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「第八話」罪悪感

 客足が滞って来たところで、私とバンはその場から立ち去った。沢山の銅貨と、数枚の銀貨を袋いっぱいに詰めて。


「ほら、言ったでしょ? 泥棒なんてしなくてもこんなにお金を稼げた!」

「……うん」


 先程から、バンの元気がない。下を向いたまま、ただただ銅貨の入った袋を握りしめていた。その様子からは暗い感情……罪悪感のようなものが、滲み出ていた。


「……まぁ、私みたいにやれとまでは言わないけどさ」


 その顔を見るのが辛くて、どうにかしたくて。私はいつか……ゼファーに言われた言葉を、自分なりに噛み砕いて送ってみる。


「人に平気で迷惑をかけるような人間だけには、ならないでね」


 バンはとても複雑な顔をしていた。

 正直私は、ダメなものはダメだと思う。だからこの子がやったことは絶対に駄目だし、これからもやってはいけない。でも生きるためには仕方ない……そうするしか無い人がいるということも、この街に来てから現実味を帯びてきているのも事実だった。


 なら、せめて。


「心の中で、ごめんなさいを言える……ちょっとでもいいから申し訳ないって心を傷められるような、そんな心持ちならまぁ……まだいいと私は思うよ」

「……」


 バンは更に俯いた。抑えていた何かは嗚咽として溢れ出し、そのまま目元を抑えることもなく……ボロボロ、ボロボロと……大粒の涙を両目から滴らせていた。私はそんなバンを見て、心底安心した。ここで彼が素直に警告を受け入れていなければ、きっと悲しい別れ方をしただろうから。


 ああよかった、この子にちゃんとした罪悪感があって。


「アリーシャさん……」

「よし、それじゃあまずは腹ごしらえを……」

「ごめんなさい」


 え? 突然の謝罪に、私の思考が凍りつく。──背後の、気配。振り向くとそこには、刃物で今まさに襲いかかってこようとしている男がいた。


「っ!」


 魔力を練り上げ、拳を突き出す。ナイフではなく手首を狙った一撃は、そのまま凶器をはたき落とす。すかさず膝蹴りを叩き込むと、巨体の男はぐったりとしたまま倒れ込んだ。


「バン、危ないから下がってて! ここは私が……」


 振り向くと、既にバンは囚われていた。丸刈りの男に襟首を掴まれ、首元にナイフを当てられていた。


「……ごめんなさい」


 バンのその表情には何故か、未だに罪悪感が残っているように見えた。


皆様のおかげでまだランキングに居座れています、本当にありがとうございます!

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