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第07話 修行の地

私とリーネは、推薦のために領地を離れ、1年間修行に出ることになった。メイをはじめ、これまでお世話になった人たちに挨拶に回る。


メイは私たちの手をぎゅっと握り、「私も二人に負けないように頑張るから!お互いに成長しようね」と笑顔で励ましてくれた。

それに対して、私は「次は王立学園で同級生として会おうね」と返し、三人で強く抱き合った。


「リリアもリーネも、気をつけてね。無理はしないように」と母が優しく抱きしめてくれる。


「二人なら大丈夫だ。しっかり修行を積んで来なさい」と、父も頼もしく声をかけ、私たちをしっかりと抱きしめた。


(よし、準備は万端だ!)


リーネも頷いてくれた。互いに覚悟を確認して、私たちは指輪に魔力を込めた。すると、指輪がゆっくりと青から赤へと変化していく。


しばらくすると、私たちの近くに魔法陣がふわりと浮かび上がり、きらめく魔力が辺りに漂い始めた。そして次第に周囲の空間が揺れ動き、魔法陣の中央から一人の若い青年が現れた。


(これって…転移魔法陣?こんなにも緻密で複雑な魔法陣は本でもみたことがないぞ…!すごい)


「やあ、少し待たせてしまったかな?」

青年は親しみやすく笑いながら言った。


(なんだか、凄く爽やかなイケメンだなこの人...!)


その青年は金髪に透き通る青い瞳に整った顔立ちをしている。そして優しそうな顔に似合わない程の逞しい肉体に、数々の指輪や腕輪の装飾品をしており、なんとも不思議な存在感を放っている。


「今から目的地へ転移するから、二人とも魔法陣に乗って。さ、早く!」


「はい!」


私達は思わず息を飲んで、その緻密な魔法陣に足を踏み入れた。図形の一つ一つが輝きを帯び、複数の魔法陣が立体的に重なっている


(すごい…魔法陣ってこんなにも立体的に重ねられるんだ…)


しかし、その驚嘆もつかの間。青年が魔法陣に手をかざし、魔力を注ぎ込むと、魔法陣全体がまばゆいばかりの光に包まれていく。その眩しさに、私は思わず目を閉じた。


「じゃあ、行くよ…転移!」


その瞬間、空間全体がゆっくりと歪んでいくのがわかった。身体がふわりと宙に浮くような感覚に包まれ、目を閉じていても、鮮やかな光の渦が頭の中で広がっていく。私たちの周囲が光に満ち、いつの間にか私の視界と意識が遠のいていった。




ふと重力の変化を感じた瞬間、足が固い地面に触れる。「こつん」と響く音とともに、意識が戻り始める。


視界が開けた先には、見たこともない広大な訓練場が広がっていた。清冽な空気が張り詰め、ここが私たちの試練の場であることを無言で告げている。


「ようこそ、修行の地【聖王軍学院】へ」


先ほどの青年が少し誇らしげに微笑んでいた。


(ここが、かの有名な聖王軍学院...!って、私たちが1年間鍛え抜く場所ってここなの!?)


キョロキョロと辺りを見回す私たちを見て、青年が口を開く。


「そういえば自己紹介がまだだったね。僕はアーサー、聖王軍学院の2年生だ」


(聖王軍学院の生徒ってことは、このアーサーさんは世界屈指の精鋭ってこと!?)


「ご紹介ありがとうございます。私はリリア・ローゼンフェルト、こちらは妹のリーネと申します」


私たちは軽く膝を曲げて礼をする。


「丁寧だね。君たち、本当に6歳なの?すごく落ち着いて見える」


「そうですか?」

(ま、私は中身30歳超えのおっさんだからな)


「さて、師匠…いや、院長が待ってるから案内するね」


私たちはアーサーの後を追って、広い通路を歩く。いくつかの部屋を通り抜け、大きな扉の前にたどり着いた。


「失礼します、院長」アーサーがノックして扉を開ける。


中には、筋骨隆々の年配の男性ーー忙しそうに書類に目を通しているブラックヴァン院長が座っていた。


「よく来たな、待っておったぞ」

彼が私たちに促し、椅子に座るように指示する。


「さて、早速だが、二人をここに呼んだ理由から話そう」


(え?推薦入学の適性を見極めるためじゃないの?他に何かあるのか…)


「お主たちも聞いたことがあるだろうが、魔物が年々強力になっている話は知っておるな?」


「はい。ローゼンフェルト領でも魔物が増加し、国の支援も追いつかない状況です」


「そうか。実はこれはローゼンフェルト領だけではなく、大陸全体で同じ現象が起きておる。守りの薄い領土は、いくつか陥落したという情報もある。」


「えっ!」その知らせに思わず息を呑む。


「このままではアストリア国全体が危険に晒され、お主たちの故郷もいずれ魔物に飲み込まれるだろう」


「それは絶対に嫌!」リーネが私の手をギュッと握り締める。


「そして…魔王が既に復活している可能性がある」


「ま、魔王…」


魔王のことは家の書物で学んだ。100年周期で復活し、魔物の軍勢を率いて人類を脅かす存在。最後に魔王が倒されたのは100年前、勇者と多くの犠牲の末だった。


「あと3年…」院長は険しい表情で、ゆっくりと髭を撫でた。


「最悪の場合、3年後に魔王が攻めてくる。だからその時までに、お主たちにその災厄に立ち向かう力をつけてもらいたいのじゃ」


「つまり、そのために私たちを鍛えてくださるのですね」


「うむ。強くなれるかどうかはお主たち次第だが、わしの修行は幼いお主たちには少し厳しいかもしれんぞ。覚悟はできておるか?」


「はい!」私たちは真剣な顔で頷いた。


「では、まずは問おう。お主たちには、なぜ強くなりたいのか、その理由があるのか?」


強くなりたい理由…?考えたこともなかった。魔法が面白いから、なんとなく剣術もしているだけで、明確な理由なんて…。


「強いて言うなら、生まれ育った領やそこに住む人たちを守るためですかね。私たちはローゼンフェルト家の娘ですし…」


私の答えを聞いた院長は、少し厳しい表情になった。


「ふむ、やはり少し動機が弱いのう。それでは、この修行を乗り越えるには足りぬな」


院長はしばし考え込み、「よし、まずは動機を見つけるための試練だ」と顔を上げた。


「森で一晩生き抜いてみよ。そこで、お主たちにとって本当に強くなりたい理由を見つけるがよい」


そう言うと、院長は指輪に魔力を込めた。すると、私たちの前の空間がゆらぎ始める。


「期限は明朝まで。無事に生き延びて戻って来るのだ」


(えっ!?今すぐ!?)


突然のことに驚く暇もなく、私たちはふわりと浮遊感に包まれる。


「それと…森には小動物も出るでのう。せいぜい気をつけるのじゃぞ…」


最後の言葉が遠く聞こえると同時に、私たちの視界は再び暗転し、森へと転移した。

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