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第14話 魔法基礎

聖王軍学院に来てから半年が経過した。


私たちはレオナ教官の元で地獄のような基礎訓練を耐え抜き、ついに目標であった50kgの重りをつけた状態で腕立て、腹筋、背筋、スクワットを全て100回こなすことができた。


身体は以前よりも引き締まり、明らかに筋肉質になった。鏡に映る自分の姿に、少し驚きと誇らしさを覚える。


(…これが聖王軍学院生の見た目の秘密だったのかも。みんなやたらと逞しいのはこの基礎訓練のせいだったのか…!)


この半年間で、私たちはここ聖王軍学院の生徒たちについても知るようになった。彼らは基本的に15歳以上のエリート集団だ。しかし、ブラックヴァン院長の特別な計らいで、私たちのように才能が認められた15歳未満の子どもが短期特別訓練生として受け入れられることもあるという。


その後、多くの特別訓練生が自国の学校でさらに力を蓄え、再びこの学院に正規の生徒として戻ってくる。私たちもその道を目指しているのだ。


(ここには強くなる全てが揃っているから、正規生として入れれば間違いなく強くなれるからね)


「よし!やっと基礎訓練を乗り越えられたね!」


「うん!」


リーネと共に次の訓練場所へ向かう。目的地が近づくと、巨大な魔法障壁に包まれた施設が目に入った。まるで戦場そのもののような圧迫感がある。その名も“大魔法演習場”。これが次の訓練の舞台だ。


「「失礼します!」」


中に入り、教官らしき人物に声をかけると、静かに振り返ったのは長い金髪のエルフだった。光を反射するその髪は、まるで黄金そのもの。背筋が伸びた立ち居振る舞いには、どこか冷たい威厳すら漂う。


「ああ、君たちがリリア君とリーネ君だね。レオナ教官から話は聞いている。その若さで基礎訓練を半年で終わらせたとか」


声は落ち着いているが、その視線はまるでこちらのすべてを見透かしているかのようだった。


「ありがとうございます!」


「失礼、私はここで魔法基礎を教えているヘンリー・セントクレアだ。よろしく頼む」


ヘンリー教官は柔らかく微笑んだが、その目には冷静で計算高い光が宿っていた。若い見た目とは裏腹に、その立ち振る舞いからは膨大な経験と確かな実力が感じられる。


「よろしくお願いします!」


私たちがお辞儀をすると、ヘンリー教官は説明を始めた。その内容は、次の訓練がいかに過酷であるかを端的に示していた。

その内容は次のとおりだ。


---


1. STEP 1

 E級からD級魔法まで、全ての基礎魔法を順番に習得。魔法の精度と発動速度が一定基準に達するまで。


2. STEP 2

 習得した魔法を反復練習。魔法を累計1万回発動させ、精密さと安定性を叩き込む。


3. STEP 3

 動く的を魔法で撃ち抜く訓練。制限時間内に全てを正確に仕留めるまでクリアとならない。


4. STEP 4

 走りながら的を撃ち抜く訓練。複雑に入り組んだステージ内を駆け抜け、現れる的を全て撃ち抜く。


5. STEP 5

 飛んでくる魔法を相殺する訓練。魔法装置から放たれる攻撃魔法を瞬時に見極め、的確な魔法で相殺する。難易度は徐々に上がる、


---


「これらを全て達成してもらう。達成するまで、ここを出ることは許されない。わかるね?」


冷静にそう言い放つヘンリー教官の声には、有無を言わせぬ圧力が込められていた。


「はい…!」


返事をした瞬間、彼はじっと私たちを観察し始めた。その目は鋭く、まるで内面まで見抜かれるような気がする。


「なるほど…君たちの魔力総量と密度、なかなかのものだな」


「えっ…そんなこと、見ただけでわかるんですか…?」


驚きを隠せない私に、ヘンリー教官は薄く笑みを浮かべた。


「わかるさ。長い年月、魔法に携わればな」


(この人…どれほどの歳月を生き、どれほどの魔法を極めてきたのだろう…?)


「魔力量を見抜く力を鍛えたいなら、まずは基本を完璧にしろ。それが君たちの力になる」


柔らかな声で告げられたその言葉には、不思議な説得力があった。私たちの成長の可能性を見透かしているかのようなその眼差しに、心が引き締まる。


(負けない…この訓練も、絶対に乗り越えてみせる!)



