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第13話 聖王軍学院式トレーニング

レオナ教官に連れられて訓練場にやってきた。広大な石畳の広場には、10歳前後と思われる多種多様な種族の少年少女が集まっている。長い耳を持つエルフ族の少女、筋肉隆々のオーク族の少年、硬い鱗に覆われたリザードマンのような子供――どの顔も汗に濡れ、疲労が滲み出ていたが、彼らの目には強い意志や覚悟が宿っている。一方で、すでに心が折れたのか絶望した表情を浮かべている者もちらほら見える。


「よし!みんな集まったな。今日も引き続き基礎訓練だ。始め!」


レオナ教官の声が響き渡ると、訓練生たちは各々腕立て伏せやスクワットを開始した。その動きは軍隊のように統率が取れており、一瞬たりとも気を緩めない厳粛な空気が漂っている。


私たちはその圧倒的な雰囲気に気圧され、立ち尽くしていたが、レオナ教官が厳しい声で指示を出してくれた。


「リリア、リーネよ。お前たちにはノルマをクリアするまでここで基礎訓練をしてもらう。それがこの学院の第一歩だ」


「「はい!」」


(基礎訓練って…いきなり筋トレをやれってこと?え、何の説明もないまま?)


「まずは腕立て伏せ100回だ。ほら、何をしている。早くやれ!」


レオナ教官の鋭い眼光に押され、私たちは慌てて腕立て伏せを開始した。





「「できました!」」


私たちは3歳の頃から鍛錬を続けてきた。これくらいは慣れているため自信満々にレオナ教官に報告をする。



「ほう。なかなかいいペースだな。次は腹筋100回、それが終わったら背筋とスクワット、それぞれ同じ回数だ」


(ちょ、休憩なしで!?)


一瞬躊躇するも、再び鋭い視線が飛んでくる。


「「はい!」」


私たちは指示通りに黙々とトレーニングをこなしていった。汗が額を伝い、息が少しずつ荒くなる。



「はぁ…はぁ…全て100回、終わりました…」


やっとの思いで最後のスクワットを終えたとき、レオナ教官がこちらを見てニヤリと笑った。


「ほう。思ったよりやるじゃないか。だが喜ぶのは早いぞ。お前たちは特別に、1カ月先のメニューだ」


そう言うと、彼女はどこかへ歩き去り、戻ってきたときには黒いジャケットを二着抱えていた。


「これはトレーニング用ジャケットだ。聖王軍学院の特別製で、重さを10kgから50kgまで調整できる。これを着てみろ」


渡されたジャケットは一見普通の布製に見えたが、手に取った瞬間その異常な重さに驚いた。持ち上げるだけで全身の筋肉が軋む。


「胸元に重さを調整するダイヤルがある。初期設定は10kgだが、間違って最大の50kgにはするなよ?怪我するぞ」


初期値の10kgを確認し、なんとか腕を通す。装着するだけで体がずっしりと沈むような感覚がした。


「さて、それを着たままで同じメニューを全てこなせ」


「え…?」


思わず声が漏れる。すでに疲労困憊の状態で、この負荷を加えたまま再び腕立て伏せや筋トレ各種100回だなんて――。


「何を勘違いしている?そのジャケットを50kgにしてこのメニューをこなせるようになって初めて基礎訓練は終了だ。それまでは毎日これを繰り返す。周りを見てみろ」


言われて周囲を見渡すと、同じジャケットを着込んだ訓練生たちが、全身から汗を噴き出しながら黙々と訓練に励んでいる。


「あそこにいるジャックを見ろ。犬族の彼は半年で40kgまで達した。それでもまだ基礎訓練だ」


目線の先には、必死に歯を食いしばりながら腕立て伏せを繰り返す犬族の少年の姿があった。その体は筋肉で引き締まり、訓練の成果が見て取れる。


(半年…?こんな過酷な訓練を…?)


