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第5話✶輪廻転生の謎

2人がテンプレな道を進んでいることにある種の安心感を覚えながら、そういえば…と前世に思いを馳せた。



今世の前世は現代、つまり令和だった。

平安と令和の時代を行き来することに慣れた17回目のループ生活も、15回目と大きく変わりはなかった。


現代の私は天野あまの輝夜かぐやという名前で、優しい両親と兄、犬と暮らしていた。

妙に歴史や昔話に興味があり、旅行先では図書館めぐりをする私をよく可愛がり、どこへでも連れて行ってくれた。

進路も好きに選ばせてくれたから、平安で生きるために役立ちそうな学部は一通り舐めた気がする。


前世の大学は応用化学部だった。

毒性学が学べる学部で、毒物の知識をつけて月の女王を毒殺してやろうと思っていたが、志半ばで頓死したのが残念だ。

中途半端な知識だけは得た。


ところで、私も年頃の娘だ。

人並みに恋はする。

いつも20歳で死んでしまうから、彼氏は作らないようにしていたが、好きな人はいた。

彼は私がいなくなった世界でも、ちゃんと元気に暮らしているのだろう。少しは悲しんでくれたかな。



私は毎世 進路を変えるから周囲の環境は変わるが、好きになる人は同じだった。

彼は、家の近くのお屋敷に住んでいる。


この地域では有名な地主さんの家で、見るからにお金持ちな御門ごもん家。

瑠珂るかはその家の長男である。

近寄り難くて、長らく面識はなかった。


彼に初めて会ったのは私が小学6年生の時だ。

どう見ても年上の彼は、子供っぽい私の同級生達とは全然違う雰囲気を持っていた。


ある日、お屋敷の庭に咲く綺麗な花に見惚れていた私に気がついて声を掛けてくれた。


「どうかしましたか?」


「き、綺麗な薔薇ですね!」


吸い込まれそうな瞳に見つめられて、しどろもどろになる私がそう言うと、彼はふっと笑った。


「これは、薔薇ではなく芍薬シャクヤクです」


「あ、そうなんですね、えへへ…」


せっかくだからと芍薬について簡単に説明をしてくれたけど、私は正直全く頭に入ってなかった。

ただただ、彼の睫毛や唇の動きを眺めていた。

今にして思えば一目惚れ、だったのかな。


その日から、花に疎い私はガーデニングを習いたいとか何とか理由をつけて、お屋敷に出入りするようになった。


彼は口数が少ない人だったが、私は沈黙も嫌じゃないというか、傍にいるだけで安心感に包まれた。

纏う雰囲気が、とにかく穏やかで優しいのだ。

陽に透けると金色になる柔らかな髪も、眼鏡の奥の垂れ目な瞳も、落ち着いた低い声も好きだった。


彼は私が竹取物語について調べたり分かったことを報告すると、いつも興味深そうに聞いてくれる。

寓話や昔話に執心な私は奇異な目で見られることが多かったから、馬鹿にしないで話を聞いてくれる彼の存在に救われていた。


そんな彼は定期的に屋敷を空ける。

理由は海外旅行だったり仕事だったりと様々だったけど、彼がいない期間は寂しかった。


私が命を落とした日も、長く家を離れていた彼と久々に会えた日だった。

その日、基本的に冷静な彼が珍しく興奮していたことを思い出す。

彼は「とうとう全部揃った。これで確かめられる」「まだ――は分からないけど」と言っていた。

彼は研究者気質とでも言おうか、何にでも疑問を持ち、とことん調べたり確かめたりする性格だった。

探しものが何かは知らないが、必要なものが集まったと言って嬉しそうにしていた。


当時試験前であまり長居ができなかった私は、次に来た時に詳しく聞こうと思っていたのに、まさか帰り道でトラックに撥ねられて死ぬとは思っていなかった。

ただその前、15回目のループでも彼は新しく見つけたことを教えてくれていた。

そう言えば、彼の発見はいつも私が死ぬ間際だ。

何かのトリガーなんだろうか。


15回目のその時のことは、なぜか覚えている。

垣根の上にうっすら雪が積もる寒い日で、危ないからと家まで送ってくれた時だ。



「輝夜は、笠地蔵って昔話を知ってる? 貧しいおじいさんが、今日みたいな雪の日に寒そうにしてるお地蔵様に売り物の傘を掛けてあげて、自分が年を越す支度ができなかったお話だよ」


