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「第二十八話」不審者からの助言

「いい指輪してるじゃねぇか。ああ、すんげぇいい」


 笑い終え、目尻に涙を浮かべながら、男が私の指にはまった指輪を指差してきた。


「あっ、あげないよ!? どれだけ美味しいものくれても、あげないんだから!」

「あ? なんで俺がそんなもん欲しがらなきゃいけねぇんだよ。貰ってくれって言われたとしても、俺だったら絶対に受け取らないね」

「……??」


 何を行っているんだこの人は。いい指輪って言ったよね? なのに、そんなもんって言った? というか、なんで名前も知らない会ったばかりのおっさんに、大好きな人からの誕生日プレゼントを侮辱されなきゃいけないんだ。──そう思うと、めっちゃムカついてきた。


「なんか私に用でもあるの? そうじゃないなら、一発ぶん殴って帰るけど」

「殴ってもいいが、俺は強いぜ? そんじょそこらの魔法使いだろうが戦士だろうが、あっという間に……あー、なんか倒せる」

「はぁ? なんかって何よ」

「知らん、分かんねぇんだよ。魔法使いなのか、それ以外の何かなのか……思い出せねぇんだよ」


 やさぐれた態度、微妙に漂う悪臭……根拠も戦闘方法も思い出せないくせに、自信満々に自分が強いと言い張る意味不明さ。正直、何一つとして私にはこの男が分からない。


 だが、それでも。

 なんとなく、分かることがある。

 こいつ不審者だ。関わらない方がいい。


「……そうですかー」

「おいおい、何処行くんだお前。せっかくシャバに出たんだ……もっと話そうぜ?」

「いやでも私って人気者でこのあと予定があってですね、早く行かないといけないっていうか〜」

「……そうか、なら仕方ねぇか」


 そう言うと、男はその場から立ち上がる。酷く残念そうな、なんだかちょっとだけ申し訳なくなる顔をしていた。


「ここの風景にも飽きた。お前が話し相手になってくれねぇなら、俺は他のとこに行かせてもらうぜ」

「ご勝手に〜」


 舌打ち、ため息。イメージダウン間違い無しの双璧を同時にやってみせたその男は、ゆったりとした足取りで人混みの中へと進んでいく。ああよかった、これでようやく本題に入れる。


「あ、そうそう」


 まるで言い忘れたかのように、忘れ物を取りに来たかのように……そんな何気ない様子で、男は私の方を向いてくる。しょーもないことを言われるだろう、と。適当に聞き流そうと思っていた。


「お前、虹の魔法は早めに覚醒させといたほうがいいぞ」

「──え?」


 待って。呼び止めようとした時には、すでにあの男は雑踏の中に溶け込んでいた。身動きすらまともに取れないその中で、彼を見つけるのは至難の業だろう。


「……待って!」


 もしかしたら私は、とんでもない近道への切符を取り逃してしまうのかもしれない。──私は、人混みの中にその身を投げ込んだ。


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