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第18話 強すぎるゴブリン

私とルナさんはモニター室へ移動し、窓越しに中の様子を確認した。

訓練場ではリーネが剣を軽く振りながら、肩を回すような動きで準備運動をしている。

その姿にはいつも通りの自信が滲んでいるけれど、微妙に緊張した表情も見え隠れしていた。


「リーネちゃん、聞こえるかにゃ?」


ルナさんがマイクのような魔道具に話しかけると、中のリーネはピタッと動きを止め、こちらに小さく頷いた。


「最初はレベル1のモンスターから行くにゃ。もし危なそうだったら私が止めるから、安心して挑むにゃよ」


リーネは力強く頷き、剣を構える。その目には闘志が宿っている。


「それじゃ、スタートにゃ!」


ルナさんがボタンを押すと、訓練場の中央に描かれた魔法陣が青白い光を放ち始めた。光の粒子が空中を漂いながら徐々に形を成し、革の鎧を着たゴブリンが出現する。


リーネより少し大きな体躯、左手に木の盾、右手には錆びた剣。見た目は粗末な装備だが、その目はギラギラと黄色く光り、敵意をむき出しにしている。


(これが...ゴブリン?想像していた小柄な魔物とは全然違う。筋肉質で、この気迫。なんか強そうなんだけど...大丈夫だよね?)


私はモニター越しに緊張しているのを自覚しつつも、リーネの実力を信じることにした。


ゴブリンの牙がちらつく前に、先に動いたのはリーネだった。風を切るような素早い動きで距離を詰めると、一気に剣を振り下ろす。


「やっ!」


金属が木にぶつかる鈍い音。ゴブリンは盾を構えて攻撃を防いだが、衝撃で体勢を崩し、苦痛の表情を浮かべる。その動きがいかにも本物の生き物のようで、私は思わず息を呑んだ。


(これって、本当に幻影なんだよね?表情や仕草がリアルすぎる…!)


リーネの目が一瞬輝く。「いける!」と確信したのだろう。再び力強く剣を振りかぶる。


ゴブリンもすぐに反応し、盾を構え直す。しかし――


「パキィンッ!」


木の盾が真っ二つに裂けた。破片が宙を舞い、ゴブリンは片腕をぶらんと下げて後ずさる。


(なんてパワー...!一年前、私と稽古していたときより遥かに強くなってる!)



しかし、ゴブリンも負けていなかった。咆哮を上げながら錆びた剣を振るい、必死に反撃する。しかしリーネの動きはそれ以上だった。滑らかなステップで間合いを操り、最小限の動きで剣をかわす。


「これで終わり!」


リーネの剣がゴブリンの攻撃を弾き飛ばし、錆びた剣が床に転がる音が響く。


「ふんっ!」


一息に踏み込み、リーネの剣が真横に閃いた。ゴブリンの胴体を斬り裂いた瞬間、魔物は断末魔のような叫びを上げ、光の粒子となって消えた。



「やった!リーネ!」


私は思わずモニターの前で拍手していた。モニター越しでも伝わる妹の成長に、心の底から感動する。


「へへ、どうだった、お姉さま!」


リーネが飛び跳ねるように嬉しそうに振り返る。その姿は、強さの中に子供らしい純粋さを残していて、思わず笑顔になる。


「最高!かっこよかったよ!」


ルナさんも満足そうに頷き、「リーネちゃん、なかなかやるにゃ!」と褒めてくれた。



「さ、次はリリアちゃんの番にゃよ?」


「えっ、私!?」


突然の指名に目を見開く私。確かにリーネがあんなに活躍した後だと、私が何もせず終わるわけにはいかない。


(でも、これって結構ハードル高くない!?)


訓練場に足を踏み入れる前から、胸が高鳴るのを感じていた。




「リリアちゃん、準備はいいかにゃ?」


ルナさんの声が響く中、私は訓練場の中に一歩踏み出した。

外から見たときの広々とした印象とは違い、ひんやりとした空気と静寂が肌に染みる。

幻影戦闘場とはいえ、ここで待ち受ける敵はただの模擬戦ではない、そんな緊張感が場を支配していた。


「はい!大丈夫です!」


剣を軽く振って感触を確かめ、構えを正す。心の中では「できる」と自分に言い聞かせながら、ルナさんの合図を待つ。


「それじゃあスタートにゃ!」


魔法陣が青白く輝き出すと、先程リーネが倒したのと同じゴブリンが目の前に現れた。

だが間近で見ると、そのゴブリンはどっしりとした体格で、黄色い目には明らかな敵意が宿っている。


(やっぱり近くで見るとめっちゃ怖い...これがリーネが倒した相手?凄い迫力だ)


私は剣を握り直しながらゴブリンと向き合った。


(まずは魔法で攻めて様子を見よう)


「アイスアロー!」


氷の矢が疾風のようにゴブリンに向かって飛ぶ。しかし、ゴブリンは盾を構え、簡単にそれを弾き返した。


「嘘!?こんなに簡単に防がれるの!?」


焦りが胸を締め付ける。だが動揺している暇はない。ゴブリンは一瞬の隙を突き、低い姿勢でこちらに駆け寄ってきた。


(速い...!近づかれたら危険だ!)


