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第15話 特訓の成果

私たちはこの半年間、基礎訓練の裏でも魔法の特訓を欠かさず行っていた。

それは、あの逃避行の恐怖が今も心に焼き付いているからだ。森での絶望的な戦い。魔物たちに追われ、命からがら逃げ延びた記憶。それは、戦う力を持たなければ守れないものがあるという真実を教えてくれた。


特訓は至ってシンプルだ―― 『発動の速さ』『威力』『正確さ』を追求し、魔法を放ち続ける。それだけ。

だが、シンプルだからこそ実戦で最も役に立つ。魔力を無駄なく操る技術と、瞬時に動ける判断力が鍛えられる。


それに加えて、私たちは食堂に置かれていた“魔石ジュース”を欠かさず飲み続けた。あの燃えるような喉ごし、めまい、吐き気等の副作用には慣れなかったが、効果は絶大だ。3食毎日飲み続けた結果、この歳では異常ともいえる魔力量と魔力の濃度を手に入れた。

「他の訓練生たちと同じ魔力量だなんて、もうありえないな」と密かに自負している。





リーネがすべての的を撃ち抜き、周囲が驚きの声を上げる中、私はリーネとハイタッチをして交代した。


「次は私の番だね!」


的が再び復活し、砂時計に砂が満ちる。そして、再び砂が落ち始めた。


「よし、やるぞ!」


放つ魔法はD級魔法の氷の矢『アイスアロー』だ。

私は深呼吸をして心を静めると、両手に魔力を集中させる。


(まずは手前から一気に破壊する!)


氷の矢を"無詠唱で同時に2つ"生み出し、最初の的を正確に射抜く。矢が命中した瞬間、鋭い破裂音と共に氷片が弾け飛ぶ。そのまま次の的に照準を移し、寸分の狂いもなく撃ち抜いていく。


私の矢は、的が動き始めるよりも早く、的を次々と破壊していく。


「すごい…!」

「リーネさんより速いぞ!」


観客たちのざわめきが聞こえてくるが、私の集中は途切れない。


(まだいける…!)


手前の的をすべて片付けた私は、次に奥の的を狙う。今度は"無詠唱で3本同時"に矢を生み出し、動き回る的を次々に射抜いていく。


「な、なんだ今の…!?」

「3本同時に…!?」


マーリンとジャックの驚きの声が遠くから聞こえるが、私はただ手を止めることなく撃ち続けた。


「速すぎて目で追えないぞ…!」


的が半分以上壊れた段階で、私は矢の生成速度をさらに上げる。矢が放たれる音はマシンガンのように連続し、的は粉々になりながら破壊されていく。


砂時計はまだ半分以上残っている。


(よし、このペースなら…)


最後の的が訓練場の端で跳ね回る。私はそれを正確に追い、矢を3本同時に放った。矢は的に命中し、爆発音と共に的が消滅する。


「そ、そこまで!」


ヘンリー教官の声が場内に響く。同時に、砂時計を見るとまだ半分以上砂が残っていた。


「すごい…お姉さま、すごすぎる!」


リーネは自分のことのように喜び、飛び跳ねながら駆け寄ってきた。


「これが…本当に訓練生か…?」

マーリンとジャックは目を丸くし、言葉を失っている。


ヘンリー教官も腕を組みながら一言だけ呟いた。

「圧巻だ…」


私は軽く息を吐き、リーネと再びハイタッチを交わした。

(これで一つ、自分たちの努力が証明できた…)


