「第五十三話」無責任な言葉
(グリシャ視点です)
「いたぞ! 追え!」
「くそっ……空を飛んでいるだと……!?」
地を這う衛兵たちの悔しそうな声を耳にしながら、俺は空を飛んでいた。外部から取り込んだ魔力を、手足から爆発的な推進力として射出し続けることで、半永久的に空を飛んでいられるのだ。
(さっきはコソコソやんなきゃいけなかったけど、全部バレた今なら思いっきり暴れられる!)
まぁ、こんな暴れられる状況になってしまった事自体が問題なのだが。俺は心の中でアリーシャのおてんばをちょっと毒づいてみるが、そんなことよりも陽動に徹さなければ。
上昇、急降下からの急上昇。街の中を風のように駆け回りながら、俺は目の前の人参に食らいつくしか脳のない衛兵たちを集めていた。俺を追いかけるその集まりは、既に街路をギュウギュウ詰めにしていた。
(ざっと四十人……いや、もうちょいいるな。んじゃ、そろそろやるか……!)
飛行の質を割かない程度に、腕の形を変形させる。照準を衛兵共の集まりに合わせ、心臓部分から魔力を流し込む……圧縮。練り込み練り上げたそれは、掌から勢いよく放たれた。
──轟音。直前に逃げた衛兵以外を吹き飛ばし、残りの衛兵は吹っ飛んできた意識の無い同僚を見て腰が抜けている。逃げる者もいれば、少数ではあるがまだ勇敢に武器を握る者もいた。
その場に留まらず、俺は即座に別の方向へ飛ぶ。──妙だ。何故あちら側は攻撃してこない?
(こんだけ俺が暴れて、あの魔法騎士どもが黙ってるわけがない)
そうじゃないと困る。俺がここでリスクを背負ってでも暴れているのは、アリーシャの正面突破をサポートするためだ。表向きの情報だけなら、圧倒的に俺のほうが危険度が高いはずなのだが……もしや、アリーシャの方を優先した?
いや、そんなわけがない。
例え覚醒前の虹の魔法を持つ彼女であっても、将来的な脅威度で言えば俺のほうが上のはずだ。
(……普通、怖がるんだけどな)
どっかのバカに言われて嬉しかったそのセリフを、頭の中で繰り返し流す。──私の方が、強い。ああ、実に都合が良くて……何も知らないお前だからこそ言える、無責任な言葉。
「……頼んだぞ……!」
それでも、俺は彼女に賭けることにした。
不可能を可能にするような、ゼロとイチでは言い表せない才覚を持った魔法使いに。




