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第2話✶竹取物語について

『竹取物語』もしくは『かぐや姫』として知られる話は、書籍や文献、訳者や対象年齢によって書き方が異なるが、概ねこのようなあらすじだ。



むかしむかし、竹をとって日用生活品を作ったり売って生計をたてているおじいさんがいた。

ある日、いつものように野山に分け入り竹を切っていると、根本の光る竹を見つけた。

不思議に思って割ってみると、中には1寸(3cm)ほどの小さな女の赤ちゃんがいた。


子供のいなかったおじいさん夫婦は喜び、風にも当てぬようしまいこんで大切に育てた。

それからは、おじいさんが竹を切るたびに、大判小判がザクザク出てきたので、おじいさんとおばあさんはお金持ちになった。


女の子はすくすく育ち、3ヶ月で12歳ほどの身体に成長する。成人として髪上げの儀を行い、ほどなく14歳の年頃になると裳着の儀を行った。

夜空のように艷やかな漆黒の髪に月の光のように輝く肌、笑顔は花がほころぶような愛らしさで、周りの者を幸せな気持ちにする。そこに居るだけで辺りを照らすその器量としなやかな若竹のような優美さから、神主より″なよ竹のかぐや姫″という名前を授けられる。


屋敷にはその美しさを聞きつけた男達がわんさか来て、何なら周辺で寝泊まりする輩まで現れる。

その中に、雨の日も風の日も1日も休まずかぐや姫に求婚してくる5人のお金持ちや位の高い公達きんだちがいて、おじいさん達から結婚相手を選ぶことを勧められる。


結婚したくないかぐや姫は、それぞれに実在するかどうかすら怪しい宝物や難題を提示し、それを持ってきた人と結婚すると言う。

3年の間に、5人は偽物を作ったり頼んだ相手に騙されたり怪我したり死んだりして、とにかく誰も持ってこれずに玉砕する。


そうこうしていたら、どんな金持ちも偉い男も袖にするかぐや姫とはどんな女か時の帝が気になり、様子を見に遣いをやるが、かぐや姫は断じて姿を見せない。

それならばと、帝から宮に出仕するよう命令が降りても、それをするぐらいなら死ぬと言って聞かない。


仕方なく、おじいさんが仕掛け人としてかぐや姫を森へ散歩に連れ出し、狩りに来てたらバッタリ出会っちゃった作戦で帝とかぐや姫を出会わせることになった。

帝はそこでかぐや姫に一目惚れをする。

かぐや姫は案外まんざらでもない。


帝は無理強いを諦め、文通をすることになる。

帝との文通は3年に及んだ。


ある年の春からかぐや姫が元気がないのでおじいさん達が理由を尋ねると、自分は月の都の人間で、もうすぐ月から迎えが来ると言う。

驚愕の成長スピードと様々な状況から、かぐや姫が普通の人間ではないことに薄々気づいていた2人は、それでも大切な娘をむざむざ渡さんと決意する。


帝に助けを求め、決戦の8月15日。

屋根の上に1000人、地に1000人、計2000人の軍勢で迎え討つことに。

しかし、いざ月の使者が現れると皆腰を抜かしたり立てなくなったり、弓をつがえてもあらぬ方向へ飛んでいくなど使い物にならなかった。


屋敷の奥に匿われていたかぐや姫だったが、月の使者が手を翳せば屋敷じゅうの扉が開け放たれ、姫も吸い寄せられるように表へ連れ出される。


何もできず涙を流す老夫婦に、かぐや姫は悲しまずに見送って欲しいと言い、これまでの御礼を書いた手紙を渡す。

更に、帝に届けてほしいと手紙と共に不死の薬が入った壺を託した。


肩に羽織れば地上の出来事を全て忘れるという羽衣を掛けられ、舐めれば地上で得た汚れが浄化されるという飴をなめ、かぐや姫は振り返らずに月へ昇っていく。


残されたおじいさんとおばあさんは、かぐや姫のいない世に長く生きても仕方がないと言って、床に居つき寝込んでしまった。

