「不明」~始まりの物語~(序章) ep5
その日もまた、シロは厳しい教育と貴族たちとの付き合いに疲れ果て、重い足取りで部屋に戻ってきた。扉を開けると、クロが笑顔で駆け寄ってきた。「シロ姉さま、おかえりなさい!今日はね、家政婦さんと一緒にお菓子を作ったのよ。あとで一緒に食べましょう!」クロの瞳は喜びに輝いていたが、それがシロの心をさらに重くするだけだった。
「そうね、後で一緒に食べましょう」とシロは微笑んだが、その微笑みはどこか悲しげだった。クロはそれに気づかないふりをしながら、姉の手を取って部屋の中へ引っ張っていった。
シロはクロの純粋な笑顔を見ながら、心の中で再び誓った。「絶対にこの子を守るんだ。この世界の汚れに触れさせないように。あなたを失うぐらいなら一緒に天国に行っても構わない」と。
しかし、ある夜中、シロが自室で貴族からの手紙を燃やしていると、突然、部屋の扉が開いた。そこには、怒りに満ちた父親が立っていた。
「シロ、お前何をしているのか分かっているのか!?」父親の怒声が響き渡った。「これらの手紙は、お前の将来にとって大事なものだというのに!」
シロは何も言わず、ただ手紙が燃え尽きる様子を見つめていた。しかし、その態度が父親の怒りをさらに煽った。父親はシロに歩み寄り、その頬を強く叩いた。その音が部屋全体に響き渡り、痛みなどが感じられなかった。父親は「お前のわがままが、家族全体にどれだけの迷惑をかけているか、分かっているのか!」
その瞬間、部屋の外で物音がした。シロが振り返ると、そこにはクロが立っていた。彼女の瞳には涙が浮かんでおり、震える声で言った。「やめて、シロ姉さまを叩かないで!」
その言葉に一瞬の静寂が訪れた。父親は怒りの矛先をクロに向けようとしたが、シロが立ちふさがった。「やめて!クロには関係ない!これは私の問題よ!」と大切な妹を守る姿勢を取った。父親は「覚えておけよ!」と捨て台詞を吐いて部屋を後にした。
その夜、シロはクロと一緒にベッドに入った。クロはシロにしがみつきながら、すすり泣いていた。「シロ姉さま、どうしてあんなことをされるの?お姉さまは何も悪いことをしていないのに…」
シロは優しくクロの頭を撫でながら、心の中で「クロだけは絶対に渡さない…」と。
翌日、シロは密かに計画を立て始めた。クロを連れて、この城から逃げ出す方法を。貴族の世界から離れ、二人だけで平穏な生活を送るための道を探し始めた。シロにとって、それは自分の使命であり、愛しの妹を守るための唯一の手段だった。
そして、ある晩、シロはクロの手を取り、静かに城を抜け出した。星明りの下、二人は新しい未来に向かって歩き出した。シロの心には、不安と希望が交錯していたが、クロの純粋な笑顔を守るために手段を問わないことにしていた。