「第五十一話」命令
(ヴァルク視点です)
決して慢心などではないが、私は自分の実力がそこそこに通じるものだということを知っていた。自分の何倍も大きな魔物を片手でねじ伏せ、また、位の高い魔法使いとしての実力や知識もあるはずだった。──まさか、ここまで酷い敗北を味わうことになるとは。
「……」
体中が痛い。治ってはいるものの、それに伴う痛みが凄まじかった……今まで喰らったことのない魔法であり、もう喰らいたくないと思ってしまうような攻撃だった。
突然消えたかと思えばすぐに現れたり、攻撃しても痛がる素振りも血の一滴すら流さない……当たってはいた、手応えもあった。なのに、効いていなかった。
ほとんど確信に近いような予感が漂う中、それは唐突に的中する。瓦礫がひとりでに動き出し、形を変え……見覚えのありすぎる人間の姿に変わっていったのだ。
その土人形は片膝を着いた私を見て、しばらく何も言わなかった。失望、怒り……それらを自らの中で抑えながら、ため息をついた。
『悪い知らせをせねばなるまい』
「……はっ」
申し訳ない気持ち、ここまでの被害を出した自分自身への怒り……それらを見透かすように、敢えて土人形は淡々と喋っていた。
『城の地下牢獄が破られていたのを確認した。『氷』も溶けていた……この意味が、分かるな?』
やはり、そういうことか。私は自分自身の勘の良さを心底嫌に思った。だが嘆いている時間は無い、私が知りうる限りの情報を伝えなければ。
「先程、それに該当するであろう男と交戦いたしました。見たことも聞いたこともないような術式を扱っていたため、本人で間違いないかと」
『そうか、見つけ次第捕獲しろ。『からくり』の方はどうだった?』
「予想外の邪魔が入り仕留めきれませんでした。しばらくは動けないでしょうが、野放しにしておくわけにもいきません」
『では、貴様が責任を持って破壊しろ』
「はっ」
賜った命令、最後のチャンスを噛み締めながら、私は再び剣を握り立ち上がる。
『ああ、それからもう一つ。赤髪の女を見なかったか?』
「……? 確かに交戦しましたが、脅威になり得るとは思えません。奴がどうかしましたか?」
『見つけ次第殺せ』
「なっ……!?」
聞き返す前に、土人形はただの土に還った。事の真偽を聞くな、お前が知る必要はない……とのことらしい。
「……」
命令だから。そう自分に言い聞かせながら、改めて歩き出す。
蘇った脅威、災いの火種……そして、殺すつもりの無かった子供を殺すために。