手紙と不死の薬を受け取った帝も同じように考え、不死の薬を飲まないことを選択。

有識者にこの国で1番天に近い山を尋ね、駿河の山であると聞く。

部下にかぐや姫から貰った手紙と薬を渡し、山で燃やして天に返すよう勅使に命じた。

その山は空高く天に通じ、不死の薬の煙は天まで届くという意味から、今では『富士山(ふじさん)』と呼ばれていますとさ。

めでたしめでたし。



程度の差こそあれ、旧知の寓話だ。

初めての生は現代の交通事故で閉じ、次の生で竹取物語の世界に転生し女王の逆鱗に触れて再び死んだ私の、次の生はまた現代だった。


ワケが分からなかったが、竹取物語についてはうろ覚えの箇所が多かったから、とにかく調べまくった。


調べれば奥が深く、架空の人物と思われた登場人物は、実はほとんど実在していたり、指定された宝物がどこにある何だったのかも分かってきた。


かぐや姫が過去に冒した罪が何だったが気になったが、文献によって人を殺した罪と書かれたり、不貞の罪と書かれていたりで決め手に欠けた。

また、どんなに調べても、月に還ったかぐや姫がどうなったのかは分からなかった。


ループを重ねるうちに竹取物語を極めすぎて、文学部の古典研究室のリーダーにまで上り詰めた生もあった。

だってかぐや姫に転生した生では、文を書くのも句を謳うのも自分なのだ。

かの時代の情緒表現の機微について、現代の誰より詳しくて当たり前と言える。


幸い、ループしている間に蓄積された知識や技術は次の生にもキャリーオーバーができたので、勿論フル活用した。


今の所、月に還るのは私にとってバッドエンドである。生殺与奪の権利を、あんな女王に握られてたんじゃ何度生まれ変わっても長生きできない。


バッドエンド回避のために、現代の生では調べまくって対策を練り、平安の生では実行に移してシナリオを変えてみた。


例えば、下界でチヤホヤされて暮らすことが許せない女王が満足できるよう、美容専門学校で特殊メイク技術を学び、平安の生でわざと不細工メイクの汚姫様になり、人々に邪険にされてみた。

しかし女王は根本的にかぐや姫が嫌いなので、その程度では全然許されなかった。


次は鍵のクオリティがミソだ!と思い、工業高校に入り金型製作を学んで、絶対に開けられない精巧な鍵を作れるようになった。

満を持して平安に転生し、全力で扉の鍵を強固にした。しかし使者の念力であっけなく解錠された。


他の生では、私の居場所が分からなければ良いのではと、帝に媚びてハートをがっちり掴み、彼に眠っていたヤンデレ属性を引き出した。

屋敷から離れた帝秘密の場所に監禁して貰ったのだが、月の使者の念力で探知され、結局月へ連行されてしまった。


他にも考えうる幾多の対策を毎世試し続けた。

だけど月に連れて行かれたら、天刑にかこつけて女王に殺される。

現代では、すべからく交通事故に遭う。


結果、文字通り血の滲む努力をして、途中経過はいくらでも変えられたが、最終的な結末――20歳で死ぬ――は残念ながら変えられなかった。



死ぬ時はどの生でも痛いし、努力が報われないのも辛い。

私の魂はもしかしてかぐや姫の魂と同化しているのだろうか。

もしこれがかぐや姫に対する罰なら、もう良いんじゃないか?と思う。

かぐや姫がどんな罪を犯したか知らないが、17回も死んだんだから許されても良いんじゃないだろうか。


いい加減、安らかに眠らせてくれ!あるいは天寿を全うさせてくれとアスファルトに溜まる血の中で心から願った17回目の死に際。


目覚めたくなかったのに、無情にもいつもの竹藪で18回目の目覚めを得た私は、万策尽きたとばかりに全てを諦めた。



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