次はどんな試練が来るだろうか。私たちはその先を見据え、さらに前へ進む。




「どうやらリリア君とリーネ君は次の段階に行くだけの実力があるようだ。次はこっちだ」


ヘンリー教官が手を振り、次の訓練メニューの場所へ案内してくれた。


私たちが付いて行くと、次なる目的地が目に入ってきた。そこはダンジョンのように入り継いだ道に、的が続々と配置されていた。


「ここが次なるSTEP4の訓練だ。ここからの訓練はより実践を意識したものになる」


ヘンリー教官はダンジョンのような入り口から通路へ向かって指を指し説明を続ける。


「これは全力で走りながらでも魔法を瞬発的かつ的確に放つ訓練だ。戦場で立ち止まって魔法なんて撃ってたら真っ先に殺されるからな」


これは森で身を代わって経験している。逃げながら魔法を放つ重要性と、その難しさを。


「ここの入口から通路を全力で駆けてもらう。すると的が続々に現れるので、それを出口まで全て破壊してもらう。なお、前回同様この砂時計が下に落ち切る前にな」


前回と同じような砂時計が各所に配置されており、どこからでも時間がわかるようになっている。


既に他の訓練生が今何人か挑んでいるようで、各所で砂時計が動いているのが確認できた。


(なんだか、FPSのゲームやダンジョンのタイムアタックみたいだな)


リーネを見てみると、先程の訓練の疲れが少し残っているのか、まだ呼吸が整っていないようだ。


(リーネにはもう少し休んでもらうためにも、私からやったほうが良さそうかな)


「次は私からやります」


私はスタート位置であるダンジョンのような入り口の前に立った。


「うむ。それでは砂時計が充填され、砂が落ち始めたらスタートだ」


「はい!」


砂時計を見つめる。音もなく砂が満ちていき、ついに再びその砂が落ち始めた。


「はじめ!」


ヘンリー教官の鋭い声が響いた瞬間、私は弾かれるように走り出した。


視界に入るのは前方上下左右に配置された4つの的。瞬時にそれらの位置を把握しながら、私は魔力を手に集中させる。走りながら狙いを定める時間は一瞬。魔力を流し込む感覚を研ぎ澄ませる。


走りながら魔法を使う訓練の難しさは、身を持って知っている。全力疾走すれば身体に意識が集中し、魔法が乱れる。魔法に集中しすぎると、今度は足がもつれる。

この二つのバランスを保つのが、どれだけ難しいことか。


(でも私は、森での死闘からこの訓練を欠かさず続けてきた!)


手元に集めた魔力を一気に放出し、氷のアイスアローを生成する。私の指先から飛び出した矢は、風を切る音を伴って的の一つに命中。鋭い破裂音が響き、的が粉々に砕け散る。


(よし!)


次の的も、さらに次の的も、距離を縮めながら一気に破壊する。氷の矢を二本同時に生成し、それぞれ別々の的へと飛ばす。的確に命中するたび、私は新たな自信を得た。


「なんと...あの速度で、あの精度で魔法を撃てるのか!」

遠くで見ている訓練生たちの驚きの声が耳に入る。


だが私は気を緩めない。目の前に現れる新たな通路へ突入し、大小さまざまな的が乱雑に配置されているのを目にする。壁、天井、床...


(ここまでは順調だけど...)


通路を駆け抜けながら氷の矢を次々と放つ。だが、的のサイズが次第に小さくなり、数も増えていく。狙うべき標的は、どれも瞬時の判断を求めるものばかりだ。


「はぁっ...少しきつくなってきたな...」

息が荒くなり、足が重くなる。全力疾走と魔法連発の代償が身体を蝕んでいく。


砂時計を見ると、残された時間もあとわずか。焦りが心を掴む。


そんなときーー


「お姉さま、頑張れ!」


リーネの声がはっきりと耳に届いた。


(リーネに応援されたら、やるしかないだろ!)


心の中で喝を入れ、私は限界を超える力を振り絞った。


「次が最後のコーナーだ!」

曲がり角を曲がった先に広がる光景に、思わず息を呑む。そこには大小無数の的が、あたかも生き物のように動き回っていた。


(え...これ全部破壊するの?間に合うのか...いや、やるしかない!)


足が鉛のように重い。身体中が悲鳴を上げている。だが、それでも私は立ち止まらない。全身の魔力を最後の一滴まで振り絞り、氷の矢を次々に生成しては放つ。


飛び交う矢、弾ける音。視界に映る的を破壊するたび、砂時計の砂が無情に落ちていく。


そして、最後の的に矢が命中した瞬間ーー


私は、ゴールラインの上で膝を突き、崩れ落ちた。


遠くから歓声が聞こえる。リーネの喜ぶ声も混じっているようだ。だが、もう何も考える余力はない。


(...やりきった、のか...?)


次第に意識が遠のき、私はそのまま静かに目を閉じた。

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