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「第四十一話」無傷

(アリーシャ視点です)

 虹を描く徒手空拳、赤く煌めく斬撃。

 剣が振り下ろされれば逸らし、逸らされれば即席の体術。それを軽くあしらった後に放たれる、虹を纏った一撃必殺の拳。しかしそれもまた、再び繰り出される斬撃によって相殺される。


 互角、全くの互角。

 私には分かる。相手が魔法だけではなく、人間が辿り着ける肉体の限界を超越し続けた……人類でも指折りの実力者だということを。ただの騎士でも魔法使いでもない、それらを束ねる立場にあるような、威厳すら感じる事実を。


 だが。

 それは私が引き下がる理由にはならない。


「──せぇいっ!」


 溢れ出る魔力によって、剣速が更に勢いを増す。右から来る一撃を防げば、次の瞬間には左右同時に攻撃が来る。体術なのか斬撃なのか、それすらも反射神経に頼り切りである。──それでも、私は攻撃をやめない。


「どぉぁっ!」


 剣を防ぎ、弾く。力んだ反動で怯んだその一瞬に、右と左の二連撃を叩き込む。弱い左で体制を崩した後に、強い右を真横から叩き込む。固めていた正面以外からの一撃は、青く腫れた顔面に深く突き刺さった。──視覚外の一撃は、確実にヴァルクの脳を揺らした。


「ぐっ……」

「しゃぁっ!」


 一撃に留まらず更に追撃。繰り出される連撃は止まることを知らず、まるで水の流れのごとく繰り出されていく。堅牢な岩が、無数の流水によって打ち砕かれ削れていくかのように……徐々に赤い鎧が削れていく。反撃の暇も、魔法を使う暇も一切与えない。


「だぁっ!」


 ぐらりと揺らいだその鳩尾に、空中で身を捻った回転飛び蹴りを叩き込む。重く、鋭く……何より槍のように突き出された烈脚は、再びヴァルクの身体を吹き飛ばしていく。今度は民家ではなく、広く、長い道の向こう側へ……ゴロゴロ、ゴロゴロと。


「……」


 着地と同時に、私は内心戸惑っていた。

 あれだけ魔法で強化した攻撃を叩き込み続け、たっぷりと体中のあちこちを殴り続けた。だがしかし、全く持って手応えがなかった。いいや、骨が折れたり肉がひしゃげたりする感覚はあった。あの不快な感覚は確かに手の中に残っている……なのに、次に殴る瞬間には、屈強な身体が元通りなのだ。


(どういうこと? 回復系の術式……それなら、魔力より前に体力が尽きるはず)


 この世界において、魔法による回復とは無限ではない。傷ついた身体を直そうとすれば、魔力と同時に体力をも消費する。例えば腕を負傷して治そうとすれば、それは間違いなく大量の魔力と体力を消費する。そして体力を全て使い切ってしまえば、それは即ち死を意味する。


「はぁ、はぁ……」


 息も切れ切れになっている、なのに未だに身体は治り続けている。これでは、魔法の理に反している。──それでも、私は立ち向かわなければならない。


「続きを、しようか」


 ほとんど無傷の状態にまで『治った』ヴァルクを前に、私は再び構えた。

 徐々に追い詰められていることなど、百も承知だった。


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