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第24話✶参の天刑

王宮に連れて行かれたものの、初日に連れて行かれた塔ではない方向に案内される。


そして、敷地の最東に到着した。

そこには、古ぼけ、随分使い込んだ感じのレンガの塔がそびえ立っていた。


高さは20mくらいと高いのに、直径は5mくらいで比較的細長い塔だ。

下の方には窓が無く、上の方には窓がある。


見上げた私は、少し違和感を感じてあってしばらく眺めていた。



「また会うとはな」


背中がゾクリとする嫌な声に振り返れば、まさかの女王だった。


「息災で何よりじゃ、十五夜月の姫」


こんなに嫌味たらしい息災もあろうかと思いつつ頭を下げる。


「月神様のご加護をもちまして」


「ハン。お前のような厚かましい罪人に、神は慈悲など与えぬわ。大方、楽に死なせぬよう、この天刑まで永らえさせたのじゃろう。

この天刑は越えられぬ。

今度こそ己を悔い改め、来世こそまともに生まれることを願うが良い」


はい分かりましたと返事をするのもおかしいので、黙っていると舌打ちをされた。

本当にこんな下品な人が女王なのかと思う。


ぼけっとしていたら、ここまで案内してくれた小柄な天人が、「ここはぷるぷる震えて許しや減刑を乞うのが正解です」と耳打ちしてくれた。


私は頷いて口を開く。


「女王様、こちらの天刑で最後になります。もしも無事に刑を終えられましたら、約束通りに私を下界に御返し下さい」


ピキッ という音が聞こえた気がした。


「あっ、もうダメみたいですね」案内役の天人は、「私はこれで」と言って足早に立ち去っていった。


「ああ勿論だとも。私としても、お前が私の視界から消えて欲しいと思っているが、しかし穢れた魂のまま下界で生きているよりも、できれば神の御本で魂の洗い直しをして貰えるよう願っているがな」


要は死ねってことだ。


それにしてもこの塔、どうやって入るのだろう。

違和感の正体はそれだった。

扉はあるがノブや取手が見当たらない。

上の方の窓には、到底届かないし。


そう思ってじっとしていたら、身体がふわりと浮き上がった。

流石に驚いて見渡すと、女王も浮いている。


「さて、参ろうぞ」


言うや、高らかに舞い上がり、上空50mへ。

今 念力を解除されたら、真っ逆さまに落ちてお陀仏間違いない。

とうとう強硬手段に出やがったと思いきや、塔の中に吸い込まれるように降り立った。


塔には屋根が無かったのだ。

この塔は筒状の建物であった。


中にはぎっしり、真っ黒な炭と木が積まれ、かき氷のシロップのように油が撒かれていた。

ギドついた油の臭いに顔を顰める。


(なるほど…)


爐炎ろえんはかりの概要は掴めた気がした。私はきっと今から、この塔――というか炉で焼かれるのだろう。


「こちらに来なさい」


女王に呼ばれて近寄ると、床から鎖が生えていた。

そして私の足首に輪がつけられる。

輪にも鎖がついていて、床の鎖と鍵で繋げられた。



「これより、参の天刑、爐炎の秤を執り行なう。

刑の内容を説明するからようく聞くが良い。

この塔は爐塔である。天刑で命を落とした罪人を火葬するためのな。

この爐で燃やせば、天人とて灰と変わる業炎だ。

月神が真に赦し給うたなら、そんな炎の中でも生き残ることは可能であろう。

まさに最後の天刑に相応しい秤ごとじゃ」


女王が得意げに言う姿を見ながら、私がこれからしないといけないことは、手品でよくある燃える箱からの脱出劇みたいだなーと思った。


「この爐はこの扉からしか出られない。

安心して良いぞ、この扉に鍵はかかっていない。

もし燃料が燃え尽きるまで無事だったなら、普通に扉を押して出てくれば良いのだ。

だがこの扉は内側からしか開かなくてな。外からは開けられない。誰も、途中で助けに入ることは出来ないのじゃ」


なるほど、だから外から見た扉にドアノブや取手がなかったのかと納得した。

そして、足元の鎖の意味にも。


命からがら、大火傷を負いつつもギリで生き延びた所で、鎖を切るか鍵を開けられなければ出られない仕組みだ。

死体を火葬する時には使わないのだろうから、対私の特別仕様ね。


目の前にはうず高く積まれた燃料。


「これらは大方、3日間燃え続けたら勝手に火は消える。お前に月神の加護があることを願っているよ。

3日後にまた会おう。

いや、もし3日経たなくても、出てこれたならこの天刑は終了じゃ。できるものなら、それでも構わないよ」


それはそれは邪悪な顔をした女王が作り笑顔を向けている。


「丁寧なご説明ありがとうございました。

穢れた私の懺悔の心が月神様の所へ届くか分かりませんが、精一杯祈り、できる限りの力を試してみたいと思います」


「フン。 せいぜい苦しむが良いわ」


最後は本音を前面に出し、女王は燃料に火を点けると、また空高くへ昇っていった。


火は油、木炭、薪へと燃え移り、視界はオレンジ色に埋め尽くされていく。

屋根がなくとも空は遠く、空気が薄くなり始め、だんだんと息苦しくなってきた。


(火は皮衣これで何とかなると思ったけど、窒息の危機は予想外だったわ)


ゴホゴホと激しく咳き込む。

炉の温度が全体的に上がり始めた。

熱い空気を吸い込んで、喉が焼けた感じがした。

火事での死因は、焼死より咽頭熱傷による浮腫や一酸化炭素中毒が多い、という話を思い出す。

思っていた以上に、生き残ることが難しそうだ。


帯と十二単じゅうにひとえが重たくて、急いで脱いだ。

生まれたままの姿に、火鼠の皮衣だけを頭から被ってしゃがみこむ。


「うっ…  ゴホッ」


3日間もこの中で生き延びるなんて、本当にできるんだろうか。

不安に押しつぶされそうになり、視界が滲む。

その時、積まれていた木炭が崩れ、大きな炎が波となって押し寄せて来た。








十五夜月の姫が爐塔に入って3日後。

約束の日の朝。


女王、大王に朔月の彦、双子の天女などが扉の前に集まっていたが、中からは物音ひとつ聞こえない。


火が消えて半日が経っても、中から十五夜月の姫は出てこなかった。


「出て来ませんね」


女王の付き人が恐る恐る隣を見ると、満足そうに頷く女王がいた。

扇で口元を隠してはいるが、笑みが抑えきれないといった様子だ。



「やはり、爐炎ろえんはかりは厳しかったか…」


後ろから歩いて来た大王は、女王よりは悲しそうな表情を浮かべている。

けれどそれはすぐに諦めの表情に変わる。


王族に生まれながら罪人の魂を持つ彼女は、不死の力を持っていなかった。

爐塔で三日三晩焼かれたならば、骨も何も煙と化す業火の塔だ。

この結果は致し方ないことかもしれない。


だがもう罪は雪げた筈だ。

魂の禊には、罪に応じた数の天刑を完遂しなければならず、途中で死んだら残りの天刑は次の生に引き継がれてしまう。

姫の罪に課された刑は3つだった。

今回は参の天刑まで到達したので、もう大丈夫だ。


次に生まれてくる時は、皆に祝福されて幸せな人生を送れるよう月神に祈った。




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