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第19話 重魔の腕輪

幻影戦闘場での3ヶ月間の訓練が終わり、ここにきて1年が経過した。

ついに聖王軍学院を去る日がやってきた。


「すごく濃密な1年だったね、リーネ」


思い返してみると、死と隣り合わせの日々だった。いまだに、どうして生きているのか不思議に思うくらいだ。


(よくがんばった、私たち! 生きててえらい!)


私達は長い時間を共に過ごした訓練場を見つめながら少し感慨に耽っていた。



「いつか、また戻ってくる」


「そうだね! 今よりもっと強くなって、次は正規生として!」


胸の奥で希望が湧き上がる。私たちはさらなる目標を胸に刻み、前へと歩き出した。





学院を出る前に、院長室へ呼ばれていることを告げられた。私たちは互いにうなずき、向かう。


「「失礼します!」」


ノックをして中へ入ると、そこには筋骨隆々とした老人、ブラックヴァン院長が待っていた。彼の姿は椅子に腰かけているだけなのに、まるで巨岩に押しつぶされるような圧迫感を放っている。


「リリア、リーネ。久しいのう」


低く響く声とともに、院長の鋭い視線が私たちを貫いた。その瞬間、心の奥底まで見透かされたような感覚が走る。


(この人...本当にただ者じゃない)


「ほほう。」


院長は長い白髭を触りながら、私たちを値踏みするようにじっと見つめてきた。


「この1年間で魔力と密度が倍以上に成長しておる。顔つきも見違えるほどよくなったのう」


短い言葉だが、重みが違う。一目でそれほど見抜くとは。


「ありがとうございます」


そう答えると、院長は小さく頷き、机の上に書状を置いた。


「これは...?」


「アストリア学園への推薦状じゃ」


一瞬、耳を疑った。


「学園長にも話は通してある。この推薦状があれば、3年前倒しで入学が可能じゃ」


私たちは互いの顔を見合わせ、声をあげた。


「「やった!」」


(これでメイと一緒に入学できるかもしれない!)


思わずリーネの手を取り合い、その場で飛び跳ねてしまった。


ブラックヴァン院長はわずかに目を細め、表情には出さないものの、どこか満足したように見えた。



「その推薦状に恥じぬよう、引き続き鍛錬を怠るでないぞ」


「はい!」



「さて」と、院長は話題を変える


「お主たち、毎日魔石ジュースを飲んでいるそうじゃな?」


(例の地獄の苦しみを伴う飲み物のことだよね?)


「はい、欠かさず飲んでいます」


「ほほう。最近の者はあれを飲む根性がなくてな、皆敬遠しよるが…お主たちは見込みがある」


(そりゃあの苦しみを知ったら普通は飲みたくないよね。なんで毎日飲み続けられるんだろう、自分…)


院長は満足げに頷くと、空中に手を差し入れた。そして異空間から物を取り出すような仕草で、ピンク色の腕輪が2つと一枚の紙を手にした。


「これは、お主たちへの褒美じゃ」


差し出された腕輪と紙を受け取ると、紙にはあの魔石ジュースの製法が丁寧に書かれていた。


「魔石ジュースの製法じゃ。これを広めるのは自由じゃぞ。強者を育てるにはこれが欠かせぬ」


(広めるって言われても、あの味を広めたら恨まれるだけな気がするんだが…)


「そしてこれが訓練用の特殊アイテム、『重魔の腕輪』じゃ」


院長が腕輪を指差すと、目の奥がきらりと光るような気がした。


「重魔の腕輪…?」


「説明するより、実際に身につけてみるとよい」


促されるままに腕輪を腕にはめる。瞬間、体全体が地面に吸い寄せられるような感覚に襲われ、私とリーネは同時に膝をついた。


「うっ…!?」


(な、なんだこれ!?体が鉛みたいに重い!)


全身に力を込め、なんとか立ち上がる。だが普段の動きの半分のスピードが限界だ。さらに、魔力がじわじわと吸い取られていく感覚がある。


「この腕輪には2つの効果がある。『重力2倍』『魔力阻害』じゃ」


「重力2倍…それに魔力阻害…?」


私は試しに「アイスアロー」を生成しようとしたが、魔力がうまく制御できず、霧散してしまった。


(これ、ただつけてるだけでトレーニングになるどころか、何もできなくなりそうなんだが…)


「お主たちはこの腕輪を常に身につけるがよい」


「常に、ですか…?」


「そうじゃ。これを身につけ、日々を過ごすことで、基礎能力が飛躍的に高まる」


私とリーネは顔を見合わせ、次に目を院長へ向けた。


「ちなみに、アーサーは去年からこれを2つ身につけておる」


「ええっ!?」


(2つって…重力3倍、魔法もさらに阻害されて…そんな状態で戦えるの!?)


「驚くことではない。現にわしは両腕に10個つけておる」


そう言うと、院長は腕をまくり、片腕に5つずつ嵌められた腕輪を見せつけた。筋骨隆々の腕に食い込むような腕輪から、異様な圧を感じる。


(10個って、重力11倍!?この人…もはや人間じゃない…)


「お主たちがこれをつけたまま努力を続ければ、数年後には誰にも負けぬ力を手に入れることができるじゃろう」


院長の言葉には、ただの励ましではない確信があった。その目は遠い未来を見据えているようでもあり、まるで何かを期待しているようにも見える。


「さあ、行け。そしてわしの目に狂いがなかったことを証明するのじゃ」


私達はその言葉を胸に刻み、腕輪で重くなった身体と共に学院を後にした。


(本当に地獄が待ってるかもしれないけど、これが成長のためなら…やってみせる!)



この時の私達はまだ気がついていなかった。

年齢に見合わない程の力を身につけてしまったことに...

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