「第五十二話」疾走
(アリーシャ視点です)
周囲をうろつく魔法騎士、衛兵たちに気を配る。
私とグリシャは路地裏の中を移動しながら、これからの作戦を話し合っていた。
「とにかくまずは、あのシェバルってやつを見つけないといけねぇ」
まぁ、話し合っていると言っても私はほとんど聞いてばかりなのだが。
なんだか色々な単語が出てくる。時間差がどうとか、配置がどうとか……私が確認のために聞き直すと、なんだか不機嫌そうに違う違うと言ってくる。正直お説教をされているようで、何を言っているのかさっぱり分からない。
と、いうわけで。
私は私なりの作戦を提案することにした。
「ねぇグリシャ、陽動作戦やろうよ!」
「なんでだよ、リスクのほうが大きくないか?」
「ふっふっふっ、まぁ私の話を聞きたまえ」
私はグリシャの前に飛び出し、その胸の中心を指差す。グリシャはちょっと後ずさってから、怪訝そうな顔で私を見てきた。
「な、なんだよ」
「さっきのあの青い光、グリシャのやつでしょ?」
「……おう」
なんだか嫌そうな顔をしているのは気のせいだろうか? まぁ取り敢えず、このまま引っ込めるにはあまりにも惜しい作戦なので話しておかねば。
「えっとね、まずグリシャが街で大声出しながら逃げ回るじゃん?」
「うん」
「それで沢山の魔法騎士とか衛兵が集まるじゃん? そこで一発どかーんって!」
「へぇ……んで、その後はどうするんだ? あれを撃った後の俺は、しばらく動けなくなるんだよな」
「えっ!? えーっとぉ……どうにかして逃げて!」
「……捨て駒ってことか?」
うん、これはマジギレしてるやつだ。さっきはまだよかったけど、これは普通に怒ってらっしゃる。素直に頭を下げ、真面目に考えているようなポーズを取る……しばらく睨みがきつかったが、くたびれたようなため息をついた。──よし、許された。
「悪いけど、あれを使うのはちょっと勘弁してくれ」
「え〜!? なんでぇ!? めちゃめちゃいいじゃんビーム! ねぇやろうよやろうよ〜!」
「魔法使いだって同じようなもん出せるだろ! なんでってそりゃ……まぁ色々あるんだよ」
「色々って何!? 私がいないところではバンバン使ってたくせに!」
「あーうるせぇ! とにかく無理なものは無理なんだ!」
「分かった!」
「急に納得するじゃん」
唐突に褒められてなんだか嬉しくなる。なんだか少し呆れ顔なのが気になるが、まぁ嬉しいので目を瞑るとしよう。
グリシャはしばらく目を泳がせ、やがてため息をついてから言った。
「……まぁ、案外いいかもしれねぇけどな」
「え?」
「うっし、それでいこう。どうせ相手の狙いも、まともに対抗できるのもお前なんだし」
路地裏の壁を登りながら、グリシャが振り返って言う。
「俺がアイツラを引き付ける。そのうちに、お前はシェバルをぶっ飛ばせ」
「……任せて!」
グリシャは頷き、そのまま空から飛び出す。すぐさま外をうろついていた魔法騎士や衛兵が声を上げ、グリシャが飛び去った方向へと走っていく。──周囲には、もう誰もいなかった。
私は路地裏から飛び出し、走る。グリシャが跳んでいった方向とは真逆……一刻も早く、逃げ道を塞ぐ結界を解除するために。あのムカつくおっさんの顔面を、ぶん殴るために。




