「第五十八話」不安
(グリシャ視点です)
「はぁ、はぁ」
半分成功、といったところだろうか。ひしゃげた腕、煙を吹き出す肩周り……俺は軋む身体を必死に動かしながら、無様に空を駆け回っていた。祈るような気持ちで警戒していたものの、再びあの夥しい量の魔法攻撃は来なかった。どうやら今の攻撃でどうにかできたらしい。──とはいえ、警戒は怠らない。魔力が身体を修復するその時まで、最大限の警戒で周囲を睨む。
(あいつ、上手くやってるかな)
何故か、そればかり考えてしまう。自分が破壊されるかされないかの瀬戸際であろうが、一か八かの賭けに出るその瞬間だろうが、安堵に身を委ねたくなるような今であっても……考えるのは、あのおてんば娘のことだった。
別に、成功とか失敗とかそういうことを心配したりしているわけではない。何となくあいつはどうにかしてくれると思ってるし、どんな風に転んでも絶対に上手くいく。それでも俺は、何度も考えてしまう……衛兵に見つかって騒ぎになってないだろうか? 魔法騎士と鉢合わせになってないだろうか? 考えれば考えるほど、不安はどんどん募っていく。下手をすれば、自分の時よりも俺は不安がっているのかもしれない。
何故?
何故、そんなことになっている?
「……まさか、な」
二度としてたまるか、と。俺のオリジナルは誓ったはずだ。だから俺はそれに従わなければならない……いいや、俺はオリジナルの模倣であって、オリジナル本体ではない。だから許されるのではないだろうか? ──演算結果。情報不足により、保留を勧める。
利口な判断だな、俺は心のなかでそう思った。無論俺もそう思うし、そもそもこんな事を考えている暇はない……俺の今の最優先目標は、ここで敵の注意を引き付けながら耐え続けることなのだから。
「……」
まぁ、でも。
多分彼女なら、自分のやりたいようにやるだろうな……と。なんだか遠い場所にあるものに手を伸ばすような、そんな……できないと分かっていてもやってしまうような、そんな意味のない思考を巡らせてしまう。