「第六十三話」焦り
(グリシャ視点です)
振り下ろされた攻撃。俺を破壊し、鉄屑へと変えるはずだった一撃。
それは静止していた。立ち塞がる一人の男の体に、突き刺ささったことで。
「……なんでお前が、って顔してるんだろうな」
しかし男の体から血は出ていない。それどころか、痛みに顔を顰めることも苦しげな表情も見せていない……恐らく魔法。あらゆる不条理を捻じ曲げるそれが働いているとしか、思えなかった。
「俺だって、こんなことになるとは思っちゃいなかったさ」
男の足元に伸びる影の形が、変わる。ねじ曲がり、それは地面から浮き出て収束する……渦を巻き、変化し続けるそれに、俺を殺そうとしていた兵士たちは怯み、腰を抜かした。
男はそんな兵士たちに人差し指を向け、一言。
「吹き飛べッ!」
直後、男の影だった何かが放たれる。それは弾丸のように、槍のように……数多の兵士を串刺しにし、次々に地面に伏していく。反応することもできず、盾による防御をも貫くその一撃は、あっという間に形成を逆転させた。
いいや。
重要なのは、そうじゃない。
「……シェバル」
「よう、また会ったな」
無数の兵士臭い続けられるよりも、ヘラヘラと笑うこの男が一人いるほうが何十倍も何百倍も脅威だ。俺とアイツでようやく抑え込めるようなヤツだ、俺一人……しかも満身創痍の状態で、どうにかできるわけがない。
「何しに来た、俺を始末しに来たのか? いいやそんなことはどうでもいい……あいつを、アリーシャはお前がやったのか……!?」
「そのことなんだが、ちょっと不味いことになってな……安心しろ、まだ死んじゃいない」
だが。シェバルはそう言って、厳しい顔をした。
「放っておけば確実に殺される。いいや、殺されるよりももっと不味いことになる」
「何を、言って……」
「助けたいか? アリーシャを」
「……! 当たり前だ!」
「なら、今ここで俺と組め」
シェバルは俺の返事を待つこと無く、俺の身体を担いだ。
「あいつには、死んでもらっちゃ困るんだよ」
その表情には、今までのこいつからは想像もできないほどの怒りと焦りが見えていた。
更新遅くなってごめんなさい