私は距離を取るために全力で横に飛びながら、次の一手を考える。


「アイスアロー!」


今度は3本の矢を立て続けに放つ。ゴブリンは1本目をかわし、残りの2本を盾で受け止めたが、勢いを殺さず突撃を続けてきた。


「ちょ、効かないの!?盾やばすぎるでしょ!」


後退しながらも冷静を装おうとするが、心の中では焦りが募るばかりだ。


(氷が駄目なら火ならどうだ!?)


「ファイヤアロー!」


火の矢を4本生成し、同時に撃ち出す。ゴブリンは盾を一瞬構えたが、全て防御しきれないと判断したのか横へ回避。だがすべてをかわしきれず、盾を燃やし、右腕と右足に直撃した。


「やった!火は効く!」



(右足を負傷させたのは大きい!機動力は落ちたはず。このまま距離を取って攻撃を続ければ勝てる!)


私はそう考え、再び魔力を集中させた。だが、その瞬間、ゴブリンの目が光を帯び、牙を剥き出しにして咆哮を上げた。


「えっ、何!?」


負傷しているはずのゴブリンが、突然驚異的な速さでこちらに向かってきた。右足を引きずりながらも、まるで力技で補っているかのような動きだ。


「くっ、こっち来ないで!」


私は慌てて火の矢をもう一本放つ。しかし、ゴブリンは盾が焼失しているにもかかわらず、剣で矢を叩き落としながら突進してきた。


(距離が近い!まずい、魔法を発動する余裕がない!)


「くっ!」


私は咄嗟に剣を構えて受け止めるが、ゴブリンの力は予想以上に強く、衝撃で体が後方に弾かれる。


「きゃっ!」


床に背中を打ち付け、息が詰まる。それでもゴブリンは容赦なく迫ってきた。剣を振り下ろす音が耳を突き、私は咄嗟に転がって攻撃を避ける。


「こんなの反則じゃない!弱ってるはずなのに!」



地面を這うように後退しながら、私は次の策を考えた。


(近接は無理。だけど遠距離の魔法だけじゃ決定打が足りない...なら、防御と攻撃を組み合わせるしかない!)


私は立ち上がりながらゴブリンを睨みつけ、両手に魔力を集中させる。


「ファイヤウォール!」


ゴブリンとの間に火の壁を作り出し、一瞬の間を稼ぐ。ゴブリンは炎を前に一瞬足を止めるが、すぐに剣で炎を切り裂くように前進してくる。


(やっぱり突破してくる!でもそれでいい...こっちは準備万端なんだから!)


ゴブリンが火の壁を越えた瞬間、私はさらに魔法を放った。


「アイスアロー!」


氷の矢がゴブリンの左肩に命中し、その動きをわずかに鈍らせる。


「もう一発!ウォーターアロー!」


追撃の水の矢が右膝を直撃し、ゴブリンは片膝を地面につく。しかし、それでも剣を振りかざしながら私に迫ってくる姿はまさに執念そのものだった。


(これで終わりにする!最後は...!)


私は両手を大きく振りかぶり、全力で魔力を込めた矢を生成した。


「アースアロー!」


地面の石を凝縮させた一撃が放たれ、ゴブリンの剣を弾き飛ばし、その胸元を撃ち抜く。ゴブリンは短い呻き声をあげた後、光の粒子となって消え去った。


「はあ...はあ...」


私は肩で息をしながらその場に膝をつく。全身から力が抜け、足が震えるほどだった。


「リーネみたいに楽勝とはいかなかったけど...なんとか勝てた」


モニター室の方を見ると、リーネが嬉しそうにこちらに向かって手を振っている。


(ふふ、ちゃんとお姉ちゃんの威厳は守れたかな?)



私は肩で息をしながら、ふと口元に小さな笑みを浮かべた。

全身の疲労感はひどいものだったが、心の中はどこか充実感で満たされている。


(これが「実戦に勝る訓練はない」ってことなのかな)


初めて心からその言葉の意味を理解できた気がした。

これまで私たちは、基礎訓練や魔法の訓練を誰よりも真剣にこなしてきた。寝る間を惜しみ、失敗を繰り返しながら積み上げてきた努力には自信があった。


でも、さっきのゴブリンとの戦いで痛感した。

訓練と実戦は、似て非なるものだ。


(敵の動きは予測不能で、少しの油断が命取りになる。どの魔法を使うべきか、一瞬で判断しなきゃいけない…。こればっかりは、本を読んでも訓練場で魔法を撃っても身につかない。実戦の場数を踏むしかないんだ。)


目の前に広がる訓練場の光景を見渡しながら、私は拳をぎゅっと握った。


(それなら、ここにあるじゃないか。この「幻影戦闘場」こそ、今の私に必要な場所だ)


幻影で作られているとはいえ、モンスターたちの動きや攻撃は現実そのものだった。

今ならわかる。この場所は私にとって、実戦の感覚を掴むための最適な場所だと。


「よし!」


気がつくと、私は自然と声を出していた。

目の前にはいまだに浮かんでいる魔法陣の跡。それがまるで「まだ戦えるだろう」と問いかけているように見える。


「リーネもあんなに頑張ってるんだもん。私だって…!」


残された3か月間、どれだけ大変でもいい。この場所で一歩ずつ、実戦経験を積んでいこう。

リーネと一緒に強くなるために、そして自分自身がもっと前に進むために。


私は訓練場を見つめ、再び立ち上がった。




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