「第四十五話」お前もラッキーだよな
(アリーシャ視点です)
暗闇がそのまま服を着たような男だった。
引き締まった体つき、へらへらとした表情……あれだけ滑稽に見えていた服装も、今となっては不気味さを増幅させるためだけにあるのではないかと思えた。──それほどに、目の前の男はどこか可笑しかった。
──マーリン直属の配下。
──闇の魔法使い。
私はこの禍々しさを知っている。
弱いものでは、ゼファーを石にしたあの呪い。強いものでは、地下で遭遇したマーリンの分身が使っていた魔法の数々。どれもこれも強力で、しかし全く持って理解できず……その欠片すら掴めなかった魔法だ。
「驚いたか?」
男は、いいやシェバルは笑った。おのれの汚い髪を片手でかきあげながら、今も動けない私の方を見ながら。
「いやぁ、俺も驚いたよ。まさか自分が魔法使いで、しかもあのマーリンの部下……しかも直属だ!」
ゲラゲラと笑いながら、シェバルは変わらず話しかけてくる。
初めて会った時のように、なんの遠慮も警戒もなく。
「まぁもう少し早く思い出せてりゃ、お前を助けるなんざチョチョイのちょいだったんだが……お前がまぁまぁ強くて助かったぜ。これも虹の魔法のお陰ってやつか?」
「何が目的なの」
会話の流れを断ち切る。──すると、シェバルが嫌そうな目でこちらを見てきた。いいや、睨みつけてきたのほうが正しい表現かもしれない。
「……俺は仕事があるって、言ったろ?」
シェバルはより一層眉間にしわを寄せ、前かがみになって私を見た。
「それはな、お前を殺す事だったんだ」
「……っ」
「マーリンさんはお前を邪魔に思ってる。だから俺達は、お前を排除するように直接命令されたんだ」
思わず息が詰まった。そりゃ、予想はしていた。マーリンが絡んでいるのであれば、十中八九私に害のある命令だろうと……だが、そうであるならば、この状況は非常に不味い。どうにかしてこの場を切り抜けなければ。
「だがまぁ、お前もラッキーだよなぁ」
「は?」
またもや笑うシェバルの言っている意味が、分からない。
ラッキーとは、どういうことだ?
「まぁ、説明が面倒くせぇから単刀直入に言うんだけどよ」
ニヤリと笑うシェバル。彼は自分が座っているヴァルクに指をさし、こう言った。
「お前、こっち側につけよ」




