「第四十八話」グリシャの告白
(アリーシャ視点です)
身を潜めるか逃げるか迷った末に、私はとにかく逃げることにした。先程見えた鎧を着込んだ集団、あれは恐らく魔法騎士とかいう奴らだろう。先程のヴァルクとかいう騎士ほどではないが、戦闘になればまずこちらが人数差で負けるだろう。
それに、先程の騒動のお陰で野次馬たちが集まっている。混乱した状況の中で逃げるのは、自分の顔を隠すだけで事足りる……グリシャには非常に申し訳ないが、そこらへんで拾った布袋の中に入ってもらっている。仕方がない、グリシャのこの見た目は……あまりにも目立ってしまうから。
隙を見て、私は路地裏に入った。
「……追手は、来てないね」
私は布袋の中に入ったグリシャの身体を引き摺り出した。ありえない重さ、皮膚が抉れた奥に潜む金属の歪な骨格、これだけボロボロになっていても血の一滴すら流さない……どう考えても、彼が人間には思えなかった。
グリシャは自分の体をジロジロと見てくる私に、敢えて何も言わなかった。ふざけて空気を和ませようと思ったものの、そういう感じじゃあ……ないみたいだ。
「……悪かった」
「えっ」
グリシャのその一言に、私は思わず顔を上げた。壁に背中を預けた彼の半分抉れた顔は、今まで見たことがないぐらいに落ち込んでいた。
「いやっ、別に対したことじゃないよ! 私まだ負けてないから、あのシェバルっているムカつく奴が来なくても勝ってたから!」
「嘘だろ」
「嘘です」
「正直だなおい」
やっぱり嘘は苦手だ。
正直、あそこまで殴り合えたのは奇跡のようなものだった。内包する魔力だけで言えば私なんかよりもずっと上だったし、瞬間的な火力で押しきれているだけに過ぎなかった……まぁ、それもあの意味が分からない不死身みたいな魔法でパーにされたわけなのだが。
(ほんと、あのシェバルってやつ……何者なんだろ)
ある時は変なおじさん、ある時は衛兵に追われる悪いおじさん……そしてあの時は、圧倒的な力でヴァルクを正面からねじ伏せる、闇の魔法使い。──しかも、マーリンの直属。
言動、行動、本人の事情……それら全てが、私に違和感を感じさせる。彼はゼファーの何を知っていて、私に何をさせたかったのだろう?
「……ずっと黙ってたけどさ」
「えっ? あっ、うん」
途中話を聞いてませんでした。なーんて言ったらぶん殴られそうなので言わないでおこう。そんな私の事情もつゆ知らず、グリシャは口を開いた。
「俺、人間じゃないんだ」
「……へー」
結構重要なことを聞き逃してたかもしれない。そう思いながら、私は軽く頷いていた。




