「第二十九話」機械の現実逃避
(視点変更があります)
「アリーシャー! おーい! どこだ〜!?」
我ながら何たる失態をしてしまったのだろう。機械仕掛けの脳みその中を流れる電気信号は、いずれも「なんであの時無理矢理にでもあのおてんば娘を取り押さえなかったんだよ」という趣旨のものだった。
「くそっ、どこにもいねぇ……!」
周囲を見渡しても、あの目立つ赤髪はどこにも見当たらない。この街に来る際の準備に手間取ってしまっている間に、彼女は移動したのだろう。あの人柄だ、最悪の場合知らない初対面のおじさんについて行ってしまっているかもしれない。その場合、探すのもその人への対応もかなり面倒くさいものになってしまう。
「……っ、アリーシャ〜!」
移動しながら、とにかく呼びかける。この街で空を飛んで探すわけにも行かないし、なるべく人の範疇に収まる方法で彼女を見つけなければいけない。さっきから頭の中で「成功率ゴミです」とかそういうムカつくユーモアのあるウィンドウが表示されているが、それについては今は目を瞑ろう。
問題は、アリーシャである。
「早く見つけねぇと。早く、早く……!」
あくまで仮説、あくまで万が一を考えての行動。しかし、しかしだ……可能性のほんの一部に過ぎないそれを考えるだけで、俺はたまらなく恐ろしい。彼女がもしも『そう』なのであれば、あっという間に高額の『生け捕り』と書かれた手配書が出回るだろう。この王国だけにとどまらず、下手をすれば世界中に広まってしまう。
罰が当たったのだろうか? 自分だけその真理に辿り着こうと、こっそりと証明をしようとした……その報いが、彼女に向いてしまったのだろうか?
「……ッ!」
急に湧き上がる罪悪感のようななにかは、機械に過ぎない自分を「友達」と呼んでくれた人間の顔と混ざり、溶け合い……ドロドロとした何かとして、頭の中を流れ続けていた。
だが、そこに悲しいとか怒りとか、そういう具体的な感情は無い。分からない。
なぜならそれは人間のみが所有することを許された神の産物であり。
俺はその人間に作られた、ただの人形なのだから。
「クソッタレ……!」
消しても消しても消えない演算結果を振り払うように、俺は大声でその名を叫ぶ。現実逃避に近いような理由で、アリーシャを探して走った。




