ユリコさんが僕の大きい声に反応して顔を引きつらせる。独り言を大声で言ってしまう癖は直した方がいいらしい。

「すいません、本当に本部ってここなんでしょうか?」

 ユリコさんは少し僕の表情を窺ってから、クスリと笑った。

「はい間違いないですよ。本部…というか、まぁその…。行けばわかります。」

 僕の一番嫌いなワードを口にされてドキリと心臓が鳴った。「行けばわかる」とか「後のお楽しみ」などと言われるのは恐ろしくてしょうがない。もちろん良い意味でのサプライズということもあるのだろうが、目にするまで何かわからないというのは恐怖に値する。それにこの場合、一つも良い予感がしない。絶対に何かあるだろ!!

「ふふっそんなに身体を強張らせないで下さい。メンバーに笑われますよ。」

 そこで歯をキツく食いしばっていたのに気付いた。人間の本能というやつだ。ならここは男らしく(昨日と同じようなノリで)宣言しておこう。

「大丈夫ですよ!!大したことでない限り驚きませんから。」

 ユリコさんはやっとたどり着いた、学校の玄関らしき扉に手をかける。

「驚く?驚くならまだいい方ですよ。逃げ出さないで下さいね。」



 玄関らしき所に入るとそこは薄汚い下駄箱がずらりと並んでいた。

 …と思ったのに真新しい銀色のロッカーが並んでいる。

「えっこれは…。」

 校舎を見渡すとどこも会社のビルのような内装になっているのだ。廊下は薄黄色のカーペットで、壁はスカイブルー。天井なんて必要以上に高いし、あんなに汚いと思っていた窓も、なぜか中からはちゃんと外が見える。その窓も壁の色々な所に色々な形であり、オシャレな高級マンションの一室という表現が一番ぴったりかもしれない。

「どうして中はこんなに新しいのに、外は綺麗にしないんです?」

「どうしてだと思いますか?」

 質問返しをさせるのは慣れていないので戸惑ってしまう。

「ここは青少年非行防止委員会ですよ。周りから目立っては困るんです。」

 僕は先輩から言われた言葉を思い出す。

「あぁ、この委員会の存在が周りにバレたらいけないんでしたっけ。」

「その通りです。だからあなたに校門で大声を出された時はもう本当に…。」

 ユリコさんは口をつぐむと僕の方を向かずスタスタと歩き出した。

「他に何か質問は?もう担当の部屋まで行きますよ。」

 質問?そんなもの山のようにある僕は慌てて口を開く。

「それじゃっ、あの、さっきからまるで人のいる気配がしないのですが。静かですし。」

 こんなにたくさんの教室(部屋?)があるのに物音一つ聞こえてこない。

「ここにある壁は特殊加工されています。中からの音は外に全く聞こえませんが外からの音は中にいる人に聞こえるようになっているんです。」

 自分たちの話し声は聞かれているのに自分は聞けないなんて少し嫌悪感を覚えたがそれなら納得できる。薄汚れていたはずの窓もわざと外から見えないための工夫なのだろう。

「すごいですね、そんなものが日本では開発されていたんですか。」

「日本?開発したのは私たち…というか委員会のメンバーですよ。」

「そうなんですか!すごい人たちなんですね。」

 ユリコさんは僕の言葉を聞いて満足気に頷いた。

「えぇ。すごいですよ彼らは。すごいどころじゃないです。」

 僕がすごいという表現しか使えていないのをユリコさんは面白がっているようだった。

「もうすぐ着きますよ。」

「ちょっちょっと待ってください。」

 僕は螺旋状になっている階段(なぜ中央階段が螺旋階段になっているかをつっこむのはもうやめた)の手前で無理やり止まった。

「聞きたいことは山ほどあるんです、お願いですからゆっくり話させてくださいっ!」

 自分の息が少し弾んでいるのに気がつく。ユリコさんは見かけ以上に歩くのが速いのだ。

「質問があるのならどうぞと言ったはずですが。」

 時間がないのか明らかに口調が冷たくなっている。

「それなら今させてもらいます。まず、さっきから気になっていたんですが、クラスの表札の所に“15班”とか”14班”って書いてあるじゃないですか。班って何ですか?」

「班は委員会で調査、または処分・処理する際のグループです。一班5~8人で構成されています。その他に私たちのような事務員2,3人いますが。ちなみに全部で15班あり、数字が上になるほどエキスパートということになります。」

「つまり、1班が一番すごいと?」

 また「すごい」と言ってしまったので顔が赤くなる。

「そうです。1班だけは格が違います。」

 1班のメンバーを想像する。非行少年を束ねるエキスパート…。ダメだ、マッチョの男しか出て来ない。

「それじゃ、僕はどの班に行くんです?」

 少し空白(マッチョを想像している間)が空いてしまったため、ユリコさんは階段を上り始めてしまった。

「1班です。」

「へ?」

 我ながら間抜けな声を出してしまった。

「あなたには1班、通称“エリート班”の事務員を私と共にやっていただきます。」

「エリート班?」

 マッチョを想像していたが、プラスで眼鏡も必要らしい。

「平気ですよ、みんな優しくて明るいですから。イカつい男集団でもないですし。」

 僕の思考は完全に読まれているようである。

「そんな所に配属なんて…僕には…その、無理じゃないでしょうか。」

「私もそう思いますよ。」

 あまりにもキッパリと言われてしまった僕は少したじろぐ。

「でも無理か無理じゃないかを決めるのはあなたの意志ではありません。後であなたの身体カラダに決めていただきますから。」

 螺旋階段で目が回っていた僕はユリコさんの最後の言葉がよく聞き取れなかった。

「着きましたよ。最上階“エリート班”専用の場所です。」

 多分7階であろうその階は、先ほどまでと空気が違うのに僕でも気付いた。

「こんな広いのにたった1班で使っているんですか。」

「他の部屋も別の用途で使われていますが…基本そうですね。」

 先をずっと急いでいたはずのユリコさんは今度は部屋に入るべきか思案している様子だった。

「いいですか、山川さん。」

 初めに会った時と全く違う、凛々しい女性の目が僕に向けられた。その様子を見て彼女は先生が生徒に話す口調のようにゆっくり、はっきりと言った。

「逃げないで下さい。」

「…。」

僕は顔を上げて自らクラスの扉の前に立つ。僕にだってわかっていた。おかしすぎる。こんな非公式な仕事が存在するはずない。扉を開けたその世界が危険だってことわかっている。入った瞬間殺されるかもしれない。何か危険な依頼を僕自身がやらなくてはいけないかもしれない。それでも僕は自分の手が扉を叩くのを止められなかった。

「失礼します!」

 扉を勢いよく開けてから一瞬目つぶって呼吸をする。

「これから事務官を務めます、山川太一です!よろしくお願いしま…。」

 

 僕はその続きを言うことができなかった。

 だってそうだろう?

 1班の人が顔を上げて初めて気付く。

 そこにいるのは全員「子ども」だったのだ。




イイところで区切ってしまいました;

やっとあらすじの内容ぐらいの本文に

なりましたかね…。

お目汚し失礼いたしました。

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