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第3話✶かぐや姫に求婚する5人の男達

「本当に美しい、見ているだけで心が洗われるようだ」


「可愛くて優しい、自慢の娘じゃ」


毎世ながら、おじいさんとおばあさんは私を目の中に入れても痛くない可愛がり様だ。

3ヶ月で急激に成長することに気味悪がることなく溺愛してくれる。

竹からお金や黄金が出てくる不思議現象も自然に受け入れている。

おっとりした穏やかな2人が大好きだった。

地獄のループ生活の中で気が狂わずにいられるのは2人のお陰だと思っている。


家は裕福になり、裳着を済ませる頃には立派な着物を何着も拵えてくれた。

名前も毎度おなじみ、かぐや姫と名付けられた。


今日はお気に入りの桜色の着物を着てゆっくり過ごしている。いずれ散る命だけど、今が1番ゆっくりしている時間だと知っている私は、縁側で琴を奏でる。

2度目の転生で琴にハマってからは、どちらに転生しても習ったので今ではかなりの腕前になっている。

最近は私の噂を聞きつけた大勢の人々が屋敷の周りをウロついているらしいが、姿は見えなくとも琴の音を聴くだけで幸せになると言われているらしい。


そんな日々がしばらく続いたある日。


「かぐや、かぐや」


おじいさんとおばあさんから呼ばれ、奥の部屋に向かう。


「どうしましたか? 今からお2人に茶を点てようと思っておりました。弥生が美味しい菓子を買ってきてくれたのですよ」


弥生は貧しい家から奉公に出された所を我が家で預かった家事手伝いの娘さんで、お姉ちゃん的存在だ。

町へ買い物に出かけると、必ずお土産を買ってきてくれる。


「あぁ、それは楽しみだ。必ず頂こう」


甘いものに目がないおじいさんが一気に相好を崩し、おばあさんにつつかれて真顔になった。


「ここのところ、お前さんに会いたくてたくさんの人が屋敷に訪れる。

お前さんは1度も会ってはやらないが、それでも嫁にと望む声がある」


ああ、その話の時期か、と私は苦い気持ちになる。


「私達も年だし、いつどうなるかもしれん。お前さんだけ遺していくのは酷く心配なのだ。

良き伴侶を迎えて身を固めてくれればと思っておる」


「はぁ」


かぐや姫の輝きは消灯し、明らかに空気の温度が下がる。


「かぐやにそのつもりがないのは知っているが、この世に生まれ落ちたものなら男も女も伴侶を得て、子を産み育てることになっているんだよ」


現代なら炎上もののセリフだが、この時代の思想からすれば当然の願いだった。

だが、いずれ月に連行されることを知っている私は勿論気が乗らない。

黙って俯いていると、おばあさんが口を開いた。


「何も全員とは言いません。実はかねてよりそなたに求婚頂いている方がいるのです。その方々はそれぞれに位が高く資産もあり、そなたを幸せにすると約束してくれています。

どなたかだけでも、会ってはみませぬか」


(ぐはー!ついに来たー)


内心では舌を垂らし、断固拒否したい。

しかし、何も知らないおばあさん達を悲しませるのは本意でないので、困惑しながらも殊勝に頷くことにした。


「私をここまで大切に育てて下さったお2人がそこまで仰るならば、お会いしてみましょう」


「おお、かぐや、ありがとう。よくぞ言ってくれた」


おじいさんとおばあさんは目に涙を溜めてハイタッチをしている。

私は分からないようにため息をついた。


どうせ碌でもない奴らなのにと。







ある晴れた吉日に、選ばれし両親肝入りの5人の公達が屋敷に招かれた。

それぞれに1番立派な着物を着て、珍しい土産や贈り物を携えている。


5人は出迎えに現れたかぐや姫の美しさに、早速心を奪われていた。

透き通るような白く繊細な肌に桜色の唇、黒硝子のような神秘的な瞳を縁取る睫毛は、影ができる程に長い。 オーラなのか何なのか、彼女の周りは光りに満たされている。

男達はそんな彼女の美しさを褒めそやせる語彙もなく、ただただぽーっとなっていた。


そんな5人を一旦応接間に残し、別室で作戦会議を開く。

この中からどうやって選ぶかが問題だ。


「皆さん素敵な方ばかりでとても選べません。また、どなたを選んでも角が立つように思います」


思ってもいないことがスラスラ口から出てくる。

慣れって怖い。


「確かに。皆立派な方々ばかりで、しかし逆に1人に決めるのはなかなか難しいものだな」


おじいさんも考え込む。


「そう思います。そこで、私が欲しいものをお願いし、それを持ってきてくれた方と結婚するというのはどうでしょう」


「それは良い、それなら無用な争いも避けられよう」


名案だ!と2人とも納得してくれた。

私にとっては最早ルーティンワークとも言えるこの提案は、やはりスムーズに可決されたのだった。




「お待たせしました」


鈴が鳴るような声とはこのような声だろうと、まだ夢うつつの5人が向き直ると、目の前には微笑むかぐや姫が立っている。


「今日ははるばる都からお越し頂き大変恐縮です。

皆様、私には勿体無い方ばかりですので、私なぞが選ぶなんてできよう筈もありません。

ですから、私が欲しいものを持ってきて下さった方と結婚したいと思います。きっとその方が1番愛情深い志の方でしょう」


「あな、それは良い案だ。私に叶えられぬ願いはない、何なりと所望せよ」

「私も例えいくらかかる宝物だろうと必ず手に入れて差し上げよう」

「貴女の望みなら我が命を賭して叶えよう」


皆鼻息荒く了承する。

私は息を吸うと、これから言う長台詞(誰に何を頼むか)を間違いなく読み上げることに全神経を集中した。


初期のループでは組み合わせを間違えて、意図せずにシナリオを変えてしまった回も結構あった。

ちなみに、組み合わせを変えても、結局成功者は出なかった。

品物が変わっても、彼らがとる手段や思考が変わらないからだ。



「まず、石作いしつくりの皇子みこさま」


私は眉が太く、ぐりぐりとした目が特徴の男性に向き直った。



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