ヘンリー教官が、手を軽く振って私たちを訓練場の中央へ誘導する。


「君たちにはSTEP1と2は不要だろう。魔力量と基礎技術は十分だと見た。だから、いきなりSTEP3から始めてもらう」


そう言って彼が指し示した先には、リザードマン族の少女と犬族の少年がいた。二人は10m先の的に向けて魔法を放っている。


「…ファイヤアロー! …くっ!また外れた!」

「ダメだ…速すぎる!」


二人とも懸命に魔法を放っているが、動く的を仕留めるのに相当苦労しているようだ。的は予測不能な動きで跳ね回り、次々と方向を変える。


私たちがその様子を見守っていると、彼らがこちらに気づいた。


「あっ、リリアとリーネじゃないの! まさかもう基礎訓練を終えたの?」

「リリアとリリアじゃん!久しぶりだな!」


(あっ、この二人は基礎訓練で一緒だったマーリンさんとジャックさん!)


「お久しぶりです!」と私たちが挨拶すると、二人は驚いたように顔を見合わせた。


「たった半年で基礎訓練を終えるなんて…やっぱりただ者じゃないわね」

「本当にそうだ。俺たちは倍の時間がかかったのに」


軽く会話を交わす間もなく、ヘンリー教官が再び口を開く。


「挨拶は済んだか?では、早速やってもらおうか。リリア、リーネ、スタート位置に立て」


彼の声には微かな厳しさがあり、一瞬で場の空気が引き締まった。私たちは頷き、指定されたスタートラインに立つ。


目の前には5mから20mの距離に大小様々な的が50個設置されている。手前の的はゆっくりと動いているが、奥の的は縦横無尽に跳ね回っている。近くの砂時計を見ると、砂がゆっくりと落ち始めていた。


「この砂が落ちきる前に、全ての的を撃ち抜け。それだけだ」


「リーネ、先にやってみてよ」

「うん、わかった」


リーネは静かに深呼吸をする。すると、彼女の両手に魔力が集中し始め、訓練場全体が微かに震えた。


「いくよ!」


鋭い声と共に放たれた火の矢が、一番手前の的を粉砕する。爆発音が轟き、的の破片が舞い上がった。


「す、すごい…なんて威力と精度だ…! それに無詠唱で…!?」

マーリンとジャックは驚愕し、目を見開いたままリーネを見つめている。


リーネは周囲の反応を気にすることなく、連続で火の矢を放ち始めた。矢は次々に的を正確に撃ち抜いていく。


(これは…砂時計のペースからして、1分以内に50個を仕留める必要があるってことか。つまり約1秒に1つ破壊するペースが必要だ)


「リーネ!いいペースだよ!その調子で頑張って!」


私が声をかけると、リーネは一瞬頷き、さらに集中を深めた。


砂時計が残り半分になる頃、的も残り半分を切った。しかし、手前の的はすべて破壊され、残りは全て遠くの奥まった位置にある。動きも速くなっている。


「遠くなればなるほど、集中力と精度が必要だ…!」とマーリンが呟く。


「がんばれ…!」

ジャックも拳を握りしめながら見守る。


リーネは眉を寄せ、鋭い目つきで次の的を狙った。

「…そこ!」


火の矢が放たれるたびに爆音が響き、的が次々に粉砕されていく。その動きは止まるどころか、むしろ速度を増していった。


「あと少しだ!」


リーネは息を切らせながらも矢を放ち続ける。だが、砂時計の残りはあと僅か。


(間に合うのか…!?)


周囲の空気が一層張り詰め、全員が固唾を飲んで見守る。


最後の的が遠くの隅で跳ね回る。それを狙ってリーネは渾身の一撃を放った――


「そこまで!」


ヘンリー教官の声と共に砂時計が空になった。その瞬間、的は全て粉々になっていた。


「やった…全部破壊した…!」


「リーネ!すごいよ!おめでとう!」


私たちは一斉に駆け寄り、リーネを讃えた。マーリンとジャックも拍手を送る。


「凄いでしょ?」

リーネは息を整えながら、胸を張って誇らしげに微笑んだ。その顔は疲れを隠しきれないが、同時に自信に満ちていた。


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