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第01話 双子姉妹に転生

俺の名前は佐藤健一。ブラック企業のシステムエンジニアとして働く30歳の冴えないおっさんだった。

だった、と過去形で語っている時点でお察しかもしれないが……そう、俺は過労死してしまったのだ。


次に目を覚ましたら、そこは天国でも地獄でもなく――なんと、"幼女"の身体だった。



転生したら幼女だった話なんて、よくあるテンプレみたいに思えるかもしれない。だが、事態を完全に理解したのは、この身体――リリアという名前らしい――が3歳の誕生日を迎えた朝だった。


「これは……どういうことだ……」


ベッドから目を覚まし、小さな手で顔に触れる。もちもちとした感触に思わず唖然とした。前世の疲れ果てた顔とは雲泥の差だ。鏡があれば一目瞭然だろうが、3歳児のこの体ではベッドの端を降りることさえままならない。


今の私は、辺境伯ローゼンフェルト家の長女リリア。目の前では、私そっくりの双子の妹リーネがぐっすり眠っている。


父上は威厳ある貴族、母上は優雅な貴婦人。そして私は、彼らの娘だという。驚くべきことに、この体が得た記憶と、前世のサラリーマンとしての記憶が明確に混ざり合っている。


(なぜ俺がこんな貴族の家に……いや、幼女の身体に転生なんて……)


システムエンジニアとして鍛えられた合理的思考と、3歳の幼児らしい純粋な感情が入り混じる奇妙な感覚に混乱しながらも、これが現実であることは否定できなかった。


(さて、これからどう生きていくか……)



そんな混乱の中で迎えた私たち双子の誕生日パーティー。


「リリア、おめでとう」


まず声をかけてきたのは父エドワード。30代半ばほどの端正な顔立ちと威厳を持つ彼は、柔らかな笑みを浮かべている。


「リーネもおめでとう」

隣でお祝いの言葉をかけられた妹リーネは、一瞬キョトンとした後、目を輝かせて何かを見つけたようだ。


「リリア様、リーネ様、お料理の準備が整いました」


侍女が声をかけ、テーブルに料理を並べ始める。妹リーネは「待ってました!」と言わんばかりに手足をバタバタさせて嬉しそうにしている。


(これが貴族の生活ってやつか……)


豪華な料理、広い屋敷、優秀そうな侍女たち。さらには訓練場や騎士団まで抱えている。俺の前世では考えられない贅沢だ。


「今日はリリアとリーネの記念すべき3歳の誕生日よ。いっぱい食べてね」


そう言って微笑むのは母マリアンヌ。優しさと気品があふれる彼女は、私たちに椅子に座るよう促す。その仕草には、母親らしい温かさと、貴族の洗練された品格が滲んでいた。


「ありがとう、まま」


小さな声で答えつつ、(ここからどう生きていくか)と密かに胸を引き締める。だがまずは、目の前の豪華な食事を楽しむべきだろう。幸い、この体の舌も本物の貴族らしく、良いものを味わう素質が備わっているようだからだ。



「ところでリリア、リーネよ。3歳の誕生日だ。何か欲しいものはあるか?」


父の問いかけに、リーネが即答する。


「ごはん!おいしいごはん、いっぱいたべたい!」


リーネはいつも通り食べ物のことで頭がいっぱいのようだ。妹がそんな調子では、このままだと縦ではなく横に成長してしまうのでは、とお姉ちゃんは今から心配である。


「はっはっは!いいぞ。私の分も食べていいから、好きなだけ食べなさい」


「やったー!」


リーネは大喜びで、チキンやステーキを口いっぱいに頬張る。


「リリアは何か欲しいものはあるか?」


父に問われた私の答えは一つだった。


「まほうをつかえるように、なりたい」

(やっぱり魔法は使ってみたいよな。前世ではゲームやアニメでしか見たことなかったし……夢みたいだ)


この世界には魔法が存在する。母は元魔法教師で、普段から回復魔法や水の魔法を使って私たちを助けてくれている。


(やっぱり魔法を見たら、使ってみたくなるよね?男のロマンだよな……いや、この身体は女の子だけど)


「ほう……魔法か」


父は少し考えた後、真剣な表情で口を開いた。


「魔法の本を保管している書庫があるんだが――」


「しょこ!?」


興奮して身を乗り出す私に、父は苦笑しながら指を立てた。


「だが条件がある。まず、書庫に入るには次の3つをクリアしなければならない」


条件は以下の3つだった。


1. 文字の読み書きを習得すること。

2. 幼い身体に魔法は負担が大きいので、身体が成長すること。

3. 書庫に入る際は、必ず侍女を一人つけること。


「うん、わかった!……でも、ひとつききたいんだけど……どのくらいからだがそだてばいいの?」


読み書きは分かりやすい目標だが、身体の成長となると曖昧すぎる。これが「10歳になってから」とか言われたら、あと7年も待つなんてとても耐えられない。


「そうだな……リリアが6さ――」


「うでたて、あしのきんにく、せなかのきんにく、ぜんぶひゃっかいできたら!」


思わず父の話を遮り、無茶な提案を口にする。


「お、おう……そうだな。それぐらいできたら十分だろう」


(よし、言質とった!)


父は一瞬驚いた表情を見せたが、3歳児には到底できないだろうと思ったのか、あっさり許可してくれた。


これで目標ができた。


1. 腕立て、腹筋、背筋、スクワットを各100回できるようになること。

2. 文字の読み書きをマスターすること。


これを達成して、必ず魔法を手に入れる!



部屋に戻ると、早速トレーニングを始めることにした。


「よぉーっし!まずはうでたてふせからやってみよー!」


隣を見ると、リーネが「なにしてんの?」と言わんばかりの顔でこっちを見ているが気にしない。


肩幅に手を開き、腕立ての姿勢を取る。両腕に力を込めて、体を押し上げようとするが……


「うおおおおおーー!!」


雄叫びを上げても、びくともしない。


「はぁ……はぁ……だめだ……ぜんっぜんきんにくが……たりない……!」


腕立て伏せ100回は無謀すぎたかもしれない。今から父に謝って、50回ぐらいで許してもらえないか相談した方がいいだろうか……


そう考えていると、隣のリーネが言った。


「りーねも、やる!……ふんっ……!」


私の真似をして、見よう見まねで腕立てのポーズを取るリーネ。


「すごくちからいるから、むりだよ……って、ええっ!?」


驚いた。リーネが私にできなかった腕立て伏せを1回やり遂げたのだ。


「できたー!」


嬉しそうに声を上げるリーネを見て、私は絶句する。


(まさか……妹にここまで差をつけられるなんて……)


くやしい。このままでは姉の威厳が危ない。絶対に負けていられない。

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