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「第三十九話」友達だからだよ

(グリシャ視点です)

 振り下ろされる剣。

 壊されたら、俺はどういう存在になるのだろうか? スクラップ? 鉄くず? まぁ少なくとも、血の一滴さえ流さない異形を人間と呼ぶことは考えられない。俺はそっとまぶたを閉じ、刹那にのみ許された安寧に身を委ねた。


 振り下ろされたトドメの一撃。

 だが、俺はまだ思考を巡らせている。つまりは、ここに在る。


「……アリーシャ」


 恐る恐る目を開けると、そこには風に揺れる赤髪があった。視線を上へ、上へ……その先には、俺がずっと探していたおてんば娘が、なんとも言えない無表情のまま俺を抱きかかえていた。


「ごめんね、遅くなっちゃった。身体、痛いよね」

「いや、大丈夫だけど……そんなことより早く逃げろ! あいつは強い、魔法の練度も身体能力も、お前なんかじゃどうにも……」

「うん、それなら大丈夫」


 無表情、とにかく感情が読めない。まるで中身が入れ替わったかのような、あの天真爛漫な少女からは想像もできないぐらい、感情の起伏が感じられなかった。


「終わったら手当てしてあげるから、ちょっとだけここで待ってて」

「……おう」


 引き止めなければいけないのに、助けなければいけないのに。俺は何故か声を出すことができなかった……演算結果は当然のように『逃がせ』と五月蝿く告げてくるくせに、何故かこのまま、彼女の意思に従うことが自然のように思えた。


 アリーシャは静かに、しかし確実に近づいていく。先程、俺を完全に破壊しようとした、あのヴァルクとかいう化け物じみた騎士に。


「……何だ貴様は」


 ヴァルクは眉を顰めながらも、剣を構える素振りは見せていなかった。どうやら人目でアリーシャとの実力差を見抜き、警戒するほどの相手ではないと判断したらしい。冷静かつ迅速なその判断能力は、機械の俺ですら恐ろしいと思う速さだった。


 対して、アリーシャは答えない。ヴァルクが抱いた当然の疑問に。

 そのまま彼女は歩みを止めず、怯むことなく前に進む。その自信や、進む理由が何処にあるのか……俺には見当もつかない。だが確実なのは、このままでは彼女が奴の間合いに入ってしまうということだ。


「止まれ、止まらないと……私は貴様を斬らねばならない」

「……」

「分かっていないのか……? 私の粛清を邪魔するということは、この国に喧嘩を売るということなのだぞ?」

「……」

「──そうまでして、何故あの『からくり』を助ける!?」


 シビレを切らしたヴァルクの剣が、力強く振るわれる。不可避、高密度の赤い雷のような魔力を纏ったそれは、確実に彼女の命を刈り取るものだった。──対してアリーシャは、拳を握りしめた。そして、小さく言葉を漏らした。


 ──友達だからだよ。









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