「え〜… あ、あったねぇそんな話。

お地蔵様が夜にお米とか野菜とかを持ってきて恩返し的なことをしてくれるお話だったかな」


「そうそう。 僕はずっと不思議だったんだ。良いことをしたら幸せなお返しがあるって話なら、お地蔵様は1体で充分だと思わない?

でも笠地蔵は6体もあるんだ。というか、道端で見掛けるお地蔵様もだいたい6体なんだよね。

6体のお地蔵様が夜に恩返しに来るのって、ちょっとホラーじゃない? でもそうである理由があったんだ」


「確かに。 何でだったの?」


いつもより饒舌な彼が新鮮で、先を促す。

眼鏡が荒い息で曇っていた。


「お地蔵様について調べてみたら分かったんだよ。

お地蔵様は正確には地蔵菩薩様といって、生き物が輪廻転生りんねてんせいを繰り返す6つの世界を行き来すると考えられているらしい」


輪廻転生、という単語に私はドキッとする。

彼はそのまま、私の様子には気づかずに続ける。


「仏法によれば、人が死ぬと、生前の善行悪行により六道りくどうのどこかへ振り分けられるんだって。

六道は地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人間道・天道のことで、地蔵菩薩様は六道の世界と現世を渡り、人々を苦しみから救済していたと考えられていたんだ。つまり、例えばもし地獄道で苦しんでいても、地獄道担当の地蔵様が来て助けて下さいますよ、というわけだね。

だからお地蔵様は担当別に6体で並んでいるんだって」


「な、なるほど…」


まさか地蔵の数にそんな意味があったなんてと思いつつ、輪廻転生を地で行っている私としては複雑な気持ちで聞いていた。


私が死んだ後に始まった世界が六道のどこかなのだとしたら、今は何道なんだろう。

最終的には交通事故か女王にいたぶられて死ぬ道なら地獄とか修羅なのかな。

15回も転生させといて、毎回悪道ばかりじゃん。

たまには天道に転生させてくれても良くない?

地蔵、全然助けに来ないないし。

役立たず。



物思いに耽りつつ、楽しそうに地蔵論を語る彼の表情を堪能していた私は、そう言えば瑠珂って誰かに似てるような?と思った。

誰だっけ…

意識が逸れたその一瞬で、私はパトカーに追われた暴走バイクに跳ねられて15回目の生を閉じた。


そして始まった16回目の平安の生はヤンデレエンドに失敗して結局女王に惨殺され、17回目の生はトラックで轢死だ。






「助けに来いよ、地蔵」



「え?」

「あ、何でもありません」


ぼーっとしすぎて思わず口から出た謎の台詞に、弥生が怪訝な顔をする。


「姫様は時々御言葉が荒ぶりますね。お気をつけられませ」

「私はもともと姫様ではありませんから。竹藪で拾われた只の捨て児ですもの」


ホホホ、とごまかしてため息をつく。

弥生も私の出生時(発見時)の状況は知っているので複雑な表情で作業に戻る。

地蔵発言については不問に付してくれるらしい。

ありがたい。


今は広間に活ける花を水切りしている所だ。

何となく白い花ばかりを選んでしまった。

今世も結局死ぬであろう我が身への、無意識のはなむけか。




そうして半月が経ったある日、右大臣安部の御連みむらじさまが屋敷を尋ねてきた。


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