私たちの迷いを察したのか、周りの訓練生の一部は哀れみの目でこちらを見ている。


「話は以上だ。この地獄を抜けたいなら、黙って基礎体力を身につけることだ。さあ、早くやれ!」


レオナ教官の言葉に、私はリーネと顔を見合わせる。

そしてお互いに「うん」と頷き決意した


私達は再び腕立て伏せを始めた




とはいったものの、案の定――10回目の腕立て伏せで私の腕は完全に悲鳴を上げた。


「はぁっ…はぁっ…これ以上、無理…!」


震える腕が私の体を支えきれず、力尽きて倒れ込む。


その瞬間、鋭い声が容赦なく飛んできた。


「おい!誰が休めと言った!」


レオナ教官の怒号が突き刺さる。


「んっ…!」


必死に上体を起こそうとするが、腕が言うことを聞かない。全身にまとわりつくジャケットの重みが追い打ちをかけ、私は地面に額をつけたまま動けなくなってしまった。


「それが限界か?フン、しょうがない。回復班!こっちを頼む!」


教官の声が響くと、すぐ近くに軽やかな足音が聞こえた。


「お疲れさまです。すぐに回復しますね」


そこには、長い耳と穏やかな表情が印象的なエルフの女性が立っていた。優しい微笑みとともに、彼女は手を差し出して詠唱を始める。


「光の大精霊よ、疲れ果てし心身に宿り、生命の息吹を呼び覚まし給え。バイタルヒール」


眩い光が彼女の手元に現れ、私の体へと流れ込んでくる。


(あたたかい…)


体中に染み渡る心地よい魔力が、さっきまでの疲労を少しずつ溶かしていく。腕の筋肉が軽くなり、呼吸も整い始めた。


(これ、すごい…“光の大精霊”って言ってたけど…C級以上の回復魔法?それに治癒というより疲労回復系みたいだし、めちゃくちゃ実用的じゃないか!)


私はぼんやりとそんなことを考えながら、完全に回復した自分の体を確かめた。


「どうだ?」


レオナ教官がじっとこちらを見下ろしている。


「はい。身体が軽くなったかのように回復しました」


「そうか。それならもう一度腕立て伏せから再開できるな?さぁ、わかったなら早くやれ!」


――やはり休む暇なんて与えてくれない。


「えっ…そんな…」


さっき回復した体が再び悲鳴を上げる未来が簡単に想像できて、思わず呆然としてしまう。


(もしかして、これを繰り返して鍛えろってこと…?ここは本当に地獄なのでは?)


ちらりと隣を見ると、リーネも肩で息をしている。それでも彼女は弱音を吐かず、私と同じように再び腕を地面に構えていた。


「お姉さま、大丈夫?」


彼女の言葉に、私の胸の奥に眠っていた覚悟が目を覚ます。


(怯んでる場合じゃない。私たちには守りたいものがある。どんなに辛くても、ここで折れちゃいけない!)


「うん、大丈夫。やろう、リーネ」


「うん!」


お互いに頷き合い、私たちは再び腕立て伏せを始めた。





その後の訓練は容赦がなかった。


腕立て伏せ100回、腹筋100回、背筋100回、スクワット100回――そしてすべて終わる前に訪れる限界。

限界を迎えるたびに回復班が駆け寄り、「バイタルヒール」で体力を蘇らせる。


他の訓練生たちもまた、同じ地獄を繰り返していた。目の前で黙々と基礎訓練をこなすリザードマンの少年はすでに30kgのジャケットを装着している。それでも表情一つ変えず、汗を流し続けていた。


その隣では、オーク族の少女が歯を食いしばりながらスクワットを繰り返している。背中に流れる汗が地面に染み込むたび、彼女の努力が形となって刻まれていくように見えた。


(すごい…みんなこんな過酷な訓練をこなしているんだ…私たちも負けてられない!)



私達は「強くなりたい」という決意を胸に、目の前を立ち塞がる地獄へと立ち向かうのであった


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