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「第四十話」お前をぶっ飛ばす

(グリシャ視点です)

 横薙ぎに振るった裏拳と、絶大な魔力を帯びた剣が激突する。拮抗する互いの魔力、膂力……しかしその後姿からは、アリーシャの身体にはほとんど力が入っていなかった。あろうことか、虚を突かれたようなヴァルクの顔がはっきりと見える。


 驚きで力が抜けたその一瞬、アリーシャは一気に剣を弾き返した。乱暴に、力技で……けれども互いの膂力の差を証明する、決定的な証拠となり得る一撃を。


「なっ……!?」


 防御も、回避も、超至近距離の間合いでは間に合わない。剣という武器は間合いの広さにこそ強みがある。だが、この場合においては……身軽な素手のほうが圧倒的有利だった。


「──飛べ」


 周囲の魔力を一瞬で掌握、錬成。練り上げられたそれらは全て拳に収束し、溢れ出る残滓は虹色に揺らめいていた。──誰が声を発するよりも前に、一撃が顔面に叩き込まれる。横薙ぎに振るわれた渾身の打撃はヴァルクの顔を歪ませるだけにとどまらず、そのまま彼を近くの民家へ吹き飛ばしたのだ。


 余りの衝撃に、爆風が巻き起こる。一撃を中心とした風は地面の粉塵を掬い上げ、そのまま空へと舞い上がらせた。


「……は?」


 何だ、今のは。

 あれでは、アリーシャの握った魔力のほうが何倍も上じゃないか。

 俺と戦った時はあんな事できなかったはず……もっとちっぽけで、矮小で……いや、待てよ?


(まさか、本気を出していなかったってことなのか……!?)


 記録していたデータを見直すと、魔力の流れに不自然な箇所があった。不意に彼女の拳へ流れ込まなくなったり、一瞬で出力が下がったり……考えてみれば、不自然なところばかりだった。


「……ぐぉぁああ!」


 民家が吹き飛び、粉塵が舞い上がる。砂埃の向こう側には、鼻と口から血を垂れ流し、頬を真っ赤に腫れさせたヴァルクが立っていた。そこには冷静さの欠片もなく、血の滲んだ眼でアリーシャを睨みつけていた。既に獲物は、俺から彼女に変わってしまっていた。


「……貴様、よくもやったな」


 剣の先端が、赤い雷に包まれていく。やがてそれは剣だけではなく、ヴァルクの体全体を包み込んでいく。それは魔力であり、彼自身の怒りのようにも思えた。


「友だから、助ける。気高く己の正義に準じた貴様の覚悟を、私は……この『赫銀のヴァルク』は最大限尊重する。よって見るがいい、我が赫銀の姿を!」


 鎧が赤く染まる。魔力を帯びて、怪しくも美しい光を放つ。


「名乗れ、魔法使い! 貴様は……何者だ!?」

「私は……」


 その膨大な魔力量、気迫。戦慄こそするものの、そこに恐れは一切ない。


「私は、アリーシャ」


 ただ指をバキバキと鳴らしながら、その拳を強く握り締め……構えた。

 直後、周囲の魔力が二極に分断され、それぞれの配下に着いた。


「お前を、ぶっ飛ばす」


 そこには加減も、配慮も無い。

 あるのはただ、お互いの信条のぶつかり合いだった。


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