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第10話✶時の帝

例の騒ぎが落ち着いて数日が過ぎた頃、おじいさんが真っ青な顔で駆けてきた。


「かっ  かっ  かぐや…っ!!」


屋敷中がばたばたと騒がしくなったから、只事ではないのだろう。


「おじいさん、もうお年なのですから、転ばないよう気をつけて下さいな」


「あ、あぁ、そうだな… かぐやはわしを心配してくれるのか、優しいな…  ではない!」


デレーとしかけて表情を引き締めたおじいさんは本題に入る。


「何と、内侍の勅使が来られたのじゃっ!」


内侍の勅使は、帝直属の部下で、名を中臣なかとみの房子と言う。


「翁の息女のかぐや姫の容姿が大変美しいと評判となっています。主上より、大勢の者が結婚を申し込んでもその身を滅ぼしてしまうかぐや姫とはどれほどの女性か見て参れとのご命令を頂きました」


と話したらしい。

帝の遣いは帝そのもののような扱いである。

だからすぐ、畏まりました直ちにそのように伝えて連れて来ます!となり、今に至るようだ。


「かぐや姫や、はやく勅使に対面されるように」


と接客していたおばあさんまで急かしに来た。


「嫌です。私は別に、そこまで美しい見た目でもありませんし、何故わざわざ勅使にお目にかからねばなりませんの。

嫌なものは嫌です」


私は例年通りに応じない。

2人はまた姫の強情張りが…と顔色を白くして説得を始めた。


だがしかし、勅使が何と文句を言い、おじいさんとおばあさんがどんなに機嫌をとっても私は断固として首を縦に振らなかった。

内侍の房子はいたく立腹して帰ることになる。



ぷりぷりしながら帰路につく房子の背を見送りながら、とうとうこの話の所に来たのかと思った。


現代では誰からも告白されたことがない。

輝夜は全然モテない子だった。

こちらの生では常時モテ期で、特に例の5人に帝まで加わるこの数年間は空前絶後のモテ期だ。

かぐや姫の魅力はすさまじい。

そして、モテ期最後の砦ともいえるのが、この帝の登場だ。


予想通り、後日、帝から宮に召し上げられる話が来た。要は後宮に入れという命令だ。

おじいさんとおばあさんに言うことを聞くよう泣きつかれるが、それならば死にますと言って譲らない私を、最終的には諦めたようだった。



ここまで思い通りにならない私に興味を惹かれる帝は、おじいさんに頼んでかぐや姫との偶然ばったり鉢合わせ作戦を実行する。


それが今日なのだろう、普段行かない森に散歩と称して連れ出され、いつもは絶対傍を離れないのに今は1人になっている。


私は切り株に腰を下ろし、仕方なく仕組まれた逢瀬を待つことにした。そこでふと、帝ってどんな人だったっけ?と考えてみた。

偶数生では毎世に会っているはずなのに、そこだけ記憶が曖昧で思い出せない。


それもそのはず、帝とはここで会って一目惚れをされた後の3年間は文通なのだ。

顔など覚えていないのは当たり前だった。


ガサッ



近くの藪が動き、反射的に身を固くする。

熊か猪かと思ってそろりと首を動かせば、雅な衣に身を包む、美しい男性が立っていた。



そうだった、帝ってこんな顔――…



数秒見つめ合う。

肌は陶器のように白く、黙っていたら景色に溶け込んでそのまま消えてしまいそうな儚い雰囲気。

木漏れ日に照らされ、茶色がかった髪は金色に見える。

垂れ目がちで優しい瞳の彼は、私が知る頃より少し幼くて、泣きそうな顔をしていた。




「  瑠珂…? 」





 

「ねえ、かぐや姫が月に連れて行かれないよう、おじいさんとおばあさんは帝に頼みに行くじゃん」


「うん、行くね」


現代の生でいつも瑠珂るかの屋敷に入り浸っていた私は、竹取物語談義を始めた。


「2000人もの軍勢を貸してくれるんだけど、どの本を見ても帝本人はいないんだよねー」


「… うん」


「帝って、かぐや姫のことが好きだったんだよね。

なら普通、自分が守るぜ!てならない?」


「あぁ、自分で守りたいだろうね」


「かぐや姫は、泣いて別れを惜しむおじいさんとおばあさんにはお手紙を渡すだけなのに、帝には手紙に加えて不死の薬を用意して託してるの、ほらここ」


手元にあるかぐや姫の訳書をめくりながら、該当の部分を指す。


月の使者がいよいよ自分を連れて行こうとした時に、かぐや姫は句を詠んで帝への手紙と不死の薬の壺をとうの中将に託す。


『今ついに、この世界から離れて月へ帰らなければならなくなり、天の羽衣を着る時に、貴方のことを心深く想う気持ちが湧いてまいります』


『宮仕えをお断り申し上げたのも、このような事情ゆえでございました。礼を弁えぬ者として貴方の心に残ってしまうことが心残りです…』


この句から、かぐや姫が帝のことを本当は好ましく思い、我儘な娘とは思われたくなかった、実は傍にいたいと思っていたことが伝わってくる。


また、この手紙と薬を頭の中将に″託した″ことから、その場に帝はいなかったことも想像できた。


「好きな女ひとり守れないで国を護るなんてできるのかしら」


私がそう言った時、瑠珂は、


「本当にその通りだね」


と悲しそうに呟いていた。


「しかも、せっかくかぐや姫がくれたお手紙も薬も燃やしちゃうことにしたんだよね。

それも、自分でやらずにまた別の勅使に頼んでる」


どうしてもかぐや姫側に感情移入してしまう私は、帝のそんな態度が歯痒くて仕方ない。

かぐや姫は5人の金持ちには見向きもせず、無理難題を押し付けて諦めさせたのに、帝にはそんなことをひとつもしなかった。


やっぱり帝のことは、少なくとも他の男よりは信頼していたのだと思う。3年間の文通は、色恋に全く興味のなかったかぐや姫に情を湧かせたのだ。

あの最後の夜に一緒にいてくれたら、どんなに心強かっただろう。

得体の知れない者(月の使者)と、国の主上である帝を対峙させるなんて家臣や家族が止めるのは道理だ。

だけど、止められたって振り切って欲しかった。


そんな帝を責めることはせず、最後に手紙と薬を託したかぐや姫。

同じ想いの深さを返して欲しいと思うのは、それこそ無理難題なのだろうか。



何となく面白くなくてあれこれと書籍に文句を言う私を、瑠珂は黙って見つめていた。



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