「第五十四話」クソッタレな状況
（グリシャ視点です）
やはり、地上からの攻撃が何一つ無い。
いや、武器を持った衛兵は相も変わらず元気に俺を追っているのだが、対空攻撃手段を持たない彼らはほとんど居てもいないようなものだろう。──それを持つ魔法騎士共は、今一体何をしているのだ？
もしかしたらバレているのかもしれない。という不安が脳内をかき乱す。いいやそんなことはない、集中しろ……俺が暴れれば暴れるほど注意は俺の方に向き、アリーシャへの負担が軽くなる。だから周りを見ろ、常に地上からの攻撃に備えるんだ。
──並び立つ、色とりどりの光。
（……あれは）
それは、火であり水であり風であり……確実に、俺に向けられた殺意の権現だった。
（魔法……っ！）
急旋回。体を捻り、一定方向へと全力で加速する。直後に地上から無数の魔法攻撃が放たれ、俺の周囲で炸裂して霧散することを繰り返した。ギリギリで避け、回避先の魔法も避け……その先の魔法もどうにかして避ける。──形勢逆転。とうとう俺は一気に速度を落とし、空中に留まりながら魔法を片っ端からはたき落としていた。
魔法一つ一つの練度は大した事がない。しかし、その量はあまりにも圧倒的だった。こちらの手数よりも、相手の魔法連射のほうが遥かに上回る……一撃でも喰らえば魔力が乱れる。そうなれば墜落は免れない！
「くそっ！」
俺は半ば無理矢理に弾幕の嵐を突破する。とにかく魔法の射程圏外に、そうすれば……少しでも時間があれば体勢を立て直すことができる。──はずだった。地上で煌めく無数の光を、この目で見るまでは。
「別働隊……！」
放たれる魔法の数々。受けることよりも射程外に逃げることを念頭に、俺は加速する。しかしあらゆる方角、どんな高度にも魔法の雨が降り注ぐ。避けても避けてもキリがなく、自分が何処にいるのかも定かではなかった。──攻撃に転じるしか、ない。
両手に魔力を集中させ、回避を交えながら放つ。しかしあまりにも視界が劣悪すぎて、当たったのか外れたのか……攻撃の行方がどうなったのかすら定かではない。
だが、このクソッタレな状況でも……自信を以て言えることが一つだけある。
（このままじゃ……やばい……！）
打開策を演算できないまま、俺はその場しのぎの回避と出鱈目な攻撃を繰り返していた。
